ファンダとルノ奮闘記
相棒であるファンダと少しずつホディーアン砦村での生活に慣れて来た頃。そろそろ炭鉱で採掘をしたいな~、そんな他愛ない話をしながら村の中を歩いていた。それを聞いた1人の少女との出会いが、大変な事件に巻き込まれることになった。
仕事斡旋ギルドのステータスチェックを受けたルノと。驚きの話をされたファンダは、
翌日。やや戸惑いの顔をしていたファンダを連れて、改めて領主の屋敷を訪れていた。
話は、前日に戻る。ファンダのスキルは『精霊使い』だったのだ。今まで魔法の才能があると思っていなかったファンダに、
「でしたら、領主様にご相談なさってはいかがでしょうか?」
エリアさんの勧めもあって、相談しにきた訳であった。
「ようこそ二人とも。そちらは初めてだったね」
柔和な穏やかな性格の領主様に出迎えられて、緊張が隠せないファンダ。それを好意的な眼差しを向けて、改めてステータスチェックを受ける。
「驚いたかね。ルノ君」
「はい」素直に頷くとバルメデさんが、力ある賢者であると知り。納得していた。
「うん、ファンダさんは水の精霊に好かれているようだよ。何か覚えはないかな」
「そういえば……」
恥ずかしそうに子供の頃。誤って沼に落ちたことがあって、何かに助けられたと語る。
「恐らくそれが水の精霊だろうね。しかし私では精霊魔法は教えられない、その代わり。君が覚え安いスキルには心当たりがあるよ」
勧められて商人のスキル『鑑定』の訓練を試してみないかと言われた。戸惑いながらそれではと了承した。
翌日。二人はバルメデさんに紹介状を書いてもらい。それを持って、守備兵の宿舎を訪ねた。
「あっ、お前たちはこの間の……」守備兵宿舎の前が、ちょっとした広場になっていて、見習兵の訓練真っ最中だったらしい。それを指揮していたのが、この間会った。長身スレンダーな女性アシジスである。
「これはバルメデ様の紹介状じゃないか!、今ソーニアさんレディナスに行ってていないのだ……」二人は思わず顔を見合わせた。いつ帰るとは聞いていないとのこと。少し悩んだアシジスは、
「副隊長ローダスさんと会ってみるか?」
アシジスに従い。留守番を任せられてる人物。ローダスに会うことになった。
宿舎の隣に似た建物がある。それが守備兵隊舎になっていて、一階は会議室。その隣が食堂とお風呂。二階が大隊長の執務室だ。
「失礼します」アシジスに続いて入ると。がっしりした体躯の中年男性が、額に汗を書きながら書類と向き合っている姿だった。
「どうしたアシジス……」
ちらりルノ達に気付き、右眉を上げた。
「ローダスさん、この二人は━━」
この間。ソーニアさんの訓練で会ったこと。今日はバルメデ様の紹介状を持って来たこと告げる。
「ふむなるほど。紹介状を見せてくれるか?」
おずおずとファンダが、紹介状を差し出した。中身を一読して、なるほどと一つ頷いた。
「アシジス、お前暇だったな」
にやり意味ありげに笑い。ある命令を申し付け、アシジスは戸惑ったようだが、生真面目に引き受けます。と言っていた。
翌日。矢の補充。食料と野営の支度を済ませて、ファンダと砦村北の入り口に向かう。
アシジスは既に来ていて、他にもう一人。アルマ見習い神官が着る。青い神道衣を着た子供が、神道衣に着られて、アシジスの背に隠れていた。
「遅いぞルノ、おはようファンダ」
「遅いって……」
まだ夜も明けてないのだが、ちらり空を見上げた。
「あのなルノ、女の子二人が先に来たんだぞ、遅いって言ったのわかったか?」ああ~そう言う考えもあるのか、苦笑気味にとりあえず謝る。
「よろしい」
偉そうに頷きながら。もう一人の少女。赤毛と左右に揺れるお下げが特徴の女の子。名をアニィーといい、いきなり歌って踊りそうな。元気少女ポイ名前である。「…………………………………………………………………」
ちょこんと頭を下げるアニィー。ブカブカの神官帽が、ずれて目元を覆う。失敗して焦ったのか、何度か直してはずれるを繰り返し。だんだんべそをかき始めた。
「大丈夫だよ」
ファンダは初めて見せる優しい声を掛けて、アニィーと目線を合わせながら、
「ちょっと待っててね」
コクン素直に頷いたアニィー、いつも持って歩いてたのか、服が破けた時の金具や糸と針が入った。いわゆるソーイングセットを持っていた。それを使って、まるで魔法のように。手慣れた手つきで帽子のサイズを直して見せた。
「どうかな?」
コクコク、ぽっ、照れた笑みを浮かべた。それに気を良くしたファンダは、
「ルノ少しいいかしら?」
「ああ~いいぞ」
何となく察した。次にブカブカの神道衣を脱がせてから。ズボンの袖をまくり、髪止めを使って調整、上着も着やすいように直してみせた。
「こんなもんかな、時間があれば、縫製もできるけど。今はこれでごめんなさい」
