【8話】予想外の出会い その4
砂煙が立ち上る、変わり果ててしまった私の職場。
1歩遠ざかった、私の目を手に入れる道。
シナリオと違うのは、ゲームでは店と共に吹っ飛ばされた(と思われる)店主さんを、間一髪のところでヴァルデが救出していたから、被害が店のみに抑えられていたところ。
あの短時間でどうやって移動したのかは分からないけれど、ちょっと離れた所にヴァルデが店主さんを連れて避難していた。
流石、ヴァルデ出来る子だ。
それに比べてこの王子様は、
「とりあえず使用人になる?それとも他にやりたい事あるかな?なるべくナイの希望に沿うようにしてあげる。あ、でも王宮内限定にしてね」
ウキウキしながら、私の新しい職を勝手に決めようとしているから力が抜ける。
王宮内でやりたいこと?
今すぐあんたをはっ倒したいわ。
強制スキップ機能で最終ルートまで行って、さっさとあんたを消し去りたい!
天使なの見た目だけで、中身噂通り。いやそれ以上に悪魔じゃないか。
実物目にすると、すごくすごーくよく分かった。
この人、封印してでも大人しくさせなきゃやばい人なんだと。
そんな事を思われているなんて、思ってやしないだろうレイ様々は(もしかしたら察しているのかもしれないけれど)、
「ナイはいくつ?」
なんて質問をしてきやがった。
「………………12」
そうだよ、私仕事できる子(自画自賛)だったからつい忘れがちだけれど、まだ12歳なのよ身体の年齢は。
「一般的な社交界デビューって16歳だよねぇ」
レイは、何かを考えるように「んー」と言う。
んなこと知るか馬鹿。日本生まれ日本育ちの生粋の日本人は、社交界デビューなんて催し一生経験しないんです。
異世界転生したけれどモブだし、私ご覧の通りの平民だもん。たったいま、無職の平民に戻りましたけれどね。この目の前の男のせいで!
貴族じゃないから関係ないけれど、年齢的には社交界デビューはまだしないらしい4歳下のお子様相手に、ここまでするって特殊性癖の持ち主なのかしら。レイにそんな設定あったっけ?
私の中で、レイ=ロリコン疑惑が浮上した。
うんそうだよ。特殊性癖持っていなきゃ、ただのモブに主要キャラが絡んだりもしないだろうし。
ロリコンじゃなくても、この人もしかしてブス専ならぬモブ専とかなんじゃない?
頭の中がぐるぐるする。
「いっそ、どっかの貴族の養子にでもなっちゃう?で、王宮に修行に来てる体にしてさ」
嬉しそうに提案されるけれど、丁重にお断りします。断固拒否、だが断る。
私はね、地位が欲しいんじゃなくて目が欲しいの!目!地位より何より、まず先に目が欲しいの!
なんか施してくださるおつもりならば、目をくださいよ目を。
って嘆いても、そもそも目を手に入れる方法が、今のところ"シナリオに組み込まれている"事しか分からないから、具体的な案が出せなかった。
変な奴には絡まれるし、って言うかその変な奴に職場潰されちゃったし。
なーんで、この人がツェルに封印されるよりも前に私を転生させたんだ神様……。
気分は最悪以外の何ものでもないけれど、
「…………王宮に行けばいいんだよね?」
ほとんど外れていた接客モードの仮面を脱ぎ払い、敬いも尊敬も一切ない話し方に変えて話し掛けた。
ちょっと良い事思い付いたから。
「うん!来てくれるよね」
「はぁ……一旦荷物纏めて来ていい?ちゃんと戻って来るから。その後どうするかゆっくり決めたい」
敬語からタメ口に変わっても態度が明らかに急変しても、全く動じない殿下は、
「えー」
ただ、私が家に帰ると言っただけでめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
絶対逃げるって思われている顔だよねこれ。
そう言うところは勘がいいのね。
「ほら、一応私女の子だから。必要なもの色々あるの」
「いいから黙って行かせろや」って、無言の圧力をオブラートに包みまくりながら掛け続けていたら、
「うーん…………分かった」
ちょっと不服そうな言い方されたけれど、OKをもらうことが出来た。
さて、私はこれ幸いと、レイの気が変わって着の身着のまま連れて行かれる前に、急いで住み着いていた家に向かう。
うん、勿論逃げないよ?ちゃんと戻りますよ。
ただし、この姿でとは言っていないからな。
ひょっとしたら悪役よりも悪役みたいな笑いを浮かべた私は、レイ達の姿が完全に見えなくなった所で、周りをよく確認してからステータスを開いた。
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【名前】ナイ/女A
【年齢】12
【職業】パン屋の店員▼
【■■■】
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【好感度パラメーター】
