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唐突な誘い

夕飯を食べ終わった俺は自室でくつろいでいた。

くつろぐ、と言ってもいつも通りサタンが布団の上で寝転んでいるのとここ数日はすっかり部屋の住人と化していたルルも俺が座っている椅子の近くの床に腰を下ろしてゲームをしているので1人というわけではないが…。


「今日はルミナとの日課は行かないのか?」


サタンがふと漫画を読みながら尋ねる。


「今日は、例のあの人もいるから俺が行く必要ないかなって。せっかくの再会なんだから水を差すのも悪いだろ。」


結局、ルミナが居候している俺の祖父母の家で数日泊まることが決まった。

数10年ぶりの再会ということで積もる話もあるだろうから俺が入るのも何か悪いかな、という気がする。


「ライバル出現というわけか。」


サタンがニヤニヤしながら俺に言う。

正直、言いたいことの意味は分かるがライバルでも何でもないだろと言いたい。

俺はルミナに対して特に恋愛感情もないのだし、ルミナが俺に対しての感情も同じだろう。


「まあでも、あの声のデカさで居候先の剣さんのお爺さんとお婆さんの耳に悪影響を及ぼさないか心配ですね。」


ポチポチと操作をしながらルルが言う。


「流石に声は抑えてくれるだろう。というか、何であんな明るい人が師匠でルミナちゃんはコミュ障になっているんだよってツッコみたいけどしちゃいけないんだろうな。」


「それは、私も思いましたけど気にするだけ無意味な気がしますよ。」


ルルが俺に言い返す。


「だが、ルル的にはいいことじゃないのか?」


サタンが先程からのニヤニヤした表情を変えないまま、ルルに尋ねる。


「何の話やら?私からはノーコメントでお願いします。」


ルルがサタンを少し睨みながら答える。

そんな、いつも通りの夕飯後の日常。

その時だった。家のインターフォンが鳴る音がした。


「噂をすればだな。」


サタンがニヤリと笑みを浮かべて俺に言う。

俺は首をすくめる。


「ルミナちゃんが来てるわよ!」


1階から母の声がする。

どうやら、サタンの予想が当たったらしい。そうなると、あのユウリと呼んでいた男もいるのだろう。


「ちょっと、行ってくる。」


俺はそう言うと、立ち上がり自室から出て行った。

階段を駆け下りて、玄関の前に立つとドアを開けた。

目の前にはルミナとこちらも予想通りとユウリが立っていた。


「今からいつもの日課をしようと思ったのですが、剣様がまだ家にいたので呼びに来ました。」


ルミナが玄関から出て来た俺に言う。


「別に行くのは構わないけど、ユウリさんと2人で行かなくていいの?何か邪魔かなと思ってただけなんだけど…。」


「私は別に特にそんなことは思っていませんが。むしろ、剣様と毎日している日課を見たいとユウリ殿から言われたので。」


ニコリと笑みを浮かべて、ルミナが俺に答える。


「じゃあ、行くか。俺としては、師匠と弟子で色々と思い出に浸った方がいいかと思っていただけだから。」


俺はそう言うと、ユウリの方を見た。


「全く、お構いなく!むしろ、私としてはルミナ嬢の成長を見たいので是非一緒に!」


「あっ、もう少し声抑えてもらって大丈夫です。暗くなって、近所迷惑とかありそうなんで…。」


俺は、耳を押さえながらユウリに言った。

本当に声がデカいな、と改めて思った。


「それは、すまない!では、行きましょうか!」


先程よりは少し声を抑えたユウリがそう言うと、俺はルミナとユウリが歩く後ろをついていった。

2人が並んで昔の事とかを楽しそうに話している背中を見ながら、俺は何だかなぁという気持ちだった。

別に、ルミナに対して何か特別な感情があるわけでもないのにどこかモヤモヤとするような気持ちがある。

知り合いの女性が知らない男と仲良くしてるとどこか邪魔したくなってしまうあの感覚に似ている気がする。

サタン辺りに弄られそうな気がするので黙っておこう。

というか、先程の会話からすでにどこか勘づいてそうで数日くらいは何か言ってきそうな気がする。


「剣殿はそういえば、ルミナ嬢とはもう付き人の儀式はされたのですか?」


ふと思い出したかのようにユウリが俺の方を振り向いて来て尋ねてくる。

儀式?あまり記憶にないが、ハクと初めて会った時の話の事だろうか。


「まだ、正式にはしていないのです。剣様が自分はそんなのにはならない、と言い続けていてお母さまもならまだしなくてもいいだろうと言っていて。」


ルミナが不満そうな表情で俺に向かって言う。

実際、急に付き人だの何だの話をされたのだから当然だろう、と。

別にそんなモノになりたいから、あの時にルミナと共に戦ったわけではないのだから。


「だって、一般人の俺からしたら魔術側の事情なんて知ったこっちゃないんだから当然だろ。」


俺は首をすくめて、ルミナに言い返す。

ルミナがプイっと頬を膨らませて顔を背けた。


「ハハハ、なるほど。いや、まあそれは当然でしょうな。何せ、ランスフォード家の伝統でしかないのでしょうから。」


だいぶ声を落とした笑いをしながら、ユウリが言う。


「それこそ、ユウリさんだっけ?ようやく再会出来たんだからあなたがなればいいんじゃないんですか?」


俺はいつもの場所へ歩きながら言う。


「それはまた話が違うのです。」


「同じようなモノだろ…。」


「違うのです。私の問題なのです。」


ルミナが心外だとばかりに言い返す。