ふるふる慌てて首を振り、小声でありがとうと呟いた。
「へえ~ファンダさん、縫製出来るんだね。もしかして繕い物とか得意だったりする?」
「ア、うん、わりと得意」
恥ずかしそうにはにかんだ。意外な技術に感心しながら。四人は村を後にした。
古戦場跡に向かう道すがら、アニィーが見習い神官であること。アシジスの妹で、
「15歳……」
「あたしと3つしか違わなくて、引っ込み思案だけと仲良くしてやってね」
ファンダと同い年と分かり、アニィーはおずおずとよろしくとはにかんでいた。言われて見れば顔と髪色は同じである。アシジスがショートで長身だから、姉妹と言うよりも親子のようにも見えた。それよりもまさか自分より年下とは……、
「そっかあたしより年上だったんだね。よろしくねルノ」
年上とわかっても。ため口らしい。色々と諦めて、ため息を吐いていた。
アシジスの装備はプレートメイル、鋼鉄の盾を背に吊るしていて、主な武器はメイスとのこと。アニィーは長い丈のような武器、先端に3つ輪の鉄環が付いた物。連環と呼ばれる武器を背負っていて。腕に緑色の輝石が付いたブレスレットをしていた。基本アルマ神官は何も付いてない木製の丈を持って旅をする。アニィーのは多少なり戦いを想定した武器で、使い方は分からないが恐らく神官戦士見習いなのだろうと考えた。
古戦場跡で、ポップするのは最近までゾンビばかりだったが、最近ではスカルポーン、アンデットバット四色赤、青、緑、紫、グールが現れるようになった。街道の側なら滅多に遭遇しないが、グールが現れると商人では厳しい、新人冒険者でも、仲間にされる可能性もあった。
「どうも最近、ネクロマンサーが死者の迷宮を荒らしたらしくて。迷宮から出てきちゃったモンスターもいるらしいのよ」
それでソーニアは部下を連れて、ボーンドラゴンと呼ばれる厄介なモンスターを退治しに。アルマ神官長リドラムと出てるとのこと。それになるほどと頷いた。
四人は日が登ると。弱体化するアンデットの特性を利用して、次々にゾンビ、スカルポーン、時々アンデットバットと遭遇したら戦う、ドロップ品をひたすらファンダが『鑑定』していき、夕方に止めて帰った。それを3日も続けた頃か、スカルポーンが落とした錆びた剣を『鑑定』すると。はっきり武器のステータスが見えることに気付いた。
「アっ……ルノさん」真っ先に仲間であるルノに報告。
「おめでとうファンダ」
「アりがとう」
嬉しそうに笑っていた。
そんな時。すっかりぼろぼろになっていたファンダの包帯が、古くなっていたか分からないが、バラバラになって落ちていた。二人の目に曝された右腕は、青緑の鱗で覆われていた。
「アっ……」
真っ青になるファンダ、二人には内緒で伝えてあった。怖がることも、忌避することもなく。
「あっ……これ」
おずおずと可愛いピンクの包帯を差し出したアニィー、
「ファンダあたし達は友達だろ、大丈夫だから信用して、ね」
「アっ……、嬉しい…」ぼろぼろ泣き出したファンダ、アシジス姉妹は照れたように笑っていた。
アニィーに包帯を巻いてもらい。すっかり明るい笑顔を振り撒くファンダ、二人はすっかり仲良くなっていた。少しずつだが話をする姿に。アシジスとルノは笑顔で見守っていた。
それから時間がある時は、四人で採集、討伐の依頼をこなすようになっていた。ピリピリワームの糸を採集出来たのはそんな時だった。今日の仕事も終わって、「なあ~、そろそろ炭坑に行って採掘したいな」
「アの装備?」
「ああ~、ぼちぼち武器いいの欲しいからな」
「うん……私も、いきたいかな」
ファンダと話しながら歩いていた。ぴくり立ち止まった気の強そうな顔立ち、頬はこけ余分な物が削ぎおとされた。まるで刃物のような雰囲気をした少女は、今すれ違った二人組の言葉に切羽詰まった顔をする。
「どんな相手だろうと、俺は……」
二人組が消えた通りを。足早に追いかける。
「まだ夕飯には早いが軽く何か食べてくか?」
「うん、たまには……、お肉食べたいかな」
恥ずかしそうに珍しく言うので、目についた酒場に入り。幾つか注文をして、待っていた時だった。やたら気の強そうな女が、こちらを見つけるとズカズカ大股で近付き、いきなりテーブルにドカリと座る。いったい何だこの女は、戸惑いながら見ていると。
「なあ~炭坑に行くなら。俺も連れてけ、頼む」
今度は頭を下げられた二人は、顔を見合わせていた。
「えーと。いまいち理由が分からないからさ。訳を聞かせてくれるかな?」
「……そうだな、わかった」
彼女の名前はワンダ、ボートジア男爵が領主を勤める町の生まれで、代々鍛冶屋を営む家に生を受けた。今年17になること、12から修行してようやく一人前になったと思い。父に修行の旅がしたいと願い出たと言う、しかしそれを父は許さず。
