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かつての師匠と今の主

俺は、立ち上がると大きくため息をついて頭を掻いた。


「やるのはいいですよ。でも、その代わりこっちは普通に魔術ありでいいですよね?」


俺はそう言うと、黒く輝く大剣を取り出す。

ルミナの師匠というくらいなのだ。絶対に強いことは想像するのは簡単だ。

ルミナとの単純な剣術の練習ですらもいまだにルミナに勝てていない俺が、このユウリという男に勝てるはずがない。

というか、そもそもまともな戦いになるすらも怪しい。

それなら、自身の持っている闇属性の魔術を使った上での戦いである程度こちらの土俵で戦わせて欲しい。


「構わないですよ!むしろ、その方が私としては嬉しいですね!」


…声がデカいな。

興奮すると声がデカくなるタイプなのだろうか。

元からデカい声がさらにデカくなった気がする。


「その、大丈夫ですか?ユウリ殿、剣様はその剣術の腕はお世辞にも強いとは言えないのですが…。」


ルミナがユウリに言う。

ストレートに言うんだな。せめて、何かしら擁護してくれるようなことを言って欲しい。


「構いませんよ。ただ、私としてはこの少年と戦ってみたいだけですので。」


そう言うと、ユウリは持っていた日本刀を鞘から抜いた。

俺もそれに合わせて大剣を構える。

先程、固有の魔術は持っていないと言っていた。となると、ルミナのような武術一辺倒の戦い方なのだろうか。

ルミナの師匠というわけだから、ルミナがよく使うような武具も多用してくるような気もする。


そんなことを考えていると、先にユウリの方が動き出した。

右手に日本刀を左手にはその鞘を持っていた。

ルミナは全くしない戦い方に思えた。

俺は、“退魔の剣”を握っている手に力を込める。

そして、全身に魔力を覆った。

基本は防戦で、カウンター主体で戦うと決めていた。

というか、ルミナと戦う時はそれが一番勝率が高いのはほぼ毎日のようにしていた日課のおかげで分かっていた。


「なるほど、その魔力で攻撃を跳ね返すのですね!」


ユウリが俺の懐に潜り込むと、刀を振り上げる。

俺はその刀の軌道に自身の大剣を合わせる。

刀身にユウリの放った一撃が激突瞬間だった。


「…くッ!!!」


俺は大剣を握っていた右手が強烈な一撃に耐え切れなかった。

そして、勢いを吸収しきれずに右手が後方に持っていかれた。


「カウンター主体の相手にはパワーで押し切るのが一番ですよ!」


まるで教師のように指導を行いながらの余裕を見せていた。

ルミナの師匠というだけあって、動きはルミナとほぼ同じだった。

というか、ルミナの方がこの動きを真似ているといった言い方の方が正しいのかもしれない。

なまじ、ルミナの普段の動きに慣れているせいでユウリの動きに全くついていけずに防戦一方になっている。

ルミナの動きよりも洗練されて、さらにスピードもパワーもルミナを遥かに上回っていた。

いや、単純なスピードだけならルミナの方が早く、そしてパワーもルミナの方が上かもしれない。

だが、それを覆すレベルの技術の高さを見せつけられた。


「…ハァ、ハァ。」


俺は何とかユウリの怒涛の攻撃を抜けると、距離を取って呼吸を整えようとする。

まだ、体を覆っている魔力のお陰でカウンターが発動しているからダメージは少ないとはいえ、ユウリの強烈な一撃を受け続けたことにより蓄積されたダメージが徐々に響いている気がする。


「なるほど、ルミナ嬢からよく教えを受けているのが分かりますな。基本は一通り出来ていますね。」


涼しい表情のユウリが肩で息をしている俺に言う。

この状況で褒められても何も嬉しくない。

ルミナが心配そうな表情でこちらを見てくるのもどこかムカつく。

俺が絶対に勝てないのが分かっているから、せめて怪我はするなと言いたげな表情だ。

俺はユウリに対して何も返事をしないで、再び大剣を構える。

そして、今度はこちらからだとユウリとの距離を詰めようとする。


「いいですね、やはり攻めてばかりでは面白くありませんからな!」


ユウリが来いとばかりに刀を構える。

俺は先程、ユウリがしてきたように懐に潜り込み低い姿勢から大剣を振り上げる。

そして、そのまま後方へ、横へと攻める場所を構えてユウリに対して攻撃を加える。

しかし、どれも涼しい表情で攻撃を防がれる。


「懐かしいですな、ルミナ嬢に教えていた時を思い出す。」


俺の攻撃を防ぎながら、ユウリが嬉しそうに言う。

恐らく、かなり隙は出来ている気がする。

俺は、背後に回ってユウリに対して大剣を振り下ろす。

ユウリが後ろに刀を置いて、その一撃を防ごうとする。

その瞬間、俺は気配を完全に消し去る。

恐らく、ここまで意識をこちらに向けているのだ。少なくとも、一撃くらいは食らわせれるはずだ。

ユウリが刀を背中越しに構えたのを確認すると、気配を消したままユウリの前に現れ、姿勢を再び低くした。


「なるほど、これは初めて見ますね!闇属性の魔術によるものですか?」


ニコリと笑みを浮かべたユウリが俺を見下ろしながら言う。

気配は完全に消したはずだ。

ルミナのような特殊な体質でもないのだから、バレていないはずだ。

ユウリは背中越しに構えていた刀をゆっくりと、俺が振り上げようとした場所に構え直す。


ガキンッ!!!


