第1話 剣聖の嫁のいる生活
「ノーム―――!今、帰ったよぉ~!」
畑を耕していた俺は、クワを止めて顔を上げた。
丘の上。
大木の影から、こちらに向かって手を振る人影。
姿はぼやけているのに――誰かなんて、考えるまでもない。
「アリシア―――!お帰りぃ――――!」
首にかけていた白い手ぬぐいを振り回し、俺も大声で返す
その瞬間だった。
シュッ
さっきまで丘にいたはずの影が――消えた。
「え?」
ドゴッ!
「ぐはっ!?」
次の瞬間、腹に衝撃。
視界が反転し、俺はそのまま納屋の奥――ワラの山へと吹き飛ばされた。
「ア、アリシア!?」
「一週間……一週間ぶりのノームの匂い……」
覆いかぶさる影。荒い息遣い。
「ダメ、もう無理……!さあ今すぐ子作りしましょう、そうしましょう!!」
「待て待て待て!?」
アリシアは身に纏っていた青銀の鎧を、ガチャガチャと外し始めた。
そして畑に向かって――無造作に放り投げる。
「お、おい!それ神の青聖金の鎧だろ!?」
「いいのよ、あんなハゲの恩賞なんて」
さらりと言い放ち、彼女は俺を見下ろす。
「それより今の私には――ノームの、こ・だ・ね、が一番のご褒美なの♡」
黄金の長髪、透き通る青い瞳。
誰もが見惚れる美貌の持ち主。
アリシア=マクスウェル。
この世界で“剣聖”と呼ばれる、伝説級の英雄だ。
――ただし今は、完全に理性が飛んでいる。
あっという間に下着姿になると、獣のような目で俺の服に手をかける。
バシッ!
「チッ!!」
作業着に浮かび上がる緑の魔方陣。
弾ける雷光とともに、アリシアの体が吹き飛んだ。
「なっ!?何だこれ!?」
「風の聖結界……小癪な……」
下着姿のまま立ち上がるアリシア。
いつの間にか、その手には宝剣が握られていた。
「ノーム、安心して待ってて」
ぞくりとする笑み。
「全力で、一晩中、休みなく――愛してあげるからねぇ?」
「いや!?命の危機なんだが!?」
剣先がこちらへ向く。
俺は思わず両手を突き出した。
すると――
今度は、よりにもよって股間部分に赤い魔方陣が出現。
「ちょ、場所よ?!」
ドォン!
炎の壁が噴き上がり、突進してきたアリシアを弾き飛ばす。
「きゃああああっ!」
だが彼女は空中で回転し、軽やかに着地。
「炎の獄炎陣まで……」
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「私とノームの子作りをどこまで邪魔すれば気が済むのよおおおお!!」
放たれた怒気だけで、納屋の屋根が吹き飛んだ。
ワラが舞い上がり、横の家まで軋み出す。
「アリシア!落ち着け!」
俺は炎の壁を突っ切り、彼女に駆け寄る。
そして――
強く抱きしめて、そのまま唇を重ねた。
「――っ!?」
瞬間。
荒れ狂っていた力が、嘘のように静まる。
「……ん、んん――――っ!ノーム、大好きぃぃぃ!」
「ぐああああ!?骨!骨がいく!!」
今度はアリシアの全力抱擁。
全身がミシミシと悲鳴を上げる。
命の危機。
――そう。
彼女はこの世界に数えるほどしかいない超越職、“剣聖”。
そして俺は――
どこにでもいる平凡な職業、“農夫”。
絶世の美女で愛がとてつもなく重い、剣聖な彼女……アリシア=マクスウェルは
そんな俺、ノームの
――最強に強くて最強に可愛い嫁である。