「半人前が!、まともな剣すら打てないくせに何を言ってやがる」
「うるせえくそ親父。いつまでもガキ扱いするな」
と、売り言葉に買い言葉。そのまま家出をしてしまったこと、どうにか城塞都市レディナスにたどり着いて、仕事が出来ないか鍛冶屋を訪れた。そこで見たのが……、自分と同じ女性でありながら。領主に認められた名工と呼ばれた。鍛冶師がいたことだった。ワンダはすがる想いで彼女に弟子入りを志願したこと。何度も何日通うワンダは。ひたすら渋る彼女に弟子入りを志願し続けて。ようや女性が折れたこと、試験が受けられるようなんとかこぎ着けたことを語る。
「なるほど……な、それで試験ってどんなの?」
「炭坑で屑鉄を採掘して、鋼のインゴット5本作り出すことさ」
鋼のインゴットを作り出すには、幾つか方法があった。最も確実なのが、良鉄を加熱して砕き、不純物をさらに取り除いて、真金を加えてインゴットを作り出すのが一般的である。
もう一つが、屑鉄を100個集め幾つか複雑な工程を行えば、鋼のインゴットが作れる。可能性があった。無論失敗する可能も高く、そうなればまた屑鉄集めしなければならないが、
「お願い!、俺を手伝って、その……お礼は出来ないけどさ……」
かなりむちゃくちゃなこと言ってることも。理解してるのか半分は焼けパチぽいが、本人は真剣で真面目な面差しである。思わず顔を見合わせる二人。確か炭坑でたまに出る。アークライトと呼ばれる輝石を集めてくれと言う依頼があった。
「じゃ条件を飲んでくれるなら、手伝うよ」
これから三人でアークライトの輝石を集める依頼を受けること。モンスターと戦う時はお互い協力すること。その代わり屑鉄集めを手伝うと約束した。
「お金はあるのかな?」
「あっ……」
お待たせと乗せられた料理の香りで、くう~可愛らしくお腹が鳴っていた。
「じゃ今日は奢るから、依頼料から宿代もろもろ引かせて貰うからな」
「うっ……、ゴメン」
顔を真っ赤にして、俯いていた。
ワンダは久しぶりにご飯を食べたと言って。ガッツリ食べた。意外と大食いで驚いた。
翌日、ワンダ用に仕事斡旋ギルドで中古武器と防具を買い与え。装備させた。やはり力があるからか長剣を選んだ。それと革の鎧、革のブーツ、
「おはようございます。今日はどのお仕事にしますか」
三人で、アークライトの採掘をやることを伝えた。それからワンダのギルド登録と。リュックを借りたいと伝える。「あらリュックをですか?、良かったら理由を聞いても?」
そこでワンダの試験のこと伝え。鍛冶場を借りれないかと相談する。
「それなら。親方に聞いてはいかがでしょうか、ワンダさんの試験のこと相談すれば、きっと力になってくれますよ」
職員の言う通りだなとリックを借りる約束をしてから。三人は、鍛冶屋を訪れた。凄まじい熱気、10人はいる弟子たち。
「あっルノさんいらっしゃい。そちらの二人は初めてね」
にかりと笑った受付の女性は、何年も強い炎と戦った者特有の強さを持っていた。鋼の美しさドーラとはそんな女性であった。まず彼女にワンダを紹介して、簡単に身の上話と。試験のことを話した。
吹き出したように笑っていた。
「師匠には後で言っとくわ。多分愛弟子のお願いだから、多分練習用の工房使わせてもらえるわよ」
そして城塞都市レディナスの大工房主エレオルが、ホディーアン工房の親方ドンペナの弟子だったと聞いて。三人は驚いた。
「ついでに魔鉄拾って来たら高値で買うから、よろしくね♪」追加情報で、炭坑地下7階にある。黒い岩盤を砕くと時々魔鉄が取れるとのこと。
「私にはまだ扱えないけど親方、エレオル姉さん、ティム様なら扱えるわね」
何故そこに公王の名前が出たのか気になったが、とりあえず炭坑に向かうため。保存食、ランタン、回復薬を少し購入。貸し出しのつるはしを二本借りて、三人は出発した。
二人には慣れた道のりでも。何もかもが初めてのワンダは、バッタにさえ苦戦しながら、どうにか炭坑に到着した。多少疲れた様子だ。
「少し休憩して、それから炭坑の中を探索してこうか」「すっ、済まない……」
何だか元気までなくしたようで、少し気になった。
日がだいぶ登った頃。三人は炭坑に入っていた。ルノは入り口をスキル『追跡』でみると。ここしばらく人が入った形跡は無さそうだ。その代わり動物系のモンスターの足跡。蜘蛛系のモンスターが徘徊した足跡を発見していた。
「先頭はファンダ、ワンダ、俺でいく。最初の採掘場所は入り口から近い筈だ。中の様子を見るため。今日はそこで採掘してみようか」二人は頷き、先を急いだ。
炭坑の入り口はこれといったモンスターは出なかった。最初の採掘場を見つけた。ファンダに見張ってもらい。二人はつるはしを振り上げ。何度か掘り進めると。屑鉄がワンダ6、ルノ3だけで、やはり入り口だけあっていまいちだった。今日は地下二階に降りる階段を確認して戻るとき、長足蜘蛛を見つけた。一匹だったので倒し。糸を採取して小屋に戻る。
