平和な日常と奇襲
ルミナに根負けした形で、アリスはサタンが預かるという形で日本に帰る際に一緒に連れて行くことが決まった。
サタン自体は特に賛成も反対もしないスタンスだった。だが、サタンの父や兄はかなり難色を示していたらしい。
ただ、さらにその上の政府だったりと言った存在が何かとこちらで預かっていれば使える可能性があると考えたのか承諾したらしい。
何と言うか、俺の知らない場所で国家権力が動きまくっているようで正直言って怖い。
と言うか、いつかヒットマンとか差し向けられないか心配でしかない。
アリスに関してはルミナとクレアと共に俺の祖父母の家に居候することが決まった。広い家なので部屋はいくらでもあると快く了承してくれた。
元々、一緒に来る予定だったクレアは俺の近所の小学校に編入することが決まっていたが、アリスも同じようにその小学校に編入することが決まった。
すでに、小学校の方には通っていて物珍しさもあって2人ともそれなりに歓迎されているらしい。
自分の従兄妹がその小学校に通っていることも多少はプラスに働いているかもしれない。
そんなことがここ数日の出来事だが、俺は今どこにいるかと言うと住んでいる地域だと一番と言っていいほど大きなショッピングモールにいる。
普段はそんな場所なんてめったには行かないのになぜ、今日に限ってきているかと言うと…。
「「「かわいー――!!!」」」
サタンとルルとルミナの声が店内に響く。
その視線の先には着せ替え人形よろしく、様々な服を着させられているクレアとアリスの姿があった。
クレアより少し小柄なアリスにあれだこれだと色々な服を着せている姿は本当に着せ替え人形と言う例えがよく合うような気がする。
実家の方から服をいくつか持って来たクレアと違い、アリスに関してはまともに着ている服が修道服しかなかった。
そのため、とりあえず数日はルミナの小さい頃のお下がりを着ていたのだが流石に何か服を買いに行こうという話になり今に至る。
「やっぱり、白色系の服が似合いますね。今度はこれを着てもらいましょう!」
ルルがコーディネーターよろしく、サイズの合った服を次々と持ってくる。
すでに何着か服を持って来ているはずのクレアもせっかくだからと一緒に買うことになった。
先程から顔を赤らめて恥ずかしがっているアリスと対照的に、モデルみたいにノリノリでポーズまで決めている。
「クレアはこの赤色の服を着てみよう。」
サタンも負けじと持って来た服をクレアに渡して、試着室で着替えさせる。
「これとかも合いそうじゃないですか?」
ルミナもアリスに着せる為の服を持ってくる。
正直、店内のありとあらゆる服を持って来そうなレベルだ。
そして、出来るならもう少し声のトーンを抑えて欲しい。
先程から、店内の客からの視線が痛い。
俺とリヤドは少し離れた場所でその様子を見ていた。
「と言うか、服買うのはいいけど金なんてあるのかよ。」
俺はリヤドに耳打ちする。
それなりに高い服を扱っている店だ。俺が普段着ているような安物のTシャツとかとは訳が違う値段をしている。
とても、高校生のサタンが買える値段ではないと思うのだが…。
「一応、キール様の方に言ってアリス殿の衣服購入代としてお金を貰っているそうだ。だから、心配はいらない。」
リヤドは、相変わらずのぶっきらぼうに答える。
「正直、そろそろ店員から苦情着そうで怖いんだが…。」
あれもこれもと2人に着替えさせている。店員もどうしようかと言った顔をしている。
正直、遠目で他人のフリをしていようと思う。
リヤドも特にあの5人の会話に興味がないのか、無表情で眺めているだけだった。
「…何してるの、あんた達?」
突然、聞き覚えのある声が聞こえる。
俺が振り向くと、そこには天馬がいた。
その表情はあっけに取られているようだった。
残念ながら、俺もこの光景を見たら同じ気持ちになると思う。
