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贄の運び屋  作者: ニシキメサイコ
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赤毛の少女

こうして疾斗はヤルバーに案内されて教都アブソールを歩くことに。


さて、それから数日後。


教都アブソールを歩く数日間のうちに疾斗はフォルタ教に関する色々なものを見た。しかしそのほとんどが運供の儀についての物で、フォルタ教とは運供の儀のために創(つく)られた宗教なのではとさえ思えてしまう。


細い路地を歩きながら疾斗がそんなことを考えている時だった。


「たすけてっ!」


前方から女児の叫び声が聞こえてきた。


疾斗とヤルバーがとっさにその方へ目を向ける。


するとアズーと同じくらいの歳に見える赤毛の少女と、その少女を追う黒マントを羽織(はお)った男二人組がこちらに向かって走ってくるのが見えた。


「ヤルバー、女の子を頼む」


疾斗は短く呟(つぶや)き、頑強符を掲(かか)げた。


例のごとく疾斗が光に包まれると、


「札使いっ?! ということは、ゼントをぶっ飛ばしたのはヤツだろうか。なあ、ミヒ?」


と、黒マントの1人が立ち止まる。


「そんなことは捕らえてからだ」


と、ミヒと呼ばれたもう1人の黒マントはマントを投げ捨て、その容姿を露(あらわ)にした。


茶色い長袖の上に緑色のチョッキ。その胸元には3つの星型バッジが光っている。


「大人しくしていれば見つかることもなかったろうに」


「うるせえ。お前ら、ゼントの仲間だろ」


「だったらどうした?」


「ただの確認だ。ぶっとばす前のな!」


その言葉とともに駆け出した疾斗は拳を放った。


が、しかし。


ドゥンッ


「がはッ」


腹部に凄まじい衝撃を受け、後方に吹き飛ばされてしまう。


「頑強符で強くなってるはずなのに、なんでだ……?」


疾斗は少し考え、やがて何かを思いついたように立ち上がった。


そんな彼に対して「どんなことをしてもムダだ。俺の呪具、『見えざる手』による攻撃は防げはしない!」と胸を張るミヒ。


「いいから、来いッ」


「いいだろう。『打(だ)』ッ!」


ドゥンッ


再び疾斗を衝撃波が襲う。しかし、今度の疾斗は1ミリも動かずに直立している。


「ば、バカな!?」


「驚いたか? 拳じゃなくて全身を強化した、名付けて『鉄身(てっしん)』だ!」


どうやら頑強符は強化する部位を指定する必要があるらしく、先ほどは拳のみを強化したために腹部に衝撃波を受けてしまったらしい。


「くッ」


たじろぐミヒの隙を突き、急接近する疾斗。そして思い切り姿勢を低くしたかと思った次の瞬間、硬く握った拳を点高く突き上げた。


「くらえ、『鉄拳』ッ!」


ミヒの身体は4メートルほど浮き上がり、そして落ちた。彼の意識はもうなかった。


仲間のそんな姿を見てもう1人の黒マントは悲鳴を上げながら逃げてしまう。


「何してんだ、アンタ!?」


ヤルバーの声だ。


「何って、人助けだろ?」


疾斗が答えると、なんと助けたはずの少女までが「あなた、バカ?」なんて言ってきたので疾斗がわけを聞くと、今さっき疾斗がぶっ飛ばしたのはフォルタ教教皇騎士団の団員らしいのだ。


「どうするんだ、アンタのせいで一緒にいたオレまでお尋ね者になっちまうじゃないか?」


「どうするって言われてもなぁ」


「と、とりあえず近くの宿に身を隠そう!」


このヤルバーの提案で疾斗たち3人は教皇が住まうフォルタール大聖堂の近くの宿に駆け込んだ。


アブソールの建物はルァヴィンと違って木で出来ているため街全体がどことなく疾斗にとって馴染(なじ)み深い匂いで溢(あふ)れていた。


が、そんなことにかまうことなく、赤毛の少女から事情を聞こうと思った疾斗はおもむろに自己紹介を始める。


「俺は疾斗、こっちは」


自分に言わせろ、とばかりにヤルバーが疾斗の口を押さえた。


「ヤルバーって言います。キミみたいなかわいい女の子に会えるなんてオレは幸せ者だね〜」


「さっきまでの緊張感どこいった?」と思いながらも、場を和ませようとしたヤルバーに少しだけ感謝する疾斗。


そしてヤルバーのおかげなのか、少女は先ほどまで閉じていた口をゆっくりと開いた。


「……返して」


「「へ?」」


この反応から、疾斗とヤルバーが意味を理解していないことに気付いた少女は「あいつらの所へ、あたしを返して」と付け足す。


「それをしたらお前はどうなる?」


疾斗が聞くと彼女は静かに、「“死ぬための旅”に出させられるわ……」と言った。


するとヤルバーが、


「今回の生け贄は“女の子”だと聞いてはいたけど、まさかキミが……」


「そう、あたしが12人目の生け贄よ」


少女が応えた瞬間、疾斗は疑問に思った。


ゴン爺の話だと、『異能の力を持つ人間は世界に1人しか生まれない』はずなのだ。


しかし、いま目の前にいる少女が異能の力の持ち主だとすると疾斗の頭の中では異能の力を持つ者は2人いることになっている。


1人はアズー。もう1人はいま目の前にいる赤毛の少女。


怪物が80年間隔で生け贄を要求したということは異能の子どもが生まれる間隔もそれと同じくらいと考えていいはずだが、どう見てもアズーとヨンメルは80歳も離れていない。

 

なにかおかしかった。


なにかおかしいのに、何も結論は出なかった。


そんな結論を疾斗が出したとき、宿の玄関から、「ここに12回目の生け贄さまと、男二人が逃げ込んだという情報が入った。中を見させてもらう」という声が響く。


「戦うしかないか」と立ち上がる疾斗。


「無理だわ、さっき逃げた騎士が仲間を連れて来たのよ。だから、あたしだけ置いていって!」


「……お前はなんのために生きてるんだ?」


「決まってるじゃない。生け贄として死ぬためよ」


「それは、お前の答えなのか?」


「だって、そうするしかないじゃない。みんなが笑って生きるためには……あたしが死ぬしか、ないのよ」


「なら、あいつらじゃなくて俺がお前を連れて行く。名前は?」


疾斗が言うと少女は追い風に吹かれるように答えた。


「ヨンメル……」


名前を聞いた疾斗は疾走符を掲げ、叫ぶ。


「つかまれ、ヨンメルッ!」

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