翌朝、板間で寝たのでいまいち疲れがとれなかった。外で寝るよりましだと半分諦め。三人で干し肉と乾パンを詰め込んで、炭坑に入った。
昨日足長蜘蛛を倒した場所を見ると。ファントがいた。素早く矢を放ち二匹を動けなくして、ファンダ、ワンダが止めを刺した。
「最初の採掘場で試して、それから地下に向かおうか」
「分かった」
通路を真っ直ぐ進むと。昨日の採掘場に出た。今日はファンダ、ルノが採掘してワンダが見張りをした。
何度かつるはしを振り上げ、掘り進めるとゴロンと黄色い石が出た。
「これがアークライトの原石か」
「入り口でも出るんですね」
結局アークライトはそれ一つだけで、屑鉄7を手にいれた。それをリュックにしまい。少し休憩してから、地下二階に降りていく。
仕事斡旋ギルドで地図を見たとき、地下三階まで殆ど同じである。出現するモンスターもだいたい同じで、地下四階から途端に強くなるから。出来れば三階までで依頼のアークライト10個を手に入れたい所だ。
三人が二階に降りた所で、ファントの群れと遭遇。ワンダが軽症受けたが、どうにか6匹倒した。少し休み。それから二番目の採掘場を目指した。
途中二度ほどファントの群れに遭遇。今度は余裕があったからルノが三匹仕留め。二人で二匹仕留めた。奥を目指す途中に地下に降りる階段を発見。
「この奥が採掘場ぽいけど、これって……」
足長蜘蛛の巣になっていた。流石に面倒だから先を急ぎたいが、悩ましい所であった。しかし採掘場が少なくなるのは遠慮したい。
「ちょっと矢を消費するが仕方ないか……」気合い入れて、7匹いた蜘蛛を倒して、三人で協力してわりとまとまった量の蜘蛛糸が取れた。すっかり見違えた採掘場に満足していた、早速ファンダ、ワンダがつるはしを振るい、ここしばらく採掘されてなかったのか、アークライト6と屑鉄25も取れた。流石に荷物が重いので今日は村に戻ることになった。
集めた屑鉄はお金を払えばギルドで預かってくれると聞いていた。元々ギルドの倉庫はそうした物だたのだ。しかし期限を過ぎても放置するものがいるので、そうした素材は売却して運営資金に、武器防具は中古品として安く冒険者に売る。結局炭坑から出て村に戻ったのは暗くなった頃で、お風呂がしまる前にさっぱり汗を流してからギルドに寄って、倉庫を借りた。素材の屑鉄、ビリビリワームの糸、絹糸まとまった量を保管。その日のうちにつるはしを返して、武器の整備を頼み、今日はゆっくり休んだ。
翌朝。また鍛冶屋でつるはしを借りて、武器を受け取り、矢の補充、干し肉と乾パンを購入。早めのお昼を食べてから。再び炭坑を目指した。
2日前と違い。ワンダも少し慣れた様子で、切れ味の戻った長剣を使って、ポップした殿様バッタを1人で倒して見せた。
「やっぱりお風呂入って、宿で一泊したから体が軽いや♪」上機嫌で、鼻歌混りに先を歩いていた。
炭坑に入り最初の採掘場で、ワンダ、ルノがつるはしを振るう、屑鉄が7個手に入った。
二階に降りて、ファントの群れを発見。ルノが二匹倒して、二人が一匹づつ倒した。二番目の採掘場に到着するとファントの最大10匹の群れがいた。
「二人は入り口からファントが出ないように牽制して」
「はいよ任せな」
「はい!」
二人の顔に気合いが入る。ファントとは犬型の中型モンスターである。集団攻撃は厄介だが、慌てず対処すれば、苦労せず倒すことが出来た。
「うりゃ!」
最後の一匹を斬り倒して。ようやくホッとした。ひとまず休んで、息を整えた。「さてやろうか」元気一杯に立ち上がり。ワンダは腕捲りをした。
「ファンダはもう少し休んでて」
「うん、アりがとう」
結局アークライト1、屑鉄15が出た。
三階に降りた。すると辺りは蜘蛛の巣が沢山あって、繭玉が鈴なりにあった。
「まだ新しいな……」
それに巣も大きい。事前に聞いていたよりも危険かもしれないと判断。
「二人はここで待てって、少し様子を見てくるから」
「わっ、分かった」
物見には慣れていた。細心の注意を払いルノは、三階の坑道を見て回り。その殆どが大きな蜘蛛の巣で覆われていた。
「普通の足長蜘蛛じゃないな……」
嫌な予感がしたので二人の元に戻り、もう一度二階で採掘をこなした。結局アークライト2個、鉄屑30手に入れて、依頼は果たしたのでその日の夜村に戻る。
翌朝、依頼結果報告にギルドの窓口に寄った。
「おはようございますルノさん、ファンダさん」
上品な笑顔のエリアさん、こう見えて仕事斡旋ギルドの責任者である。
「仕事の報告と炭坑の異変について知らせたい」
まず報酬の金貨5枚受け取り。別室で、三階で見た巨大な蜘蛛の巣。二階の採掘場が蜘蛛の巣に覆われていたこと。
