歓迎会
肉が焼かれるいい匂いが部屋に充満する。
机に座った、ほぼ全員が箸を持って今か今かと待っていた。
まあ、中にはそうじゃない奴もいるが。
椅子から立ち上がったサタンがコップに注がれたジュースを掲げる。
そう、俺達は異変を無事終えたことでアリスとルシフェルを入れた8人で焼肉パーティーをリヤドの家で開いていた。
「では!何も解決してないけど!何なら、これからさらに事態が混迷しそうな予感はするが!とりあえず、お疲れさまー!」
「「「「「お疲れさまー!!!」」」」」
リヤドとアリス以外が一斉にサタンの言葉に続くと、すでに焼かれている肉を全員が一斉に箸で取っていく。
「うーん、美味しい!やっぱり、奮発して高いお肉にしただけはありましたねー。」
ルルが美味しそうに食べながら言う。
近所のスーパーで買おうという話を最初はしていたが、せっかくだからと言ってわざわざ市内のデパ地下に行ってかなりの値段の張る肉を買ってきていた。
確かに、美味しい。ただ、自分なら絶対にしない選択肢だ。
流石は良家のお嬢様。金の使い方が庶民と違う。
「薄いお肉もたまにはいいですね!どうしてもステーキ肉に慣れていましたから、薄いお肉だと食べ応え的なところで心配でしたが。」
ルミナも同じように美味しそうに食べながら、ルルに同意するように言う。
会話が一般庶民なら絶対に出ないような会話内容だ。
いや、別にいいんだが…。
俺は、肉と白米を交互に食べながらその様子を見る。やはり、焼肉には白米だと思う。
目の前の欧州人は白米をたまに口に運ぶ程度だが、薄い肉で大量の白米を頬張るから焼肉は美味しいんだぞと教えてやりたい。
「はい、剣さん。お肉がどんどん焼けていますから、食べてくださいね。」
俺の隣に座っているルルが取り皿に次々と肉を置いて行く。
別に肉を置いてくれるのは嬉しいが、流石にペースは考えて欲しい。
「野菜も食べないとダメですよ。」
ルミナがチクリと俺に小言を言う。
野菜なんて、食べる気は起きないんだけどな。なぜか、皿に山盛りの生野菜が置かれている。
絶対、全員が肉しか食べていないこの状況であの野菜達が消費される未来は見えない。
まあ、最悪残ったらリヤドの明日以降の食材として消費されるだけだろうからいいか。
「はいはい。気が向いたら食べるよ。」
俺は適当にルミナに返答をする。
「しかし、このタレは美味しいな。ちょっぴり辛くて箸が止まらん。」
サタンがモグモグと肉を頬張りながら言う。
そのタレ、確かうちの家に置いてあった高級焼肉屋が監修したとかいうタレだった気がするんだが。
勝手に冷蔵庫から拝借してきたな、と思った。
まあ、母に何か言われたらサタンが持って行ったと言えばいいか。
俺はそんなことを思いながら、ルルが皿に載せた大量の肉の塊を白米と共に口に運ぶ。
あの後、無事異変の現場であった小学校はすぐに元通りに戻った。
ウィザード家の人間がちょいとばかり学生達の記憶を改ざんしたおかげで、異変が起きたことすら覚えていないようだ。
俺の従兄妹達2人も何の後遺症もなく、学校に通っている。
そして、そのことがあって正式にアリスがサタンの日本任務に同行することが決まった。
かなり、国家間の生々しい言い争いがあったそうだ。正直、俺からしたらどうでもいいので興味はない。
ルルから世間話のように聞かされいただけだから、実感も沸かないとも言えるが。
そして、最後に現れたマリアという女。あれも結局、謎のままで終わってしまった。
ルシフェルが、必ず近いうちに現れると言っていたが出来るならもう現れないで欲しい。
そして、アリスに加えて保護者枠としてルシフェルも同行することが決まった。
まあ、アリスが決まった時点で確定事項だっただろう。
実際、アリスがまたいつ危ない目に遭うか分からないのでルシフェルがいるのは心強いと思う。
うん、きっと心強いはず…。
「アリスちゃんもクレアちゃんも、いっぱい食べてくださいね。食べないと大きくなりませんからね。」
食べるという本来人間に必須の機能を持たない、元大天使で今は堕天している女が甲斐甲斐しく2人に肉を配っている。
そして、チラリとルミナを見る。
「待ってください!何で今、私を見たんですか!」
大きくなりません、という単語に反応したルミナが立ちあがる。
どうも、この子はいじられやすい性格のようだ。
サタンとルルとはもちろん、ルシフェルともよくこんな感じのプロレス的なやり取りをしている。
「いえいえ、別にルミちゃんのことなんて言ってませんよ。でも、自分で言っちゃうということは自覚があるということですか?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらルシフェルが言う。
「余計なお世話です!それに私はまだ成長期が来ていない可能性だってありますからね!ここから、サタン様もルル様も羨むようなナイスバディになる可能性だってあるんです!」
「遺伝がほぼ100%の体型の話でここから成長期が来るわけないじゃん。」
呆れるようにして、クレアが肉を摘まみながらルミナに言う。
「まあ、ルミナがそんなナイスバディになったらそれはそれで面白いけどな。なら、もっと食べることだな。」
ゲラゲラと笑いながらサタンが言う。
ルミナは顔を紅潮させていた。本当に煽り耐性が低いと思う。
「えぇ、いいですよ!いいですとも!今から、このお肉全部食べてやりましょう!」
「おい!それをされると、俺達の食べる分がなくなるからやめてくれ!」
俺は怒りながら、肉を何枚も自分の取り皿に盛り出すペッタンコ娘に言う。
「大丈夫です!剣様の方こそ、食べないと大きくなりませんよ!」
「俺に怒りの矛先を向けて来るんじゃない!大丈夫だよ、俺は男だからナイスバディとかなることないし。」
ヤレヤレといった風に言い返す。
そして、少しばかり食べてお腹が膨れたのかサタンが立ち上がった。
「さて、少し遅くなったが自己紹介をしてもらおうかな。」
そう言うと、アリスとルシフェルの方を見た。
アリスとルシフェルはその視線に気づくと、お互いに顔を見合せた。
「なるほど、なるほど。自己紹介ですね。任せてください、サタン様!派手にしてあげましょう!」
ルシフェルはそう言うと、勢いよく椅子から立ち上がった。
アリスはまだ、若干恥ずかしがっているようだった。
「家を破壊するようなことはやめてくださいね。一応、ここに住んでいるので。」
リヤドがルシフェルに釘を刺す。
そういえば、今日初めてまともに声を聞いた気がする。
本当に必要事項以外話さない寡黙な奴だなと思う。
「大丈夫ですよ!リヤドン。そこは注意します!」
…今、何て言った?
