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転校生と忠告

昨日の予定通り、今日から3章です。


部活の朝練が終わり、朝礼が始まる前の騒がしい教室。

俺は、窓際の机に自身のカバンを置くと椅子に座った。

イギリスで1人の無口でぶっきらぼうな少年と共に戦った傷もすっかり癒えて普段の日常が戻ってきた気がする。


そう、これから始まる朝礼で起こるであろう出来事がなければ…。


…、あいつはちゃんと自己紹介出来るのだろうか。


俺は、ただそれだけが心配だった。

あいつとは、人類最強とか自分で言ってしまうような痛い美少女ことサタンのことである。

どういう手段を使ったのか分からないが、無事うちの高校に転入が決まった。

もちろん、ルルとルミナとリヤドの3人も同じくである。

3人は1つ下の中等部の方に転入といった形らしい。


正直、あの3人に関しては別に心配はしていない。

ルミナが人見知り激しいらしいので、コミュ障発揮しないかとかルルがボヤいていたが別にそれなら大人しい子だな程度しか思われない。


問題は、あなたのお姉さんの方だよと言ってやりたい。

ワンチャン、爆竹とか隠し持ってビックリショーとかやりかねないと思っている。

いや、割と本気で。


だから、朝に学校に行く前に頼むから普通に自己紹介してくれとは言っておいた。

ルルの方からもあまり奇想天外なことはしないように、とは言っておいてもらったがどうなることやら…。


そんなことを考えながら、、窓の外を眺めていると担任の教師が入って来た。

それに気づくと、各々好きなように話していたクラスメイト達も自身の机に着席した。

担任教師が教壇に立つと、軽く連絡事項を述べていた。

正直、風邪に気を付けるようにとか冬休みが近いから浮かれないようにとかありきたりな連絡事項である。

一通り、言い終わると担任教師は改まったように出席簿を軽く叩いた。


「さて、後は追加で今日から留学と言う形で1人新しい生徒がうちのクラスに来ることになった。」


突如、クラスの中がざわつく。

事情を知っている俺からしたらまあそうだよな、と言った感じである。

まさか、人生の中で転校生イベントとか言う二次創作お決まりの展開を見ることになるとは思わなかった。

同様に、同じクラスメイトの天馬と佐藤の大天使コンビもさほど驚いている風ではなかった。

一応、あの2人にも4人が来る話はすでにされている。


「じゃあ、入って来て。」


担任教師が廊下の方に声をかけた。

どうやら、教室のすぐ手前にいるらしい。

静かに、教室の扉が開く。

意外と、静かに入ってくるんだなと思った。


制服姿のサタンがゆっくりと歩いてくると、教壇の前に立った。

腰まで伸ばした長い黒髪に青い瞳、そして透き通るような白い肌。

教室の中心に立っているサタンの姿は明らかに異彩を放っている。


本当に黙っていれば美少女なんだよな。

ここ数週間、一緒にいるようになって普段の言動からとてもそう思えないが。


クラスが途端にざわざわし始めた。

周囲からサタンの容姿を褒めるような声がひそひそと聞こえる。

そんなざわついた雰囲気の中、サタンはペコリとお辞儀をした。


「はじめまして、サタン・ウィザードと言います。イギリスから日本に留学してきました。今日から、この高校に転入という形で来ることになりました。よろしく、お願いします。」

 

コイツ、猫かぶってるな。

俺はすぐに察した。

流石に、初めてのクラスメイトを前にしていつもの素の性格で行くほどの面の厚さはないらしい。


イギリスから、と言うサタンの言った言葉に再びクラスがざわついた。

黒髪、と言う部分さえ除けばいかにもな欧米系の少女の見た目だからだろうか。

そう言えば、欧米人なのにどうして黒髪なんだろうか。

あいつの家族に誰1人として黒髪の人なんていないのに。


「日本語は日本に興味があったので一通り話せます。難しい方言とかはあまり分からないので、よろしくお願いします。」


サタンは、ニコリとクラスメイト達に微笑むと再びペコリとお辞儀をした。

本当にコイツ、うちの家で勝手に人のアイスを食べるわ、漫画を読み漁っては片付けもしないあの女と同一人物なのか怪しくなってくる。


周囲を見渡すと、天馬と目が合った。

天馬も同じ気持ちだったらしく、誰だあれみたいな顔をしていた。


担任教師はサタンの自己紹介が一通り終わったのを確認すると、


「じゃあ、これからクラスメイトになる子だから仲良くするように。えっと、サタンさんは神野君と知り合いなんだっけ?ちょうど、神野君の後ろの席が空いてるから次の席替えまでそこで授業を受けてもらって。」


俺の方を見てきた、担任教師が俺の後ろの席を指さす。

周りの男子生徒からは何故か羨ましそうな目を向けられた。

周囲からはあいつ知り合いなのか、みたいな小声があちこちから聞こえてくる。

担任教師がうるさいぞ、と軽く注意をする。


サタンは、教壇からぴょんと飛び降りるとゆっくりと俺の近くにやって来た。

そして、俺の前を通り過ぎると担いでいたカバンを自身の机の上に置いた。


「よろしく。」


サタンは俺の肩を軽くポンと叩くと小声で声をかけてきた。

本当にコイツ、同じあのサタンなのか。

もしかしたら、ドッペルゲンガーと入れ替わっているのかもしれない。


担任教師が朝礼の終わりの合図をすると、休み時間に入ったからかドタドタと足音と共にクラスの女子達がサタンの席の周りに集まる。

人の密集を嫌った俺は、トイレに行こうと立ち上がる。

すると、すぐにその席にクラスメイトの1人が座った。

当分、数日は休み時間の俺の席の周りは騒がしくなりそうだなと思った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


