3人で買い物
「牛肉と玉ねぎ、あと人参とジャガイモか。カレールーも指定されているな。」
俺は母から貰ったメモ用紙を見ながら商品棚に並べられている商品を調べる。
そして、目当ての商品をったルルが俺が持っているカゴに入れる。
「牛肉はカレー用のですか?それとも小間切れの方ですか?」
「そこは書かれてないんだよな。3パックとか書いてあるから最悪両方買っておくか。」
俺は、メモを確認しながらルルに確認する。
突然、カレーを作ろうとしたら材料がないから買って来て欲しいと言われて近所のスーパーに休日の昼間にルルと向かって今に至る。
サタンも連れて行こうと思ったが、歩きたくないと言い出したので2人だけで行くことになった。
昼間のスーパーということもあり、昼食を買いに来た人の時間も重なって客の数は多かった。
結婚騒動が無事、解決して日本に帰って来た後から何かとルルと行動を共にすることが少しだけ増えたような気がする。
ただ、あっちから特に分かりやすい好意を伝えてくれるような言葉は貰っていないので特に何か関係性が変わったようには感じられない。
ひしひしとルルから俺に対しての感情の変化は感じ取って入るのだが、相手が何もアクションを起こしてくれないのでこちらとしては推測でしかないのが現状だ。
商品を色々と入れて、それなりに重くなったカゴを持ちながら俺はルルと共にダラダラとスーパーを歩いていた。
「…あっ。」
何やら聞き覚えのある声が聞こえた。
俺とルルが同時に声のする方向を振り向いた。
そこには1人でカゴを持っていたルミナがいた。
「何だ、ルミナちゃんも買い物に来てたんだ。」
俺はルミナに声をかける。
ルミナは俺とルルに対して軽く頭を下げた。
「この時間だと大体、買い物に行ってますよ。剣様のお婆さまから頼まれることが多いので。」
「そういえば、代わりによく買い物行ってるってのは言ってましたね。」
ルルが牛肉を物色しながら俺の持っているカゴの中に入れていく。
正直、煮込んだら大体味なんて同じだから安いのでいいよと言いたい。
「そうですね。お2人も買い物ですか?」
「母親から頼まれてな。何か、カレーの材料あると思ってたら全然なかったから買って来いって帰宅直後に言われて今来てるんだよね。」
「なるほど、ちなみにこちらはハヤシライスです。」
「別に聞いてないんですけど…。」
ルルが少しだけ呆れたように言う。
ルミナはルルの隣に立つと、同じようにどの肉にするかを選んでいた。
「サタン様はいないんですね。」
「お姉さまなら、テレビでも見ているんじゃないですかね。」
「想像通りですね…。」
ルルの言葉にルミナは苦笑いを浮かべながら言う。
あの女は、もう少し自分が居候している人間だという自覚を持って欲しいと思う。
何で、俺以上にくつろいでいるんだとツッコミたい。
「そういえば、今日はいつものあれはしないんですか?」
「いつもの?あぁ、それなら夕方ですよ。明るい内にしても良かったのですけど、今日は休日ですので剣様も来ると思ったので。どうしてそんなことを?」
「いや、ほぼ毎日のように2人で何をしているのかなって気になっただけです。」
「ただ、稽古をしているだけです。そんな、疑われるようなことはしていないのですが…。」
ルミナがルルに遠慮するように答える。
「なあ、そろそろ行かない?あとは、カレーのルーを買うだけだからさ。」
俺は、2人で肉の物色をしながら話している風景に飽きてさっさと帰ろうと提案する。
正直、お腹も減ったしあまり遅い時間に夕食は取りたくない。
「そうですね。じゃあ、カレールーだけ買ったら帰りますか。」
ルルが俺の言葉に頷くと、最後にこれをとパックに入った牛肉をカゴに入れる。
ルミナもそれを見て、適当なパック肉をカゴに入れて俺達の後ろを歩き出す。
俺は流れるようにして、カレールーが色々と置かれているエリアに行くとそのままメモ用紙に書かれていた目当ての商品をカゴに入れる。
そして、レジへと向かった。
「じゃあ、私は隣の方に行きますね。」
ルミナが俺達が並んだレジの隣の列に並んだ。
俺達の順番がすぐに来ると、店員がスムーズな動きで会計を済ませる。
ルルに渡しておいた、母から貰った購入代金を支払ってもらう。
そして、ビニール袋を受け取るとテーブルの上にカゴを置いて商品を入れていく。
「最近は、よく2人でいることが多いんですね。」
同じように会計を済ませて、ビニール袋に買った商品を詰めていくルミナが俺達に尋ねた。
「そうか?割とこれまでとそんなに変わらない気がするけど。学校でなんて学年も違うからサタンといることの方が多いし。」
多少は増えたとはいえ、それでもよく考えると凄く増えたという記憶はない。
ウルの散歩に付き合う回数が増えたくらいだろうか。
「そうなんですね。何だか、イギリスから帰って以降ルル様と仲良くなっているなと思ったので。」
ルミナが意外そうな顔で言う。
「あら?私は以前から剣さんと仲良かったですよ。」
袋に入れ終わって、俺がパンパンに膨れ上がった袋を持ち上げるとルルがルミナに言った。
「いや、まあそうなんですけど。いえ、何も言わないでおきます。」
どうせ言い負かされることを察したのか、ルミナがルルに言う。