「服を買いに来た3人衆に連れられて来た。」
俺は軽く事情を説明する。
「あー、なるほどね…。まあ、いいけど。」
天馬も状況を多少理解出来たのか、5人を見ながら俺に言う。
天馬に関しては、クラスメイトの女子達と遊びに来ていたらしい。少し、トイレに行って戻っている最中だったらしい。
人間界でショッピングを楽しむ大天使なんているのかと思うが、現実にはいるらしい。
「と言うか、あれ何?」
天馬がアリスを見ながら俺に尋ねる。
「うん?アリスちゃんだけど。少し前にサタン達とイギリスに行った際に迷子になってたところを助けてあげて、今はサタンの預かりになってる。」
「正直、名前なんてどうでもいいんだけどね。うん、まあ何も言わないでおこうかしら。」
若干、ドン引きしながら天馬が俺に言う。
「何だよ、その目?」
俺は、不安になって聞き返す。
天馬は少しだけ悩んでいる表情をする。
「いや、よくもまああんなヤバそうな案件を拾ってくるなって感心していただけよ。でもそうね。あんた達が預かりたいってのなら任せることにするわ。」
気になることを天馬は言う。
「もしかしたら、お前達の関わる話だったりするの?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「そうね、かなり関わる話ね。まあ、事情説明しても余計混乱するだけだし。そっちで対処してちょうだい。こういうのははどこかの誰かさんが色々企んでそうだから。」
どこかの誰かさんが誰のことなのか何となく分かる気がする。
天馬は言い終わると、サタンに見つかりたくないのかそそくさとクラスメイト達のいる方に合流するために去って行った。
俺はアリスを見た。
いや、まさか大丈夫だろ…。俺は自分自身に言い聞かせた。
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天馬からの気になる言葉を告げられた次の日、俺はルミナとのいつもの日課に向かおうとしていた。
自宅の玄関から外に出ると、ルミナがすでに待っていた。
そして、その後ろからはクレアがニョキっと顔を出していた。
「デートって聞いたから連れてきてもらった。」
ニヤニヤしながらクレアが言う。
そのさらに後ろには恥ずかしそうにアリスが隠れていた。
「デートじゃないです。ただの日課です。」
ルミナがクレアに言う。そして、いつもの場所に向かって4人で歩き始める。
「アリスちゃんも来るなんて珍しいね。」
俺は小さな足取りで後ろを歩くアリスに言う。
アリスはニコリと微笑んで俺の方を向く。
「ルミナお姉さんからいつも行く場所があるって聞いていたので行ってみたいと思って。」
恥ずかしそうに答えるアリス。
「興味深そうに眺めていましたから、一緒にどうですかと連れて来たんですよ。」
前からルミナが説明を付け加える。
「ちゃんと自分で言えばいいのに。ウジウジしていたから、無理やり連れて来たが正しいでしょ。」
ルミナの隣を歩くクレアが辛辣に言う。
アリスはその言葉にしょぼんとした表情をする。
どうも、クレアはアリスに辛辣な節が所々ある気がする。
そんなことを思いながら、俺はいつもの場所にルミナ達と共に到着する。
俺は、ルミナに2本の刀を渡す。
ルミナは2本の刀を受け取ると、鞘から刀身を抜き軽く素振りを開始する。
アリスが近くで興味津々に見つめる。
「こんなことに毎日付き合ってるの?」
クレアが少し呆れたように俺に言う。
「まあ、そうだね。流石に雨の日とかは行かないけど。今日は天気いいから一緒に来てるかな。まあ、部活終わって疲れてるから今日は一緒にしないけど。」
そう言うと、俺は地面に腰を下ろす。
ルミナは俺を見下ろしながら言う。
「毎日続けることが大事なんですよ。疲れたから休むでは意味がありませんよ。」
「疲れ切った体をさらに痛みつける方が体に毒だよ。」
ルミナの言葉を適当に流す。
