ダケヤマのピンチ
「お~い! ダケヤマ殿~! すぐに車から飛び降りるんだ~!」
ゾンビの間をすり抜けて、何とか忍者走りで追いかけるカゲマルの声がダケヤマに届いた。
「それが、座席に張り付いたように動けんのや~!」
ヘルメットのズレで前も見にくくなった、ダケヤマの悲痛な叫びが返ってきた。
「……ヘカテの呪いが掛かっているのか! ……ならば!」
カゲマルはゾンビの体を踏み板代わりに三段跳びすると、フォークリフトの屋根に飛び移ろうと躍起となった。髪をなびかせ何とか天井に着地した瞬間、相対するヘカテに刀の切っ先を定める、が……隙だらけの体に魔法攻撃をモロに浴びたのだ。
「ぐわあああっ!」
「何や? 一体、屋根で何が起きてるんや?」
下半身を吹き飛ばされたカゲマルが、屋根から転がり落ちる。とたんに周囲のゾンビが、わっと群がってくるのを感じた。
「痛てて……くそ、やられたか! だがゾンビに食われて再生を続ける無間地獄はお断りだ」
上半身だけのカゲマルは、右腕と左腕で立ち上がると逃げ始めた。
「再生速度……緊急にして最大!」
失われたはずの下半身が泡立ち始めたかと思うと、あっと言う間に半身が伸びてゆくように再生された。だが当然、再生されたのは体だけで、袴や褌は失われたままである。
「ダケヤマ殿~! 下半身丸出しの変質者みたいになったから、もう無理だ~」
「あんた何者やねん~?」
「不死身のバンパイア忍者~」
何やねん! 何でもアリか! 太陽の光は大丈夫なんかい! と思った所で、いよいよ城壁が迫ってきた。石畳の先には姫路城の石垣のごとく強固な造りの壁が立ち塞がり、暴走フォークリフトを待ち構えている。
「もう、止めて下さい~!」
「…………ここがお前の死に場所だ」
「そこを何とか~! ヘカテ様~!」
「……ゾンビの一員にしてやる」
とても珍しい事に、ネクロマンサー・ヘカテが人語で会話してくれた。たとえそれが引導を渡す言葉であったとしても。
ついに草刈り機を放り出したカヤタニが、相方の危機を救おうと駆け出した。それは無駄である事は分かっているのだろうが、鉄塊の衝突を止めんばかりの勢いだ。
「ダケヤマあああ~!」
「カ、カヤタニ~! 飛び出し禁止じゃあああ! ブレーキが効かへんのじゃあああ!」
「そんなこたぁ、一目瞭然や~!」
ダケヤマには見えた……車に轢かれたガンプラのようにバラバラになる自分の姿が。もう石造りの壁は目と鼻の先だ。
そして邪悪な微笑を残し、飛び降りるネクロマンサー・ヘカテの素顔がフードの奥から…………艶やかな黒髪に妖光を放つ瞳……とんでもなく美少女であった。