昼休みに入り、俺は母が作ってくれた弁当を食べ終わった。

サタンはと言うと、早速クラスの女子達に誘われて別の席で一緒に昼ご飯を食べていた。

見ている感じ、普通に馴染めていそうで安心はする。

俺はそれを確認すると、立ち上がって財布を片手に教室を出た。

休み時間の間に水分補給用の飲み物を自販機で買いたくなったからだ。

俺は、階段を降りて1階の自販機のあるエリアに来た。

軽く、自販機に置いてある飲み物に目を通す。エナジードリンクが飲みたい気分だ。

俺は、お金を投入すると目当てのエナジードリンクのボタンを押した。

カラン、と言う音と共に商品が落ちてくる。

俺は、それを拾うとアルミ缶のプルを開ける。プシュッと言う気持ちのいい音がすると一口飲む。


「意外と、普通の自己紹介だったわね。」


背後から、大天使ガブリエルこと天馬の声がする。


「それな。もっと奇想天外なことするかと思って冷や冷やしていた。」


「同感。あいつのことだから、教壇蹴り飛ばすくらいのことはすると思っていたわ。」


「そんなことしたら、俺はこの学校内ではあいつとは他人の関係で生活し続けるわ。」


「奇遇ね、私もよ。」


俺は天馬と軽口を叩く。


「そう言えば、お前もサタン達と昼飯食べてたんじゃないのか?」


サタンが食べていたグループの中に天馬がいたことは覚えている。

コイツもそうだが、サタンもよくもまあ一度殺し合ったような相手と食べられるなと思った。

まあ、変に距離を置いたらそれはそれで周りから疑問に思われるだろうから間違ってはいないだろうが。


「私は食べ終わったからね、ちょっと飲み物を買ってくるって言って抜けてきたのよ。」


天馬はそう言うと、俺が立っていた自販機の隣にある別の自販機で飲み物を購入した。

そして、俺から離れるとふと立ち止まった。


「そう言えば、イギリスの方で随分と大層な活躍ぶりだったらしいじゃない?」


天馬が思い出したかのように俺に言う。


「さあ、何の話だか。別の人と間違えているんじゃない?」


俺は、誤魔化すように天馬に言う。

天馬は呆れたと言わんばかりの表情を浮かべた。


「そういう冗談はいいから。正直、あなた達が何したかくらい私達に見えていないと思ってるの?」


「前から思っていたんだけど、俺のプライバシーってどうなってるの?」


「別に、どこかの誰かさんみたいに見通せる目とかで見てるわけじゃないから安心してよね。」


沈黙が少しだけ広がる。


「そう言えば、その事件。裏でザドキエルが絡んでいたって知ってた?」


天馬が再び口を開く。

確か、リヤドが片腕の男がいたと言っていた気がする。

多分、それのことだろうか。


「ザドキエルってお前の同僚だろ?」


「“元”ね。そこ大事だから勘違いしないで。」


天馬がすぐに訂正をしてきた。

正直、俺からしたらどっちでもいい話だ。


「あの男、恐らくあなた達にだいぶ恨みを抱いているはずよ。だから、一応忠告をしてあげようと思ってね。一度失敗したくらいで、あの男が諦めるわけがない。多分、また何か仕掛けて来るわよ。」


天馬が気になることを俺に言う。

俺としては、恨まれることをしたのはサタンなのだからこちらに矛先を向けないで欲しい。


「お前は助けてくれないのかよ。」


缶に入っている飲み物を飲む天馬に俺は言う。

天馬は、飲み口から口を離すと、


「私は凛君と違って、別にサタン達と協定関係を結んでいないからね。正直、あの人が何を企んでいるかも興味ないし。」


そう言うと、再び飲み始めた。最後の一口を飲み終わったのか、天馬は空き缶となった缶の中にまだ液体がないかを確認していた。


「お前ってさ、いつからその体なの?」


俺はふと気になったので、尋ねた。

受肉したとは言っていたが、いつからこの体でこの世界で暮らしているのだろうか。


「さあ、どうかしらね。そもそも、それを神野君に言ったからってどうなるの?」


天馬が逆に聞き返してきた。

俺はどう答えようか、少しばかり悩んだ。

正直、何となくで聞いただけだから別に絶対に答えてもらう必要があるかと言えばそうではない。


「別に、どうもならないかな。ただ、佐藤と違って天馬は名前からして天使っぽい名前だからさ。何か特殊なことがあったのかなって。そもそも、俺の体についても知っている感じだったし。」


俺は足りない脳みそで必死に捻りだした言葉を言った。

天馬はフッと笑った。


「さあ、どうかしら。さっきも言ったけど、それを神野君に言う必要性は無いわね。」


「お前って意味のない殺しはしない発言もそうだが、変なとこあるよな。」


俺はそう言うと、だいぶぬるくなっていたエナジードリンクを一口飲んだ。


「合理的、と言って欲しいかな。どこかの誰かさん達と違って、無駄なことはしたくない主義なの。一応、忠告はしておいたから。じゃあ、そういうことで。」


そう言うと、天馬は階段の方へと向かった。

そして、言い忘れたとばかりに再び俺の方を見てきた。


「そう言えば、そろそろ昼休み終わるわよ。」


そう言うと、駆け足で階段を登って行った。

俺は腕に付けている腕時計を見た。すでにあと数分で昼休みが終わる時間だった。

弁当を食べて、飲み物を買っただけで俺の今日の昼休みが終わってしまった。

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