マルシェにて
ダケヤマはファンタジックな世界の人々を驚かせ、注目を集めたいがためにポケットの中をまさぐったが、当然何も出てきやしなかった。
「オイオイ、カヤタニ~。スマホ持ってきてるか?」
「まさか。本番のステージ上にスマホを持ち込む馬鹿はおらんで。楽屋に置いた鞄の中にしまったままや」
「ええ~?! じゃあ、元の服から着替えたら、ほぼ現地の人やん。文明社会の日本から来たっちゅう証拠なんて、何も残らんのとちゃうか?」
「う~ん、そうやな。ハイテクな物って、何も持ってきてないと思う。あえて言うなら……」
「あえて言うなら?」
カヤタニは左眼のカラーコンタクトを外して手の平に乗せると、ダケヤマに見せた。
「あえて言うならば、このカラコンやな!」
「そんなもん自慢げに見せたって、皆に魚のウロコやって言われるのがオチやん」
「多分、そうやろな」
「ウワァ~~! なんて無力なんや、俺達は!」
頭を抱えた相方の肩を叩き、気合いを注入したのはカヤタニ。更に反対側の手で、自分のこめかみ辺りを指差す。
「ダケヤマ! 私らは日本で生まれ育ったんやで。これまでに蓄積された先進的な知識と経験があるやんか」
「そ、そうなのか!? まあ、もうすぐ元の世界に戻るし……、もうええかな」
「何やねん、アンタは~」
「わはは!」
店の主人は、暫く呆れ顔でコンビの会話を見守っていたが、ようやく口を開いた。
「面白い二人だね~。恋人? それとも夫婦かね?」
『違います。仕事仲間です』
男女が即答すると、主人はおやおや、といった怪訝そうな表情を作ったが、すぐに愛想笑いで誤魔化した。
「そうだ、お一つどうだい? 今日は珍しく梨のいいのが入ってんだ」
主人が自信ありげに勧めてくる果物は、スーパーで売られているラフランスに比べ、かなり見劣りするものだったが、よい香りを放っていた。
ダケヤマは、思わず手を伸ばす。
「う〜ん、朝飯を腹一杯食ってきたから、洋梨はもう用無しやなあ」
「そんな事言わず~。異世界の果物なんて、もう二度と口にできひんかもしれへんで」
カヤタニはリンゴやナシを籠に一杯詰め始めた。
「代金はこれでいけるかな?」
カヤタニが城で貰った金貨を一枚手渡すと、店の主人はコインより目を丸くして驚いた。
「これは……! クリューザーランド金貨! あんた、これ一枚でこの店丸ごと一軒買っても、まだおつりがくるぜ!」
「ひええ~!」