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■■■/■■■
・ヴァルデ・ベルク▼
000/100
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■■■/■■■
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■■■/■■■
・アシュレイ・スティロアビーユ▼
025/100 ⤴︎︎︎⤴︎︎⤴︎︎︎
【■■】
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■■■■■■■■■■■
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おーい、なんか新しい項目増えてるぞーい。
あからさまに、■が減ってるじゃないか。
なんだか知らない間にちょっと進化?していたようで、新たな項目をGETしていたから驚きだ。
新しく見えるようになったのは、【好感度パラメーター】。
恐らくレイとヴァルデ欄は開いているのに、まだ遭遇していない人の欄は開いていないところから見て、主要キャラと接触したのでこの機能が開いたのだと思う。
…………やっぱりあるんだ好感度とか。
暗黙の了解で、好感度パラメーターは見えませんよーとかならないんだ。しっかり数値化されちゃうんだ。
転生したのに、ことごとく仕様がゲームに忠実過ぎてなんか泣けてくる。
乙女ゲームに転生って、もっとドキドキするものじゃないの?モブだから?私モブだからこうなのかなぁ。
夢にまで描いていた転生が理想の転生じゃなさ過ぎて、世の中上手くいかないなぁって思うとは流石に思わなかった。
ちゃっかり【アシュレイ・スティロアビーユ】殿下の、好感度が上がっているのも気になるし。
さっきのやり取りでいつ上がったんだろうか。
25ってなんでよ?初対面から25も上がるってなかなか凄いよ。本当の乙女ゲームでも無かったよ。
私なんかむしろ、好感度マイナスになるような事しかやられていないんだけれど、私の心象は反映されないのかい。
まぁ好感度パラメーターは見えるけれど、好感度が上がった時に出る薔薇が浮いたり、シャラランラランって感じの謎のエフェクト音が流れたりする、分かりやすい好感度上昇演出は無いようだ。
どうせならそこまでやっておこうよ、そっちの方がまだ徹底してて受け入れられるよ……と、誰に言うでもなくため息を吐く。
あとね決して、決して見ないフリをした訳じゃないんだ。ちゃんと見えているの。
名前欄に君臨した"ナイ"の2文字も、ちゃんとがっつり見えているんだ。
その上で訴えたい事は、
「ほら、やっぱり固定名"ナイ"になっちゃったじゃん!!」
主要キャラクターパワー恐るべし。
いやでももしかしたら、"ナイ"の横で未だしつこく滞在し続けている"女A"のお陰で、まだ"ナイ(仮)"かもしれないから。希望は強く持とうと思う。
悲しくなりながらも、職業のところに目線をやった。
心無しか前回より、ほんの少しだけ持続性が伸びた気もする。
じっと見つめれば、開かれる詳細ウィンドウ。
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【職業】パン屋の店員▲
【所持職業】
・国民
∟この職業に変更可能です。
[変更する/変更しない]
・パン屋の店員
∟現在この職業に設定中です。
※この職業は他の職業に転職すると使えなくなります。
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いま自動お着替え機能を使うと、パン屋の店員は使えなくなるらしい。お店なくなっちゃったし当たり前と言えば当たり前なんだけれど。
ちょっと黄色いエプロンを気に入っていた手前、やっぱり、
「あの自己中王子、必ず仕返ししてやる」
せっかく自力で見付けた職場を潰された恨みは深かった。
簡単にステータス確認を終わらせた私は、それからすぅっと深呼吸をして、もう1度ステータス画面"町娘"を見た。
さようならパン屋の店員。
短い間だけど楽しかったよ。全てにおいて同じモブしか来ないから、同じ会話しかしていないけれどね。
私のパン屋ライフは、あの店でチャチャパン以外のパンの名前を覚えないまま終了する。そしてこの先も、唯一覚えたチャチャパンが役に立つ日は無いのだろう。
さようならチャチャパン。
君しか売れないお陰で、私は毎日違う種類のパンを食べられたよありがとう。
そうして、ちょっと眩しい程度の淡い光が私を包み込んだ後に、再び目を開ければ、私はまた女Aの姿に戻っていた。
と言っても作戦と言う名のただの賭けは、これからが本番。
ぐっと足元に力を入れて、私は元来た道を引き返すのだった。