「まさか……そんなことになってたとはね」
思案気な顔をして、しばし考えていたが、
「ルノさん、この話ソーニア様にお伝え下さいませんか?」「構いませんが……」
「ではわたしはバルメデ様に知らせて参りますので」
そう言うことか、しっかり頷き、三人は守備隊の宿舎に急いだ。
「そうか……炭坑でな、ローダス」
「ハッ」
「10人を選べ」
「直ちに」
足早に執務室を後にしたローダスさん。この場にはもう1人アシジスが残っていた。
「三人には同行を願いたい」
「構いませんが、俺達はあくまでも屑鉄集めが目的です。ご了承下さい」
「分かっている。アシジスお前は彼等と同行して、此度の礼だ数日手伝ってやりなさい」
「はっ、承知しました」
このところアシジスとは顔を合わせていなかったからか、嬉しそうな顔をしていた。
「ルノ急がせて悪いが、明日の朝には出る支度を済ませて欲しい」
「はい、失礼します」
アシジスを加えた四人で、執務室を出た。
「ルノ、そちらの女性はどなただ?」
部屋を出た途端。険しい顔で、ワンダを見ていた。
「えっああ~アシジスは初めてだったな」
それでワンダとの出会いから。試練のこと屑鉄集めをやっていて、蜘蛛の巣を見つけた話をすると。少しだけホッとした顔をしていた。それにワンダも女だからピーンと来たのだ。いまいち女心がわかっていないルノに。なるほどねと苦笑していた。ファンダはまだお子ちゃまな所が強く。いまいち機微に疎い性格だったので、ルノにお兄ちゃん対応である。だからアシジスは安心していたのだが、いつの間に新しい女が、仲良くなった男の側にいたら、焼きもちくらいは焼くかな~っと。
「初めまして、しばらくよろしくね」
パチリウインクされて、アシジスは何と無く分かり、
「そっそう……アシジスよ。よろしく」
握手していた。どうも置いてかれたような気がして、ルノは眉をひそめた。その日準備を早々に済ませて、ルノ達は休む。
翌朝北の入り口に三人が向かうと。調度ソーニアさん、アシジス、守備兵が待っていた。
「揃ったようだな。出発」
守備兵と出発したルノ達は、事前の話通りアシジスを仲間に、炭坑に急いだ。
僅か1日の間に。入り口から蜘蛛が出てきていた。それを見たソーニアは、素早く弓を外した。流れるように矢を構え。アビリティ乱れ打ちを発動。このアビリティは幻影の魔法で、幻の矢を無数に増やし。敵を殲滅するアビリティだ。しかし魔法の耐性が高い個体には効果がない。
「よし。上手く行った!」
この時のルノは、まだ知らなかったので、ソーニアが矢を無数に増やしたと非常に驚いた。
それにアシジスは我が事のように嬉しくなって。少し自慢した。
「どう驚いた?」
「ああ、あんなの魔法じゃないか」
素直に頷くルノ、ますますアシジスは上機嫌になって。
「ソーニアさん、剣も達人なのよ♪」どうやらアシジスにとってソーニアは、尊敬の対象らしいなと小さく笑っていた。
坑道に沿って、進んで行くと。昨日とはやはり一変していた。そこら中真っ白く。蜘蛛の巣が張っていた。
「総員戦闘準備。かかれ!」
5人づつに別れた守備兵は、左の坑道に入り小さな部屋の蜘蛛の巣を切り払い。襲ってきた足長蜘蛛を蹴散らしてく。もうひとチームが、奥に向かって蜘蛛の巣を払うと。わらわら子供の蜘蛛が襲って来た。数が多いのでルノ達も退治に混ざり。瞬く間に殲滅。最初の採掘場に到着した。下に降りる階段の部屋も。足長蜘蛛が巣を作っていた。全員でこれを倒し。ようやく一息を着いていた。
「じゃ俺達は採掘を済ませよう」ルノ、アシジスがつるはしを振るい屑鉄9を手に入れた。
二階に降りると。一階と同じく蜘蛛の巣に覆われていた。
「よし。ルノ行けるかい?」
見える範囲に10匹の足長蜘蛛がいた。無言で頷きルノと二人で、見える範囲の蜘蛛を殺し。兵士は苦労せず蜘蛛の巣を切り離して進む。しばらく進むと右の坑道に。少し大きな足長蜘蛛が一匹いた。「こいつはこの階のボスだろうな」
ソーニアさんの言葉に。全員納得である。
今まで戦った足長蜘蛛の三倍はある大きさで、ギョロギョロと目を動かし。明らかな殺気を放っていた。
「ルノ、属性付与って知ってるかい」
「属性付与ですか?」緊迫した状況にも関わらず。にこやかな笑みを浮かべたソーニアは、一本の矢をルノに渡した。
「これは……」
「矢じりに魔鉄をあしらった物でね。属性付与の矢と呼ばれる物だ」
ソーニアはかいつまみ、分かりやすく。この場にいたみんなに。属性付与のアビリティを学ぶ。
「魔力を込める事で……」
「それはあげるから。今試してみなさい」
「えっ……今ですか?」
驚きのルノに。にこやかな笑みだが、かなり強引にやらされる毎になって、戸惑いを覚えた。
「ルノ魔力は?」
「えーと一般人と変わらない程度には」
