王国の危機4
アビシャグは治癒魔法を終えると、制服スカートの草を払い、ゆっくりと立ち上がった。
「カヤタニさんの言う通りです。あなた方では戦力にはなりません。何度も言いますが、今すぐお帰りになって下さい」
「そうや、お前は戦力外通知じゃ! 何を血迷ってるんや、大概にせえよ!」
喚くカヤタニを尻目にダケヤマは、顎をさすりながら口を開いた。
「嘘こけえええ……」
『え~っ!?』
相方と魔法使いが同時にハモった。
「今は、たった一人でも味方の戦力が必要なはずやろ……。それから、あっちゃん! 俺から大事な頼みがあるんやけど……」
「なっ、何ですか、急に?」
ダケヤマは、いつになく真面目な表情で、眼鏡の奥にあるアビシャグの茶色い瞳を見つめた。年頃の彼女は、少し照れて頬を桜色に染める。
「――カヤタニを、どうかカヤタニを、元の世界に戻してやって下さい」
「……………………!」
カヤタニもアビシャグも思わず絶句した。ダケヤマが放った言葉の意味を、そのまま受け取ると、自分一人で残るような言い分だ。
「何や知らんけど、俺はこの世界に留まって一緒に戦いたい。もう誰が何と言おうとな! ひょっとしたら、あの世行きかもしれへんけど、そこは自分で決めた事やし、まあ~しゃあないかなぁ~って。でもな、カヤタニにとっては全く無関係なんや。義理人情もこの場合、当てはまらんやろ。お前は先に日本へ帰ってネタでも考えといてくれ。色々とスゴい経験もしたし、SNSで拡散したらメッチャバズるでぇ〜。俺も用事を済ませたら、すぐ戻るし~」
「……だまれ」
「へぇっ!?」
「だまれっちゅーてんねん、ドアホ!」
「か、カヤタニさん?!」
アビシャグは驚きを隠せずに、魔法の杖を草むらに倒しそうになった。
「ダケヤマ~、お前さっきからワガママみたいに自分勝手な事ばかりぬかしよって、ええ加減にせいや。何やと? 先に日本へ帰れやと? アホかーッ! 何、人の意見も聞かずに、先先決めてかかってんねん。私を舐めとんのか、コラ~! 相方もなしでスカンピンが続けられる思ってんのか? 一人でコントができると思ってんのか? 私はピン芸人か? ちゃうやろ~、ボケえええ!!」
カヤタニの迫力に気圧されたダケヤマとアビシャグは、仰け反った。
「私も残るわ~い! 覚えとれよ、ダケヤマ! もし日本に戻れんようになったら、全部お前のせいやからな! 一生恨んだるわ、このスケコマシ野郎!」




