嵐の前の静けさ
紺碧の空が暗雲に色濃く支配される時、狂おしい風が流れては消え、それらが禍々しさを否応なく呼び寄せるかのようで、無力な人々は言いようのない不安と緊張に苛まれる。
厩舎の馬は落ち着きをなくし、犬は見えない何かに怯えて吼え始めている。
城内は慌ただしさを増し、騎士団も正に臨戦態勢の真っ只中にある。
場違いなダケヤマとカヤタニはここにいた。
様々な従者を付き従える騎士団長の無頼庵は、彼らの姿を認めるなり、こう怒鳴りつけたのだ。
「お前達、まだここにいたのか?! 目の前をウロチョロされては困る! どこか城内の隅にでも引っ込んでおれ!」
ちょっとムカついたダケヤマは、腹を括って団長に申し出た。
「何か、何か少しでも俺達にできる事は?」
「ある訳なかろう! さっさと帰っておけばよいものを……!」
これ以上足止めすると、今度こそ腰の剣で一刀両断にされそうだ。カヤタニはダケヤマを引っ張ると、かぶりを振った。
「止めとけ、最前線で戦う奴らは忙しいんや」
「でもなあ……、せっかく残ってまで協力するって言うてるのに、あんな邪険にせんでも」
幸いな事に話を聞いてくれる魔法使いアビシャグが、お笑いコンビのすぐ傍にいた。
「こうなる事は承知の上でしょうに。あなた達は誰からも期待されていないのですよ」
「そう言われてもなあ~。裏方でもいいけど、俺達はメッチャ先進的な世界から来たんやで。現代知識を活かして戦う術はないんかいな」
カヤタニは相方の腹を肘で軽くつついた。
「ダケヤマ~、何もわざわざ危険な前の方に行かんでもええやんか! 例えば補給係なんかどうや。それなら戦いの素人でも何とかなるんとちゃうか?」
その時アビシャグは、何かを思い出したように手を叩いた。
「そう言えば、あなた達より前に召喚した人が残していったモノがあります」
「何や、そんな人がおったんかい。早よ言えや! 何やねん、残したモンって?」
「説明するより、見て貰った方が早いでしょう」
アビシャグはカヤタニの手を取ると、城の裏手の方にある倉庫に案内すると言い出した。
「さあ、二人とも付いて来て下さい。とっておきのモノがありますから」
魔法使いに促され、迷路のような城内をマラソンする。ありとあらゆる人にぶつかり、咎められながらも目指した倉庫は、地下を伝って更に進んだ離れにあり、石造りの立派な建物だった。
「カヤタニ、あっちゃん、待ってくれ。……ハア、ハア、もう息が上がってしもうたわ」
「いくらなんでも早すぎるやろ! アンタの体力は、子供並みか~」
「ちょっと待ってて下さい。今封印を解きますから」
魔女の文字が刻まれている錠前に向かい、アビシャグが魔法の杖で小突くと、あっさり堅固な扉は開かれたのだ。