「そうかならニ、三回は放てる筈だ」そう言われてもルノは魔力を使ったことが無いと言ったが、
「ああ~その辺りは平気だ。矢をつがえる時。属性をイメージして弓を引くと、勝手に魔力を吸って属性変化するのが、その矢の特性だから」
「あっなるほど」
ようやく属性付与の矢を使わせようとした。理由がわかった。
「では行きます」
一つ、二つ呼吸を繰り返し魔鉄の矢をつがえる。ゆっくり弓を引きながら、炎をイメージして大足長蜘蛛を狙い。放つ。
パス、蜘蛛の巣に穴を開けながら。大足長蜘蛛の目を貫いた。ギリギリギリギリギリ。蜘蛛の残った目が真っ赤になって、牙を叩くような音が響く。
「うん、上手く行たね。総員蜘蛛を向かい打つ」スラリと長剣を抜いたソーニアは、守備兵と共に蜘蛛の巣から出た大足長蜘蛛の脚を。いきなり両断していた。固い音がして途中から断ち切られた脚。バランスを崩したところにアシジスが飛び込んで行って。反対の脚にメイスを叩き付けた。ボキッと音がして、脚を破壊していた。すると顔から落ちた大足長蜘蛛。周りを取り囲む守備兵は慣れたように。手斧、ハンマーで脚を切り飛ばし。破壊して無力化してから。ソーニアがとどめを刺した。
「蜘蛛の巣を掃除して、下に降りる」
みな頷き巣の除去を始めた。ルノは蜘蛛の目から属性付与の矢を引き抜き。不思議な光沢のある矢じりと。目の回りを確認して思った。
(これは凄いな……これを兵が装備出来るだけでも違う)
連邦に属する兵の装備では。ちょっと強いモンスターに通じない事があったからだ。
「ご苦労様ルノ、君勘がいいようだね。彼女の依頼終わったらどうかな、俺のもとで弓の訓練を詰んでみないか?」
急な申し出だが、ルノには渡りに船で、悩む間もくお願いしていた。
「じゃあ~早速だけど、属性付与を完璧に身につけろ。そいつ無しで出来るようになれば、火矢、氷矢、雷矢とか使えるようになるから」
「!?………」
まさか魔法の矢と呼ばれるアビリティを、そうして覚えるのだと初めて知ったのだ。
「ま~俺もそこまでは行ってないが、弓の師アスマンさんが、そうやって覚えたんで、部下にもやらせている。残念ながら属性付与の矢無しではまだ無理だが、かなりの部下が付与までは、どんな矢でも使えるようになってる」「はい、頑張ってみます」
視界が開けたような気がした。
「もっとも。もう少し弓を良いものにすれば、属性付与を覚えてたら。このレベルのモンスターすら問題無く倒せる。精進なさい」
肩を叩いて、巣の除去を見て回る。ソーニアと話し込んでいる間にフアンダ、ワンダが採掘を済ませ、屑鉄21を手に入れていた。
昨日引き返した三階に降りるた一行は。足長蜘蛛の一回り大きな蜘蛛が、階段の近くまで巣を作ってたのに備えた。
「ここからは、アビリティを使って駆除する!、総員魔鉄武器に持ち変え。属性付与を使え」
先頭の五人が武器を構え。数瞬武器の表面に火やパチパチ電気が煌めく。
「行け!」
命じられるや。五人は疾走して武器を振るい、見る間にこれを殲滅する。
「拠点、確保しました」
「第ニ陣。下に降りて準備」
「ハッ」
素早い動きで下に降りていく。この行程を何度か済ませ。三階を取り戻し。掃除をすませたところで休憩を取った。その間に3つ目の採掘を済ませてアークライト3、屑鉄50、真金の素材1を手に入れた。
「真金の素材まであるなんてね~、これはありがたいわ。もう一つあると鋼のインゴット作りに役立つのよね♪」上機嫌である。一階、二階よりも屑鉄の取れる量があり、顔に笑みが浮かんでいた。
「とりあえず一回分まで貯まったけど。真金買うことも考えて、ルノお願いします」
すっかり財布扱いである。これに苦笑しながら、アークライトの買い取りをギルドに頼めば、何とかなるかなとため息混じりに頷いていた。
四階に降りると。坑道と言うよりも人工的な洞窟になっていた。中は固い岩盤をくり貫いた作りで、広くは無いが、蟻の巣のように細かい部屋のような造りをしていた。
「ここからは三チームに分かれ。洞窟の探索。様子を見ながら進め、それと危険を感じたらここに戻ること」揃って皆で頷いた。
この階は何故か蜘蛛の姿はなく。それとなく調べると一部水が貯まってる場所があった。
「恐らく水を嫌った可能はあるね」
ソーニアはしばらく考え。四階の水辺に仮の拠点を作ることにした。五階に降りる階段と四階に上がる階段に。二人づつ見張りを付けさせ。さらに二人に報告に行ってもらい。増援を呼ぶ事が決まった。
「さて今日はここで休むとしよう。先は流そうだしね」
それには皆賛成で、直ぐに野営の準備を始めた。残念ながら水は有毒な鉱石が流れたか、飲料水としては使えなかった。
短時間の睡眠だが、目覚めると体力の回復が以前よりも早くなった気がした。
(これは慣れたからなのか?、強くなったからかな?)