まあ、この2人は相変わらず上下関係みたいなモノが分かりやすく存在しているなと思う。
それはサタンとの関係性でも言えているが。
俺は、ルルと並んでスーパーから出る。
両手には先程買った商品を入れた袋に加えて、ルミナが買っていた商品を入れていた袋も抱えていた。
腕力があるルミナには余計なお世話かと思ったが、一応男性としての優しさをアピールしようと思っただけだ。
俺達のすぐ後ろをルミナが歩いていた。
そんなルミナをチラリと見て、ふと気になったことがあった。
「そういえば、前から気になっていたけどそのペンダントみたいなモノは何なの?普段、ずっと身につけてるけど。」
校則でネックレスなどを付けて登校することは禁じられているので学校に登下校する際は身につけていないが、それ以外で会う時は必ずと言っていいほど身につけているペンダント。
いつか聞こうと思っていたのが、そのたびに聞くのを忘れてしまっていた。
どうせ、話す話題も特にないので帰るついでに聞いてみるのもいいかもしれないと思って、尋ねてみた。
「そういえば、私も気になっていました。昔からそれを身につけていましたね。」
ルルもこのペンダントが何なのかを知らなかったのか、ルミナに尋ねる。
ルミナは胸にしまっていたペンダントを取り出した。
しかし、本当に成長を感じない胸部だなと改めてルミナを見て思う。
同い年のルルと比べるとその差は歴然だ。
つくづく、人の成長とは残酷だなと2人を見ていると思う。
「これは、私の恩人から貰ったモノですよ。恩人、というより師匠と呼んだ方が良いのかもしれませんが。」
「師匠?そんな話、初めて聞いた気がする。」
俺はルミナに言う。
記憶を遡ったが、やはりそんな話を聞いた記憶はない。
俺は、長い付き合いのルルなら何かを知っているのかと思ってルルの方を見た。
ルルはそんな俺の視線に気づいて、首を横に振った。
「私も知らないですよ、そんな話。お姉さまならもしかしたら知っているかもですね。」
そもそも、この子にそんな人がいたんだなという気持ちだ。
何というか、生まれた経緯も含めて家族とシェフィール以外にランスフォード家で話せる人なんていないと思っていたからだ。
いや、正確に言えば年の近い人達だと話せたはずなのに自分が嫌われていると勘違いして話しかけられなかったのはルミナ本人によるところが大きいだろうが。
「多分、サタン様にも言ったことはないですね。それこそ、クレアもほとんど知らないはずですよ。あの子が生まれる前の話ですから。」
「生まれる前、って言うともうこの世にいないってこと?」
病気か何かで亡くなったのだろうか?
ルミナは言うべきかどうかを少し迷っている風だった。
「どうでしょうね。多分、当時を知っている人達はみんなもう亡くなっていると思っていますね。でも、私はどこかで生きているのではって思っています。」
そう言うと、ペンダントを大事そうに見つめていた。
どうも要領を得ない話だなと思った。
ルルはあまり興味がないのか話半分に聞きながら歩いていた。
「師匠ってことは、何かを教えてもらっていたの?」
俺はペンダントを見つめているルミナに、歩きながら尋ねる。
ルミナはペンダントを見つめるのをやめると、再び俺達の後ろを歩き出した。
「私の今の剣術は全てその人に教えてもらったんですよ。固有の魔術を持たない方で、剣の腕はとても凄かったんですよ。今でも私の憧れの人です。」
少しだけ、その時の思い出を懐かしむようにルミナが言う。
「魔術が刻み込まれていない?珍しい人もいるんですね。」
ルルがルミナの言葉が気になったのか、ルミナの方を振り向く。
基本的に、どんな魔術師にも大なり小なり何かしらの固有の魔術が刻み込まれているモノらしい。
それこそ、当たり外れはあるが。
逆に言うと、ルミナのように魔力がないような特殊な人間でもない限り魔力があれば何かしらの魔術はあるという話らしい。
「そうですね。だけど、とても強い方でしたよ。魔術がない代わりに、武道に己の全てを捧げたような人でしたので。」
「何だか、凄く楽しそうに話すんだね。」
ルミナがここまで嬉しそうに話すのは珍しいなと思った。
そもそも、何かしらの関わりのある人間がほぼほぼ俺も知っているような人だからこうして知らない人の話自体が初めて聞く経験だ。
「私の昔の師匠ですから。でも、ある事件に巻き込まれて行方不明なんですよね。でも、きっとどこかで生きていると思うんです。その人に会って、ランスフォード家の正式な次期当主になれたと伝えたいんですよ。」
そう言うと、ペンダントをギュッと握りしめた。
そんなことを話していると、気づいたら自分の家の近くまで着いた。
流石に両手にそれなりの重さの袋を持って歩くのは疲れた。
肩が少しだけ痛い。
そんなことを思いながら、歩いていると目の前であまり見覚えのない男性がキョロキョロしながら立っていた。
見た感じ、外人だろうか。こんな場所に外人が来るなんて珍しい。
それこそ、道に迷っているのだろうか。
都合のいいことに、ネイティブな英語を話せる2人がいる。声くらいかけてあげるか。
そう思っていた時だった。
「…嘘!?」
ルミナがポツリとつぶやいていた。
そして、その男性の元に一目散に駆け寄っていた。