俺は聞き間違いかなと思いルシフェルに尋ねる。
「なあ、ルシフェル。今、コイツのこと何て呼んだんだ?」
ルシフェルは俺の方を見ると、目をパチパチとさせた。
「リヤドン、と呼びました。」
ルシフェルは何を言っているんだ、といった風に俺を見て来る。
その瞬間、サタンとルルとルミナ、そしてクレアの4人が噴き出していた。
リヤドはバツが悪そうな表情を浮かべていた。
リヤドン…。あだ名を付けて呼ぶタイプだと思っていたが、また中々なネーミングセンスのあるあだ名だなと思った。
いや、これはこれで面白いからいいか。
慣れるまでに少し時間はかかりそうだが。
「はいはい。その面白いあだ名の話は後にするとして、自己紹介してくれ。」
サタンが手をパンパンと叩くと、2人に言う。
ルシフェルはアリスを立ち上がらせて、親子のように一緒に歩いて前に立った。
「初めまして。始まりの大天使にして堕天使ルシフェルと申します。今日から、サタン様と剣様に仕えることになりました。何なりとお申し付けください。」
そう言うと、ペコリとお辞儀をした。
また一人、様付けで呼んでくる奴が増えたなと思う。
もう、ルミナである程度慣れたから何も言うまい。
それに続いて、アリスも慌てるようにしてお辞儀をした。
「あ、あの…。アリスと言います。今日から、皆さんと一緒にいることになります。よろしくお願いします。」
か細い声で言うと、再び小さくお辞儀をする。
やはり、ほとんどが年上だから緊張しているのだろうか。
クレアは、アリスの自己紹介になるとアリスの方を見ないで肉を食べることに集中していた。
こういう素直じゃないところは姉によく似ているなと思う。
「…その。周りの人達は年上の人ばかりですけど、仲良くして欲しいです。」
恥ずかしそうに言うアリス。
ルシフェルがよく言えましたね、と優しく言うと頭を撫でていた。
「クレア、何か言うことあるか?」
サタンがニヤニヤとしながら、クレアに声をかけた。
珍しく、クレアはサタンに対して嫌そうな顔を見せていた。
「別に何もありませんよ。まあ、頑張ったら。」
そう言うとプイっと顔をアリスのいる方向とは逆の方に向けた。
アリスが悲しそうにうつむく。この数日間、よく見た光景だ。
「こら!クレア!」
ルミナがクレアに怒る。この光景ももう見慣れたモノだなと思う。
クレアはルミナの小言を聞きたくないのか、耳を塞ぐ。
「…そ、そのッ!!!」
アリスが珍しく声を張り上げていた。
俺達は一斉にアリスの方に視線を向ける。
アリスは顔を赤くしながら、クレアに向かって叫ぶようにして言った。
「…その。私は弱いから、何も出来ないから。だから、同い年のクレアさんと仲良くしたいの!」
これだけ声を張るアリスも珍しいなと思う。よほど、頑張って叫んだのか少しだけ目に涙を浮かべていた。
クレアはチラリとアリスの方を見た。
「別に仲良くするつもりなんてないよ…。」
クレア!、とルミナが隣で叱るような声がする。
クレアはそんなルミナの声を無視しながらアリスに言う。
「だけど、舎弟くらいにはしてあげてもいいよ。まあ、本当に仲良くしたいとか思うならまずは、そのさん付けからやめることね。他人行儀で気持ち悪いから。」
素直じゃないな、と思った。
アリスは顔を少しだけ明るくすると、目に浮かんだ涙を服の袖で拭き取った。
そして、その日一番の大きな声でクレアに向かって言った。
「はい!よろしくお願いします!クレアちゃん!」
こうして、俺達に新しい仲間が2人加わった。