何が違うのか全く分からないが、俺からしたらいい迷惑だと思う。

というか、そんな個人の感覚の問題で俺を巻き込まないで欲しい。


「着きました。ここがいつも日課をしている場所です!」


ルミナが少しだけ嬉しそうな声で、ユウリに言う。


「ほう、これは中々に広い場所ですな。」


ユウリも周囲を見渡すと、ルミナに言う。

俺は、ルミナの刀2本を取り出す。


「はい、いつもの。」


俺はそれをルミナに向かって投げて渡す。

ルミナはそれを受け取ると軽く刀の状態をチェックする。


「おー、ついに2本の刀を頂いたのですね。」


ユウリが刀を見ながら、ルミナに言う。


「はい!お母さまから数週間前にですけど。」


ルミナもユウリに嬉しそうに答える。

そして、ユウリに2本の刀を渡す。

ユウリは受け取ると、鞘から刀を抜いて刀身を眺めた。


「相変わらず、素晴らしい刀ですな。」


そう言うと、まじまじと見つめていた。


「そんなに大層な代物なのか?この刀って。」


俺はルミナに尋ねる。


「はい、以前にも言ったかもしれないですけどかなり強力な魔術が刻み込まれている刀なんですよ。こっちの方は特にそういうモノはない刀ですけどね。ランスフォード家の初代の当主が持っていた刀なんて言われているので残されているだけですけど。」


「そんな話初めて聞いた。」


「そうでしたか!?てっきり、言っていたかと思っていました。」


そう言うと、ルミナは初めて会った時から持っていた刀の鞘を抜き構える。

そして、もう恒例の光景となっている素振りが始まった。

初めてここに来た時から、まさか日課となりほぼ毎日のようにこれを見ることになるとは初対面の頃から考えると想像出来なかった。


「10年近く、見れませんでしたがかなり洗練されてきましたね。」


ユウリがルミナの素振りを見ると、感想を述べた。

そういえば、師匠という立場だから幼い頃からこれを見ていたのか。


「これを教えたのはあなたなの?」


俺は地面に腰を下ろして、ルミナの素振りを見ながらユウリに尋ねた。


「そうですね。まあ、幼い頃の話ですのでここまで上達はしていませんでしたが。」


「ユウリ殿は魔術を持たない方なんです。だから、武器の扱いに特化していましてね。魔力すらない私を見かねて色々と教えてくれたのです。」


ルミナが懐かしそうに言う。


「いやいや、確かに魔力はないですがその代わりに身体能力は常人をはるかに超えたモノを持っていた。おかげで、私の方もスムーズに教えられましたよ。」


そう言うと、ガハハとユウリが笑い出した。

まだ、外だからいいがやはり声が大きいなと思った。

もう、こっちがこれに慣れないといけないのかもしれない。


「そういえば、今までこのペンダントを付けていたイメージなかったけど何で急に付けてたの?今日は。」


今日はずっと、胸にペンダントを付けているなと思った。

そもそも、このペンダントを付けていたのも初めて見たような気がする。


「この時期になると、毎年付けているだけですよ。そろそろ、例の転送事件があった時期ですから。」


「そうか、もうそんな時期でしたか。いやー、すっかり忘れていました!」


ユウリはうっかり、といった表情をすると再び高らかに笑った。


「命日的な感じなの?」


「そうですね。もう少ししたら、イギリスの方にあるランスフォード家のお墓に花を添えるのですが今年はそれをしなくて良さそうです。」


そう言うと、ニコリと笑ってユウリを見た。


「確かに、生きている自分自身のお墓があるのは縁起が悪いですな!いや、それはそれで見てみたいので是非連れて行ってもらいましょうか!」


そう言うと、ユウリが俺の方に視線を向けて来た。


「そういえば、剣殿も一緒にルミナ嬢と鍛錬をされていると聞きましたが。」


「まあ、ルミナちゃんほどじゃないけどそれなりには。一応、最低限の自分で戦う力は必要だと思っていますし…。」


俺はユウリに答える。


「いや、ルミナ嬢から世にも珍しい闇属性の魔術を持っていると話を聞きましてな。是非、この目で見てみたいと思ったのですよ。」


「そんな、大層なモノじゃないですよ。そもそも、全然扱えていないですし。多分、あなたの方が絶対に強いと思いますよ。」


俺は、ユウリに言う。

何だか、この後の流れが読めて来たので断っておこうと思った。

そんなことを思っていると、ユウリが自身の刀を取り出した。

サタンや俺が持っているような大剣ではなく、ルミナが使っているような日本刀だった。


「このユウリ・フェルナンデスと一度稽古をしてもらえないでしょうか?」


「嫌ですよ。俺なんて、全然強いわけではないですし。それに、そういうの得意じゃないので…。」


予想通りの展開になってしまい、俺はユウリに断る。


「それに、私としてもルミナ嬢が付き人になるとまで決めた方の実力を見たいだけです。」


「何度も言いますけど、やらないです!」


俺は首を横に振って、拒絶した。


「…あの、剣様。ユウリ殿は一度こう言い出すと恐らく引かない方なので…。お願い出来ませんか…。」


ルミナが申し訳なさそうに俺に言う。

ユウリはもうすでに準備を始めていた。

俺は、ルミナに目線で嫌だという雰囲気を出した。

ルミナといえば、そこを何とかという視線をこちらにしてくる。そして、懇願するかのように俺を覗き込んでいた。

俺は、自分の断れない性格を呪うと大きくため息をついた。

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