【48話】欠陥作戦、本番。
エリーを助ける道が出来た。
そのことに興奮してうっかり流してしまっていたが、冷静になったらとある疑問が浮上して、私は使用人部屋の自室で1人唸っている。
「(職業の下級貴族令嬢っていつ手に入れたっけ?)」
前まで無かった筈だ。
覚えている限りでは、ゴロツキ達と街中で鬼ごっこをした後、メイドに戻る為に庭園で自動お着替え機能を使った時だ。
あの時はまだ職業欄は王宮使用人が1番下で、その下に下級貴族令嬢なんて職業は存在していなかったと思う。
無かったかな?たぶん無かった、うん。
チラッと見ただけだったし、そもそもあの時はレイの観察と言う名の凝視が気になって、他のことは目に入っていなかったから、確かなことは言えないのだけれど。
下級貴族令嬢に気が付いたのは雨の日の時。
つまり鬼ごっこの日から雨の日までの間のどこかで、私はこの新職業を手に入れたのだと仮定する。
期間は絞れたとして、入手経路がさっぱり分からない。
「(どっかの下級貴族に養女にならないか!とかも言われてないし)」
と言うかこの下級貴族ってのも、どこの下級貴族かまでは書いていないし、名前も未だレイに認識されたのに解除はしてもらっていないから、「ナイ/女A」のままだ。
それはさっき確認したから知っている。
となると恐らくは、下級貴族令嬢と言う名のモブだと言うことだ。
貴族の娘さん達が集まる場所で、話すとしても一言だけ当たり障りのないことを言うだけの、主要キャラの後ろの取り巻きの、更に!後ろの方のご令嬢。
たぶん、あれだろう。そうに決まっている。
「それの上位職業がエリーって。間違っちゃいないけどさ……」
階級的にはたぶん、主要キャラ>サブキャラ>自我のあるモブ>役職付きのモブ>>>>>量産型モブなんだろうけれど。
王宮使用人見習いはちゃんと王宮使用人にランクアップしたのに、下級貴族令嬢はまだ使ってもいないのに、その過程を全てすっ飛ばした気がする。
その違いは何なのだろうか?
まぁ悩んだところで答えは出てこないのだけれど。
似たような取得のしかたとすれば、それこそさっき上げた王宮使用人見習い。
あれは確かレイの発言がきっかけで手に入れた筈で、なら最近「下級貴族の令嬢になる?」みたいなことを誰かに言われたかと聞かれれば、答えは否だ。
「分かんないから暇な時に考えよう」
しばらく悩んでからどうにもきっかけが思い付かなかった私は、早々に考えることをやめる。
「下級貴族令嬢は初めて使うけど、上手く行きますように」
鏡の自分に向かってそう呟くと、ステータス画面を出して新しく手にしていた職業の「変更する」のところを見た。
そうして現れたのは、多少髪のツヤが上がったように見えなくもない。
ほんのちょこっと質の上がった安っぽいドレスを見に纏った、
「……………女Aじゃんこれ」
1番初めにスタートした姿の、上位互換みたいな格好の私だった。
パッとしない色をした髪の毛は、相も変わらずパッとしない色をしたまま。
さっきまでふわふわで唯一いい線行ってた巻き毛は、何故か真っ直ぐストレートに進化してしまっている。
髪の毛だけは職業変えても変わらないと勝手に思い込んでいたけれど、そうでも無いと言うことが分かりました。
「下っ端のご令嬢って大概巻き毛じゃん!」
あれか?悪役令嬢がだいたい縦巻きロールだから、被るよね☆的なそんな感じの配慮なのか?!