ただかなり違うなと、とりとめなく考えると。ソーニアが見張りの二人から報告を受けていて、二度ほど。下から蜘蛛が上がって来たが、難なく撃退したと声が聞こえていた。それから干し肉と乾パンの軽食を食べてくから。身支度を整えたルノパーティー、ソーニア守備隊は、五階を調査して、一度戻ることにした。
事前の話では五階は、血吸い大蝙蝠の巣になっていた。このモンスターと戦う時は、特殊な煙によって気絶させたり。火属性が苦手と聞いていたので松明。炎、雷の魔法で撃退することが一般的だ。また戦って勝てない相手ではないが、血を吸われると麻痺や毒を受けることもあり。体力の時間による。ステータスペナルティは、かなり厄介であった。
ソーニア率いる守備隊が先に降りて、その後をルノ達が続く。
「これを見てくれ」ルノ達に垂れ下がっていた。蜘蛛の巣のカーテンをめくり上げ。ソーニアが目線を先に向けた。つられてルノが先を見ると。白い繭がそこら中にぶら下がっていた。
ソーニアが長剣を抜いて手早く。繭の一つを捕獲して、解体する。中には干からびた血吸い大蝙蝠が入っていた。ざっと見える範囲。50以上はあった。
「この先にボスがいる可能性が高いな……」
その意見にルノも賛成である。その後定期的に蜘蛛が移動してきて、上に上がってこようとしたので10匹ほど退治してから。一旦上に戻った。
「ソーニア様、援軍10連れて参りました」
村に報せに行かせた兵が戻っていた。報告ではもう10人来るそうで、念のためソーニアは最初に坑道に入った10人を。借りの拠点に残して、増援部隊とルノ達で再び五階に降りた。
「三階で、やったのでいこうか」ソーニアは3つのパーティーを交代させながら。少しずつ蜘蛛の巣を駆除することを提案。みな頷き、まずはルノ達から始めた。何度か蜘蛛と遭遇戦を勝ち抜き、どれくらい進めたか、ソーニアチームが大蜘蛛を倒すと。ちょっと広さのある大部屋ほどの坑道に出た。
「おやおやこいつは凄い……」
目を見張るソーニア、視線の先には、今まで比べる事が出来ない。巨大な蜘蛛がいた。
「あの個体……。恐らく蜘蛛の女王だな」
厳しい顔を隠さず。みな武器を構えた。総勢15人が、一斉に巣を切り払いながら、女王に迫る。
女王は、自分の巣に入って来た。新鮮で元気な餌に。歓喜を持って動き出す。さあ~子供達。ご飯の時間ですよ。醜悪な巨大な牙を鳴らして命じた。洞窟の天井からぶら下がっていた足長蜘蛛。それも一回り大きな蜘蛛が次々に降りてくる。その数20。ルノは素早く矢をつがえ放つ、何故かこの時。体が自然に動いて次の矢をつがえ放っていた。アビリティ連射を身に付けた。さらに数え切れない蜘蛛達との戦いよってスキル『虫の天敵』を身に付けていた。このスキルは相手が虫系モンスターである限り発動。必殺の一撃を100%与える。攻撃力がモンスターの防御力をうわまれば、一発で仕留めることが可能である。
「おっなんか分からないけど。いける気がする、みんな射撃に集中する。頼んだ!」炭坑で少なくない時間を過ごした三人は、揃って頷き。ルノを中心に足長蜘蛛と戦い始めた。ファンダは身軽さを生かして、手数で注意を引き、一撃あるアシジス、ワンダがダメージを与えて倒す連携が取れるようになっていた。ルノはただ無心に矢を放ち、一人で10匹を倒した頃、落ちて来る蜘蛛の数が少なくなっていた。
「よし!、ルノ達は引き続き蜘蛛の掃討、我々は女王に攻撃する」
ソーニアの命令に頷き、自分たちの仕事を全うする。
ソーニアは部下を壁役、攻撃役、回復役に分けていて、三人の重歩兵が、鋼鉄の盾を手に女王の前に並ぶ。ソーニア他遠距離攻撃が出来る者で巣の除去。女王に攻撃、壁に攻撃してきたら。攻撃役が攻撃、慣れた様子で連携していた。
「グッ、前足を押さえた、アタッカー壊せ」
重歩兵二人が打ち下ろしの足にチャージして、左右からハサミつけ押さえる。その間に5人のアタッカーが、女王の前足付け根に属性付与武器で、攻撃を加えてゆく。
「ちっ堅そうだな」 ソーニアは武器を剣に持ち変えて。一気に加速。部下に左に行けと命じながら、 「ふう~、属性付与・炎」
剣にはっきりと視認出来る。炎を纏わせる。まるで炎の魔剣である……、凄まじい一撃を。弱っていた女王の前足に叩きつけこれをを両断、キリキリキリキリキリ!、驚き、怒り、新鮮な餌だと思っていた人間が、この時初めて、脅威と感じて、坑道にいる全ての子供達に助けを求めた。
ようやく天井にいた蜘蛛を倒し終えたルノ達は、背後から迫る殺気とかさかさ音を立てる。無数の気配を感じた。
