マルシェにて2
「おい……、どうする、ダケヤマ。まだ金貨は山ほど残ってるで」
「いやしかし、日本に戻っても使えるかどうか、持って行けるかどうかも分からへんで」
改めて王国の人々の生活を観察してみると、明らかに疲弊しているようだ。
やさぐれた傭兵が目をギラつかせながら歩いているかと思えば、広場のあちらこちらで難民のようなボロを着た人々が、掘っ建て小屋で力なくゴミを集めている。
治安の悪そうな街中で、目立つとターゲットにされそうだ。店の主人は乞食のような子供を追い払いながら言った。
「お客さん、外国の方? 変な方言だなあ。一体どこから来たの?」
カヤタニは異世界の人に、どう説明したらよいのか分からず、フクロウみたいに首を傾げたまま適当に答える事にした。
「う~ん、東の果てにある日本という国からです。ジャパンとも呼ばれてます」
「へえ! 聞いた事もない国だなぁ。今ここ以外は、ネクロマンサーに攻められて壊滅的になっているってえ話だけど、アンタの国は大丈夫なのかい?」
知るはずもない情報を、全く分かっていない顔のダケヤマが答えた。
「ネクロマンサーって何やねん? ゲームでしか聞いたことないで~。ホンマにそんな奴おるんかい?」
すると主人は『はあ? 何言ってんだコイツ』といった表情を隠さずに言った。
「お兄さん、本当に知らないのかい? 今、ディアブルーンで猛威を振るっているヘカテの事を? ……おっと言っちまったよ。その名を口にしただけで、即座に呪われて寿命が縮まるとまで言われている、ネクロマンサーの恐ろしい話をさぁ」
「そんなん、俺ら平和な日本で暮らしてたのに、知る訳ないやん。まだ来て一日も経ってへんねんで!」
「そうかい、もっと何か買ってくれるんなら、特別に教えてあげてもいいですぜ」
「おっさん、商売上手やなあ。まるで大阪の商人みたいや。ええで、納得いくまで、ばんばん買うたるわ」
「そうこなくっちゃ! へへ、今日は早く店じまいできそうだな」
「ええから早よ教えんかい」
「まあまあ、そんなにヘカテの事が知りたいのかい? え~、そうだなあ、……奴は闇の支配者ヤマナンの眷属とも、分身とも言われている」
「うんうん……」
「……老人あるいは、この世の者とは思えないほどの美しい女の姿をしているらしい。――ってえ言うのも、黒いベールを常に被っているから、誰もヘカテの顔をはっきりと見た者はいないのさ。何でも、その顔を見た者は何だか死にたくなって、この世に生まれてきた事を後悔するらしいぜ。おお、怖いねえ~」




