表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/107

12

「今日ご飯無いからな」


気が済んだ母親は、そう言って部屋から出て行った。

起き上がり母親の手から庇った顔はもちろん、腕や足にも赤い跡が残っていた。

母親が持っていたドレスは途中畳の上に広がっていたが、回収され母と共に消えていた。

部屋に一人、一華だけが残されている。


トン…トン…トン


二階から降りてくる足音がした。

二匹目の鬼は今日は居ない。

階段の方を見ると、兄が立っていた。


兄はちらっと一華を見たが何も言わずに台所へ行った。

いつもならば優しい声をかけ、労り、赤くなった場所を冷やすものを持って来てくれる…。

だが、最近の兄はそれをしない。

逆に母親に気に入られる為に、一華の悪さを口にする様になっていた。


目も虚ろになり始め、笑っている事が少なくなった。

以前は園では溌溂としていたのに、今は…。

園児の中で遊んでいる姿を見なくなり、ずっとどこか隅っこに立ってる。

園では自由きままに過ごしている一華とは、まるで逆だった。


「…」


台所からコップ一杯の牛乳を持って戻って来た。

一華はゆっくり起き上がり、それに手を伸ばそうとしたが、兄はスイッと後ろに下がった。


一華に渡してくれるのでは無かったのか?

不思議に思う一華に、兄は冷たい視線を向けた。

眉間に皺を寄せ、父親に似た顔をする。


「おにいちゃ?」


口の中が痛む。

鉄棒をふざけて舐めた時の様な、変な味もした。


「お願いは?」


牛乳が入ったコップを上に掲げる。

「お預け」の様だ。


「お願いします。って言って」


じゃないとあげない。と、兄は言う。


「お願いします」

「違うでしょ。牛乳をください、お願いします。でしょ」


言ったのにな。と、一華は思いながらも自分で取りに行くには辛く、口の中の変な味を流したかったので、兄の言う通りに言い直した。


「牛乳を下さい。お願いします」

「お辞儀は?」

「え?」

「お辞儀もして」


一華は言われた通りに頭を下げた。


「違うでしょ。ちゃんと起き上がって」


再度言われた通りに痛む体を起こし、頭を下げた。


「もう、何回言わせるの?お辞儀しながら言うの」


どこからこんな意地悪を学んだのか、兄は言う通りにすればするほど注文を増やしていった。

お辞儀をしながらお願いをしても「もっとちゃんと」と言う。


「お願いだからちょうだい。おにいちゃん」


両手を差し出したが、くれない。


「もっとちゃんとお願いして。じゃないとあげない」

「してるじゃん!」


嫌になり始め、声を荒げると兄は自分の口元へコップを持っていき、飲む素振りをする。


もう、諦めようかな。


そう思い始めると、近付ける。

そしてまた、お願いと言えと言う。


「もういい…いらない」


そう言って、自分で取りに行こうとした。


「いらないの?じゃあ、僕が飲むね」


台所へ行く一華の体の前に立ち塞がり、目の前で牛乳を飲む。

兄に怒りが湧いた。

どうしてわざわざこんな事をするのか、一華には分からなかった。

優しかった兄だったのに。


兄を押し退け、一華が冷蔵庫に手を掛けた時、兄が叫んだ。


「あー!!」


ビクッとして、手が固まった。

いったい何だというのか。兄を振り返る。


「おかーさーん!一華が牛乳飲むー」


牛乳を飲んで何が悪いのか。と、思ったが得意げに言いつけようとしている兄を見て、さっき『ご飯無し』だと母親が言った事に関係しているのが分かった。

兄は階段の上で聞いていたのだろう。


「一華!あんたは今日は水だけ!」


違う部屋から母親の怒鳴り声が響いた。


「おにいちゃんが…」


くれたら良かったし、言わなきゃ良い。そう言おうとして止めた。

兄が今までに見た事が無い、意地悪な顔で笑っている。


要らぬ言い返しは…酷い事を呼び寄せる。

今は目の前に居ないあの鬼を…呼び寄せる。


一華は諦めてコップに水を汲み、飲んだ。

変な味は口内から喉へ流れ、マシになったが、どうして兄にこんな事をされるのか分からないのが、胸の奥に重さを残した。


水を飲む一華を見て、ほくそ笑みながら兄が冷蔵庫から牛乳を取り出し、もう一杯飲んだ。


「ぷはぁ…」


さも美味しそうに、満足そうに見せつける兄に、ますます混乱する。

その反面、飲み過ぎて腹を壊せばいいのにと思った。


その一時間後、トイレに駆け込む兄の姿を見て笑えた。


「ざまぁ、みろ」


嫌な事をした奴が嫌な事に遭っている時に言う台詞だと、聞いた言葉が口を吐いて出て来た。

吐き捨てた言葉は、一華の気持ちを少しだけスッキリとさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