「ソーニアさん!、増援が来ている。壁を一枚」
アシジスが顔を青ざめさせながら、自分が前に出る。
「ちっ、今のは下にいたのを呼ぶ合図か、後ろは任せたアシジス」
「はい!。ソーニアさん」
気合いを入れるアシジス、壁役の重歩兵が合流。ルノ達は防衛戦を開始した。この時もルノが活躍。一人で15匹も倒し、瀕死に出来た蜘蛛にファンダ、ワンダが止めを刺してゆく。どれくらい戦っているのか忘れてしまいそうになった頃。蜘蛛を蹴散らしながら、増援部隊が到着していたその数10名。
「アシジスさん!」 「ルノ、貴方はソーニアさんの手伝いをファンダ、ワンダは回復しなさい。血の気を失い、肩で息をしていた二人は素直に従い。増援兵にいた薬剤師と回復役から治療を受けることになった。5人を防衛戦に配置してアシジスは指揮に専念していたのでこちらに気付いてない、ルノと5人は未だに凶悪な怒りを発する女王に向かう、
「ソーニアさん!」 ルノの声で増援が来たことを悟る。
「増援の壁役と交代、回復役は、怪我人の治療、ルノ注意を」
それだけで何が言いたいか分かる。ルノは素早く連射を女王に放つ、矢は防衛力の高い女王に貫通して、軽くないダメージを与えていた。さしもの女王も。まとわりつい付いた人間よりも、矢を放つ人間が邪魔だと感じて、キリキリキリキリキリ、目を真っ赤にして。ルノに顔を向けてお尻を上げていく。「ルノ!」
注意を促す声で、女王の動きに気付いた。咄嗟に、前に飛んでいた。バシュン、何か白い塊が飛んできたのが見えた。塊が壁に当たり、ちょっとした穴を開けていた。
「マジかよ……」
起き上がり、それを目にして、冷ややかな汗を流す。
「ルノ!」
再び注意を促す声で、女王の動きに気付いた。慌てて走るルノ、次々にバシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、バシュン、
「うっうひゃ」珍妙な声をあげながら、危うく当たりそうな蜘蛛の糸による弾丸をかわす。近くにいた壁役が、咄嗟に糸の弾丸を受け止めた。
「ぐうっ……」
盾がひしゃげ、腕が折れたのか痛みに顔を歪めた、それを見て休んでいた壁役と交代する。
「冗談じゃない!、あんなの当たったら」
大怪我じゃ済まない。顔をひきつらせながら、ただひたすら逃げ惑う、女王は攻撃されて脚を三本失っていた。動きを制限されたので、近い人間よりも離れた場所をうろちょろしてるルノに。怒りをぶつけていた。後々糸の弾丸を拾ったルノは、女王の石と呼ばれる宝石なみ高価な輝石を手に入れることになる。
「うひゃ、うりゃ、そりゃ、ほいと」糸の弾丸を避け続けた時だ。太い後ろ脚を切り落とされ。巨体を支えきれず。どうと倒れていた。
「総員一斉攻撃」
わあっと女王に殺到して、次々に強固な頭に斧、ハンマー、剣、槍を突き刺してゆく。これで終わるかそう思ったが、このまま一矢も報いず終わるのは、なんか違う気がした。だから残っておいた属性付与の矢を手にする。
立ち止まったルノに向けて糸の弾丸が放たれた、ひょいっと頭を横にずらしてかわし。弓に矢をつがえ。ありったけの魔力を込めて一矢を放つ。すると矢は黒い魔力に包まれていた。無心になって矢を放つ、
「喰らえ!、デカブツ」
放たれた矢は、少し軌道がずれて、女王の凶悪な牙に当たり。ビシリ……。貫通していた。
「ありゃ最後にこれか、しまらないな」 苦笑する。結局属性付与の矢は、最初に使って、少し曲がっていたようだと後々分かる。
「はあぁあああああああああああ!、やあ!」
ザシュ、ソーニアの長剣が女王の硬い頭をかちわり、ようやく動きを止めていた。バスン最後に放たれた糸の弾丸は、ルノの胸に軽く石をぶつけた感じで当たり、広げていた手のひらに落ちていた。まるで女王からの贈り物のような気がして。ルノはそれを大切にしまっていた。
結局糸の弾丸はこれ一つだけ無事回収出来ただけで、後には砕けた場所に何も残らなかったそうだ……。
ひとしきり休憩を挟み、ルノ達が採掘を再開。ソーニア達は残党狩りをすることにした。それからしばらくの間。炭鉱にモンスターが近寄らなくなるが別の話である。
どうにかソーニアさん達と。女王蜘蛛を倒したルノ達は、ワンダの為屑鉄集めをさいかいします。まもなく訪れる別れ。そして新しい冒険の始まり。再び動き始めた魔族。新しい町が、作られると言う噂も流れており、辺境に変革が起ころうとしていた。また同じ物語で背徳の魔王でした。