金属と金属が当たる音がする。

そして、ユウリはそのままの流れで俺の持っていた大剣を自身の刀で軽くあしらう。

俺の後方に、“退魔の剣”が宙を舞い地面に突き刺さっていた。

全く、見えなかった。


「いや、ルミナ嬢から聞いていた話だと1カ月かそこらしか本格的な剣術の指導を受けていないのにここまで戦えるのは十分に称賛に値しますよ。」


ユウリが先程見せてきた、教師のような口調で俺に言う。


「この状況でそれ言われても馬鹿にされているようにしか思えないんですけど…。」


俺は不貞腐れたように言う。

一応、カウンターは何度か当てたはずなのにほとんど傷もついていない。

圧倒的な力の差があるのは明らかだった。

だが、それと同時にどこか違和感もあった。

その違和感の正体も分からないし、それなりに負けた悔しさもあったので特に深くは考えれなかったが…。


「大丈夫ですか?」


ルミナが俺に駆け寄ってくる。


「いやいや、ルミナ嬢。あなたが付き人として仕えようと思っているだけはありますね。私がいない間に、立派な人を見つけましたね。」


ユウリがルミナに言う。

それを聞くと、ルミナが嬉しそうな顔を見せた。


「はい!一応、ユウリ殿から言われた技術は全て伝えようとはしているつもりです!」


それを聞くと、ユウリがルミナに柔和な笑みを浮かべた。

どこからどう見ても、久しぶりに再会できた師弟関係の素晴らしい絵面だと思う。

でも、何だろうかこの違和感。

ユウリの所々に見える表情の裏側にどこか何かを感じてしまう。

俺がひねくれているからか。それとも、それなりに仲良くしている女の子が初対面の男と仲良くしていることから来る嫉妬とかそういうモノなのだろうか。

それだとするなら、凄く嫌だな…。

性格の悪い人間みたいじゃないか、まるで自分が。


「その、大丈夫ですか?凄く、険しい表情をしていますけど…。」


ルミナが俺に言う声が聞こえた。

俺は、ハッと我に返った。


「いや、大丈夫だよ。というか、やっぱり凄く強いね。ルミナちゃんの師匠の人。戦い方は見たことある感じなのに全く動きについていけなかったよ。」


俺はルミナに笑顔を見せて言う。


「はい、私の師匠ですから!」


ルミナが先程と同様に嬉しそうな表情を見せる。

そうだ、大丈夫なはずだ。

ルミナの師匠なんだ、悪い人のはずがない。

俺は脳裏に浮かんだ考えを振り払うようにした。


「しかし、ルミナ嬢。この刀をハク様から受け取ったということは何度か任務にも出られているのですか?」


ふと思い出したかのようにユウリが尋ねる。


「いえ、単独での任務はまだです。まあ、今はサタン様の日本での任務に同行しているのもありますけど。中々、私の経歴だと単独での任務を任されにくいみたいで…。」


ルミナが少し落ち込みながら答える。


「なるほど、でしたら私もまだ数日はこちらにいる予定ですので。その刀の使い方を含めて教えられる範囲で指導をしてあげましょう。」


「本当ですか!私もまだユウリ殿から色々教えてもらうことはたくさん残っていたと思うので嬉しいです!」


ルミナが嬉しそうに言う。

どうやら、これから数日は俺はいなくても良さそうだなと思った。

サタンの話でも当分は異変が起きそうな雰囲気もなさそうだ、という話も聞いていた。

久しぶりに普通の日常生活に戻るのも悪くない、と思った。


「…もしよかったら、剣様もどうですか?」


ルミナが立ちあがった俺に尋ねる。

俺はルミナの方を見る。


「いや、俺はいいかな。数10年ぶりに再会できたんでしょ?だったら、その邪魔をする気はないよ。」


俺はルミナに答える。

そして、俺はユウリの方を見る。

先程覚えた違和感を振り払うためにである。

しかし、あの違和感は何だったのだろうか。

それこそ、ユウリからの攻撃を受けている時からそれは感じていた。

何となくだが、闇能力の魔術による魔力が反応しているような気がしたのだ。

何か、俺はもちろんルミナにすら隠していることがこの男にはあるんだと警告しているかのような。


「そうですか、剣殿も是非ご一緒にと思ったのですが…。」


「いや、先程も言ったけど俺は大丈夫ですよ。せっかくの師弟同士で積もる話もあるでしょうから。」


俺はユウリに言う。


「では、お言葉に甘えさせていただきます。時間がある時には是非、剣殿とも色々とお話をしたいものです。」


「俺はいいかな。何だか、今の戦いでボロボロにされすぎて萎えちゃったので。」


俺は苦笑いを浮かべながら、ユウリに答える。

隣では、ルミナが木刀やら何やらを色々と片付けていた。

その仕草にはどこか嬉しさが感じられていた。

ここに来る途中の会話で今年はお墓参りをしなくて済む、という話をしていたことを思い出した。


「もう遅い時間ですから、今日は帰りましょうか!」


ルミナは片付けを終えると、ピョンと飛び上がった。

そして、ユウリに帰ろうと手招きをしていた。

俺は、それを見ると並んで歩くルミナとユウリの後ろを歩いて自宅へと帰った。

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