紅の騎士のつとめ
虚しい時が過ぎ、夕闇が迫ってくる城のテラス。
ダケヤマは丸一日、思い悩むようにここに留まっていた。まるで深く考えずに行動する彼にしては、正に二階からコンタクトレンズのように困難な事を成し遂げた瞬間でもある。
「ダケヤマ殿……まだこんな所にいたのか……」
紅の騎士穴金が、朱色のマントに夜風の予感がする空気を孕ませながら話掛けてきた。
「いや、色々と考え事してたら、こんな時間になってしもうたわ……」
いつもクソ不真面目なダケヤマの、追い詰められたような表情を見て、さすがに気を遣うのが苦手な穴金も最大限の努力をした。
「いつまで外にいるつもりだ? 腹が減ったろう……食事でもどうだ?」
「アナキンさん、カヤタニは……」
「心配するな。何も死んでしまう訳でもない。そうだろう?」
「でも! でもな……俺ら、お笑い芸人にとって、言葉を失ってしもうた事は、すなわち……!」
「――ダケヤマ殿!」
穴金の一喝に、哀れなコンビの片割れは息を飲んだ。
「一番辛いのは彼女……カヤタニ殿、本人の方だろう。でもな! 気高く不屈の精神の持ち主である彼女は、あれからも全く落ち込む気配を見せず、今は怪我した人達を一生懸命に世話してるんだぞ」
「何やって!? ほんまに? あのカヤタニが?!」
ダケヤマは急いで階下の様子を伺いに走った。すると大広間に集められた市民・兵士分け隔てず、負傷者を献身的に手当てする白衣姿のカヤタニを見付けたのである。どうも各々の傷口を洗ったり、包帯を取り替えたりしているようだ。
「そ、そうか。奴は医療従事者の経験があるんやったな……。たとえ眼科の非常勤でも、医薬品がなくても、現代医学の知識を提供したりはできるんや……」
「うむ、そうだな」
「それに何とかすりゃあ、会話は無理でも、治療の手伝いくらいは難なくできるよな……」
あまりの事に感銘を受けたダケヤマは、しばらくカヤタニに声を掛けることもできず、ただ仲間と忙しそうに動き回る勇姿を呆然と見守るしかなかった。
穴金は、そんなダケヤマを片目でチラ見して、大きく肩を叩いたのだ。
「おい! 君は、あんな彼女を見てもなお、落ち込んだままでいるのか!? 何もせず、日がな一日考え込む事だけを、これからも永久に続けてゆくのかね?」
ダケヤマの両眼に、灯がともったように輝きが戻ってきた。
「……いいや! 俺はアホやった! あまりに考え過ぎてた! まだまだ何でもイケるやんか!」
「その通りだ、ダケヤマ殿!」
「ひょおおおおおお!」
「こら! その意気だが、ここでは静かにしろ」
「おお、そうやったな、悪い悪い~」
現場でダケヤマと穴金の存在に気付いたカヤタニは、何やら言いたげのようだ。
だが――即戦力は忙しかった。
「おい! カヤタニさん、手を貸してくれ!」
老人の手助けを求める声を聞くなり、少し照れた顔をして逃げるように仕事に舞い戻ったのだ。