絶句したところで、廊下から足音と話し声が聞こえてくる。
仕事を終えた使用人達が帰ってきたのだろう。
職業を変えると、何故か自動的に別人認定されるこの自動お着替え機能。
このままの姿だとあわや侵入者騒動に発展しそうで、慌てて使用人に職業を変更する。
姿が下級貴族令嬢からいつもの使用人に変わるか変わらないかのタイミングで、同室のマリーナが部屋に入ってきた。
焦りで心臓がバクバク言っている。
「先に戻ってたんだ」
「うん!早めにお仕事終わったから」
「そっか」
後ろから聞こえてきたマリーナの声に返した時、少しだけ声がひっくり返った気がしなくもないけれど、間一髪間に合ったようでひと安心。
胸を撫で下ろした時に、マリーナにこう言われて私は「へ?」と間抜けな声を出してしまった。
「あれ?ナイ、髪の毛真っ直ぐになってる」
その時、舞踏会当日は貧乏パーマをする!と、謎に無駄な決意を私がした瞬間だった。
◆
私はなるべくツェルとの細々とした打ち合わせをした。
穴ぼこだらけの作戦をどうにか無理くり補強して、前日の夜にやっと、なんとか行けそうなところまで持ってこれた。
そうして訪れた舞踏会当日。
務めて平静さを装いながらも、私は視線をキョロキョロ動かしながら王宮の廊下を歩いていた。
「(あ、居た)」
神々しく輝いた頭の、見るからにふてぶてしいお貴族様と、キツい目をした使用人が物陰でこっそり何やら話している。
二人は用心しているのか上手いこと隠れていて、他の人達は気付かなそうな位置にいた。
流石に今日ばかりは、自我のあるモブが沢山居るから分かり辛かったけれど、明らかにモブがしなさそうな動きをしていたから、割と早く見付けられてホッとする。
悪役見てホッとするのもどうかとは思うんだけれども。
標的を見付けたら若干急ぎ足で、私はツェルに事前に教えてもらった部屋に向かった。
王宮の所謂応接間だと思われる場所。
そこで毎年レイとツェルとエリーは集まって、昼のお茶会が始まるまで、雑談したり最終チェックをしたりと思い思いに休んでいるらしい。
1回お茶会が始まったら、舞踏会が終わるまで休憩が出来なくなるからだと、ツェルがそうボヤいていた。
扉をノックすると中から「はい」と返ってきたから、
「シャッテン第2王子殿下の装飾品をお持ち致しました」
と、あらかじめツェルと相談して決めていた大義名分を伝えれば、短く「入れ」と言われる。
部屋に入ると、窓の所に立ってぼーっと外を眺めていたレイが視界に入った。
また何かが邪魔だとか、そんなことを考えているのだろうか。
レイは隣に立ったヴァルデが話しかけても、たまに頷くだけで口は開かない。
他の騎士と一緒に入り口の近くに居たアストリットは、私に気が付いて「お疲れ」と口元だけ動かして小さく手を振ってくれた。
軽く微笑んでから視線をずらすと、浮かない顔をして軽く俯いたエリーが見える。
今日で1人に固定されて、自分は候補ではなく婚約者そのものになってしまう。
告白に近い訴えをした執事に断られてから、そこまで時間は経過していないから、エリーが心ここに在らずになるのも無理は無い。
「あ!」
「殿下」
窓の外をだらだら見ていたレイが私に気が付いて、声を掛けてこようとしたのを、ヴァルデがピシャリと止めた。
レイは不服そうにヴァルデを睨んでから、またつまらなそうに窓の外を見る。
今日は正直1分1秒も惜しいから、心の中でレイを止めてくれたヴァルデに感謝をした。
モブメイドにネクタイを調整してもらっていたツェルは、それが終わると壁に寄り掛かる。
両手で持った箱をツェルに渡そうと近付けば、無表情のまま横目だけ合った。
「そこに置いてくれ」
「畏まりました」
短く言われた言葉に従って、ツェルが指をさした小さい机の上に装飾品の入った箱を置くと、またツェルが一瞬だけ目を合わせてくる。
「(ルヴァッゲーダ侯爵と執事居た?)」
「(居ました。そのまま続行で)」
「(分かった)」
そんな短いアイコンタクトを交わして、私は部屋から出る為に扉に近付いた。
1度振り返ってから恭しく頭を下げて、扉を開けて外に出る。
完全に扉が閉まったのを確認してから、隠れられそうな廊下の物陰に避難してステータス画面を開いた。
「ツェルには上手く伝えられたから、次だ」
目線を下級貴族令嬢に移動させて、自動お着替え機能を使用すると、淡い光に包まれた後に、私の着ていた服は使用人専用の洋服から、水色のドレスに変わる。
それがもうまもなく始まるであろう、昼のお茶会に参加する為の準備だった。




