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亜妃は疑念に襲われながらも宮本家の玄関に入ると、階段から丁度祖母が降りてくる途中だった。
夜、宮木の家へ帰宅するのは、亜依に意地悪な祖母との接触を避ける為でもあった。
思わぬ遭遇に亜妃は表情を暗くしたが、祖母は意地悪な薄ら笑いを浮かべた。
そして、亜妃の前に立つと口元に手を添え、立ち止まる。
「何か…御用ですか」
歩を止められた亜妃が、嫌々ながら口を開く。
祖母は冷たい目を向けるだけで、何も話しはしない。
無視をするなら最初から、前に立たなくてもいいモノを。と、思い「何もないなら失礼します」と避けようとした。
「お片付け…ご苦労様」
そう言うと、祖母はふっと鼻で笑う。
片付けとは『一族にとっての不要な者を処理』した事を意味する。
「何の…事でしょう」
思い当たる節が黒子しかないが、祖母の言うそれは、黒子の意味では無さそうだった。
笑顔を浮かべる祖母に、亜妃は先程の疑念との線が繋がった気がした。
「そう言う事ですか…」
湯川は何かしらの理由で一族に『不要』とされたのだ。
祖母に、亜妃は良い様に利用された。
不要な情報を与えられ、必要な情報を与えられない事で。
そしてそれを知らせに、わざわざ自分を待ち構え、帰宅と共に降りて来た。
「お前は私に使われたのだ」と、冷や水を浴びせる為に。
「ふふ」
亜妃は笑う。
騙された。リストに自分の名は無い。
それでも…。
「良いんですよ。一族のお役に立てたのなら」
そう言って意趣返しに、大げさにお辞儀をし、笑顔を浮かべる。
リスト提供者が一人いなくなった所で、一族や乗客に対して影響はないし、救われる子供も居ない。
『復讐を自分でした』と言う自認が無くなるだけだ。
祖母からすればそれが狙いだったのだろうが、亜妃には効かなかった。
寧ろ、身近に居た悪を、自噴する怒りのみで始末した訳では無い。と、救いにも感じた。
浅はかに突っ走り、無関係な者を始末した。
そんな結末よりは、救いがある。
完全な無関係ではないとしても。
亜妃の返答に、祖母は怒りのあまり戦慄いた。
それを隠すかの様に、玄関前から足早に去る。
一族に『何かよく分からない者』が入った事が気に食わないのだろうな。と、亜妃は思いつつ自室へ戻る。
黒子に軽い食事を持って来る様に指示をすると、また、煙草に火を付け白い煙をくゆらせた。
次の日の朝、二体の焼死体が発見された事をニュース番組が告げた。
野次馬や警察車両が集まり騒然とする中、発見された場所が画面に映る。
彼らの拠点は家から程近かった。
そして、その日の夕方にはテレビの画面上部にけたたましい音共に『発見された死体の身元が判明』と緊急ニュースが表示され、『黒崎隆也』の名が点滅し、その一時間後には『田辺敦』名が繰り返し流れた。
身元が早急に割れたのも、家の近くで発見された事も、何ら懸念するべき事でもなく、道すがら警察車両や屯する記者達を眺める。
一見ただの小学生が、関係者であると微塵も思わない大人達。
近所の主婦たちが道に立ち、あれやこれやと囁き合っている横を、見慣れた中学生が会釈をしながら横切ろうとした。
「一華ちゃん」
呼ばれて振り向く相手は一華だ。
「あ…私、買い物行って来るから…」
ぎこちない反応が返って来る。
背が伸びた所為で、目線が同じくらいの高さに在った。
一華との差が縮まるにつれて、悠衣との差が出始めたが、やはり気付かないのだろう。
いつの間にか変わった呼称にも、違和感を持っていない様だった。
「さっきスーパーの横の公園で死体が発見されたらしいから、行っても通れないかも」
もしかすると、ニュースになっていないだけで、発見されているのかも知れなかったが、まだ発見されていない湯川を、一華が発見するのは忍びないと、近付けさせない様にした。
何故かは深く考えていない。
「え!またぁ!?」
一華の驚きに静かに亜希が頷いた。
その頷きに一華は深刻な顔をする。
「今日の晩御飯…どうしよ」
…そんな事か。
亜希はため息を吐いた。
「私、着替えたら友達の所に行くから。ご飯も食べてくるし、一華ちゃんだけご飯家で食べて」
今日、両親は帰って来ない。兄も居ない。
亜希は、自分が食べられる物が出てくる気がしなかった。
「…分かった」
一華に背を向けると、家の中へ亜希は入り服を着替えた。
昨日、悠衣が自分の代わりに居た部屋。
学校に居る悠衣と服を交換していないのに、それも気付かないなんて。
脱いだ服を見下ろし、どれほど自分に関心を持たれていないのか。と、考える。
悠衣と入れ替わるには都合が良いが、どこまで分からないままなのだろうかとも考えた。
「もしかして、年単位で離れたら気が付いたりするのかな…」
引き出しにある自転車の鍵を持つと、部屋を出た。
外に出て、自転車に跨ると近所の人と話し終えた一華とすれ違う。
本当は嫌なくせに。と、両親譲りの外面の良さを発揮する一華を一瞥すると、ペダルを漕ぐ足に力を入れた。




