シュナミティズム3
ベッドの上に神妙な顔つきで座るアビシャグ。その寝癖がついた黒髪には、朝日に伴う光沢が宿った。
「シュナミティズムの魔法を掛ければ、どんな傷病も立ち所に回復できます。その方法とは、術者が一晩の間、患者と同衾する事です。お互いが裸となって抱き合えば、どんな傷でも癒やす事ができるのです」
「は、裸で抱き合うって、まさか……」
「勘違いしないで下さい。真面目な話をしてるのですよ!」
「はい、すんません。続けて下さい」
更に赤面したアビシャグは照れ隠しなのか、枕をギュッとした後に顔を伏せた。
「この術式には厳しい条件があって、術者の魔法使いには絶対の純潔さが求められます。お互いに肌を触れ合いますが、決してエッチな事をしてはダメなのです」
「ていう事は……何や、若い未婚の魔法使いにしかできない秘法って事か……」
「そうなりますね。男女の仲になったとたんに、シュナミティズムは効力を失い、術者は二度と同じ魔法を使えなくなります」
「そうか……やっぱり、あっちゃんは処女やったんや」
「ぶふっ! 当たり前でしょ! どさくさに紛れて何を言うんですか!?」
「別に怒らんでもええやん。要するに、今しか使えない特別な魔法という訳やな」
「でもダケヤマさんが術式の完成直前に中断させてしまったので、中途半端な回復となってしまいましたよ。どうして朝まで大人しく寝ていなかったんですか……」
「そういや、まだ首が鞭打ち症みたいやし、体のあちこちが痛むなあ」
アビシャグは、暫くダケヤマの肉体を観察すると、ドキドキしながら意を決したように言う。
「ダケヤマさん、もう一度だけ一緒に寝ましょう」
「えええぇぇぇ! まだ続きをやるんか?」
「いいですか、今度は絶対に……分かっていますよね?!」
アビシャグの迫力に、ダケヤマは黙って従う他なかった。再び横になると、彼女はいそいそとシーツを掛けながらシュナミティズムの呪文を詠唱し始める。細い指先で、宙に逆三角形の複雑な図形を描いた。
「ダケヤマさんはリラックスしていて下さい。私が動きますから」
アビシャグは、急に大胆となってダケヤマにのしかかると、体を隠していた枕を抜いて全裸でぴったりとくっ付いてきたのだ。
「ぐぐっ……!」
ダケヤマは、何とか心を鎮めようと努力したが、魔法少女の薄い胸から伝わってくる心臓の鼓動を感じるにつれ、共鳴するように昂ぶってしまう。
直接触れ合う肌と肌の温かさが、何とも心地よい。おまけに清らかで透き通るような長い黒髪からは、蘭奢待もかくやと思わせる香りが、ほのかに漂ってくる。
ふと見ると、ぺたんこ座りしていたシーツには、一筋の涙のような跡が細い毛と共に残されていた。