ルミナはまったく、と小声で言うと少し離れた開けた場所に移動する。
居合の練習をするからだろう。
アリスもその後を追って、小走りで向かう。
俺の隣にはクレアが一緒に座っていた。
「学校には慣れた?」
特に話すこともない俺は適当に話を振った。
クレアは、自分のことを聞いているのかと気づくと俺の方に視線を向けた。
「まあ、それなりにかな。どこかの誰かさんは大人しいのか知らないけどニコニコしてるだけだけど。」
アリスのことを言ってるのかなと思った。
「割と厳しいよね、アリスちゃんに対して。」
俺は先程から気になっていたことをルミナに言う。
ルミナはため息をついた。
「まあね。昔のお姉ちゃん見てるみたいでイライラするんだよね。ウジウジしてる所とか特に。」
今もだろ、とツッコミたかった。
なぜか、俺に対しては喧嘩腰だがルルからの話だと多少マシになったがまだコミュニケーションを取るのに難があると聞いている。
「ルミナちゃんと仲良さそうなのに、そんなにガッツリ言うんだね。」
俺は苦笑いを浮かべてクレアに言う。
「事実だもん。別に、お姉ちゃんのことは嫌いじゃないよ。むしろ、大好きだよ。でも、すぐにウジウジして自分の世界に引きこもる所とかは嫌いなんだよね。」
そう言うと、地面に埋まっている石を拾い宙に向かって投げた。
「まあ、あの子は色々あったからね。」
俺はルミナの幼少期の話を知っているので、一応擁護しようと思いクレアに言った。
「それを踏まえてだよ。別に、言いたいことがあればしっかり言えばいいんだよ。だから、アリスを見てるとイライラするんだよね。私、オドオドしてる奴って嫌いだから。」
楽しそうに2人で話しながら素振りを披露しているルミナとそれを見ているアリスに視線を向けながらクレアが言う。
初めて会った時からルミナとアリスは打ち解けていたが、熱心なキリスト教徒なのも含めて何かとウマが合うのだろうと思う。
「まあ、お姉ちゃんから仲良くしろってうるさいからそれなりにはちゃんと仲良くしてるから安心して。私、誰かさんと違ってコミュ障とかじゃないから。」
クレアはそう言うと、よいしょと立ち上がる。
ルミナも日課が終わったのか、アリスと共に戻ってくる。隣には手を繋いで一緒に歩いているアリスの姿があった。
「お疲れ様。」
俺はそう言うと、立ち上がりルミナから2本の刀を受け取る。
ルミナは満足そうに額に浮かんだ汗を拭う。
「居合で対応できる範囲がかなり向上している気がしますね。やっぱり、二刀流の方が調子が上がる気がします。」
充実した感じで言うルミナ。
絶対に、居合で刀を抜くなら1本の方が扱いやすそうだろと思ったがルミナは違うらしい。
そして、4人で帰ろうとしたその時だった。
とんでもない存在感を放つ魔力の気配を感じた。それは残りの3人もだった。
そして、その次の瞬間だった。アリスの安全を確保するために、祖父母の家にウィザード家が張っていた結界がここからでも分かるくらい派手に割れた。
ガラスが割れたようにパラパラと結界の張っていた魔法陣が無くなっていく。
俺達は、急いで走って向かった。
「何があったんですか!?」
ルミナが祖父母の家の前にいるサタンとルル、リヤドに言う。
「分からないです。急に結界が破壊されただけですから。」
ルルも状況が分からないらしく、首を横に振る。
ルルが言うにはこの結界は何重にも様々な魔術を交えた結界らしい。そう簡単に割られることはない、と言っていた。
俺が空を見上げた時だった。空には1人の人間のような存在が浮かんでいた。
パッと見て、女性だろうか。
それは、ゆっくりと地上へと降りて来た。そして、俺達の前に現れた。
アリスを除く全員が戦闘態勢を取ったその時だった。その人物は、恭しく頭を下げてきた。
「初めまして、サタン様。お初にお目にかかります。」
サタンを含めた俺達はどういうことか理解出来ない表情をしていた。




