第6話「紅唐の質問」
「ねぇ、リク」
「う、うん」
「単刀直入に聞くわ。貴方〝永遠の命〟について何か知らない?」
「え……そんなの聞いたこともないよ」
「そうよね。分かってて聞いたからいいの。じゃあ貴方のお客さんに〝老人〟はいなかった?」
「老人なんて沢山いすぎて……えっと、探し物ってのは人なの?」
「人であり物でもあるかもしれない。……アッシュはね、私と契約した悪魔なの」
「悪魔!?」
「それは驚くんだ」
「当たり前じゃん!? 見た目人過ぎない!?」
「〝人過ぎる〟って表現が些か引っ掛かるけど、まぁいいわ。悪魔はね、人間と契約すると人の寿命しか生きられなくなるの」
「どういうこと?」
「要約するとね。私が死ぬとアッシュも死んじゃうから、なんとか生き永らえたいってこと。それで異世界を旅してるの。永遠の命を探してね。それで〝三賢者〟の存在に辿り着いた。三賢者はね、それぞれ決まった容姿をしているの。メルキオールは青年の姿の賢者。バルタザールは壮年の姿の賢者。カスパールは老人の姿の賢者。カスパールは大の甘党らしくてね。異世界を渡っては菓子を求めて旅をしてるんだって。それで私は〝アジュールの魔女〟を探してたの。まさか、その対象に声を掛けられるとは思って無かったんだけどね。お陰様で探す手間が省けた。それでね、大量に菓子を買って行った老人とか、変なことを口走る老人とか、私みたいに変な格好の老人がいなかったか覚えてない?」
「ゴメン。それには協力出来そうにない」
「どうして?」
「協力したくないとかじゃなくてね。俺はだいぶ前から店を閉めてるんだ」
まさか彼が菓子を作るのを辞めていたとは。それに考え及ばなかった自身を恥じる。落胆に身を染めていれば、アッシュが優しく手を握ってくれた。
「色々あってね。今は城で大魔女として働いてる。だからお客さんと接することは無くなっててさ。出来れば協力してあげたかったんだけど……」
「辞めたわけじゃなかったの?」
「俺、一言もそんなこと言ってないけど?」
小首を傾げる彼に希望が湧く。それでも、手掛かりがないことには違いなかった。
「じゃあお菓子って作れる!?」
「え!? 今!?」
「そう今!」
「無理だよ!? 厨房も道具もないし!!」
「道具なら借りれば良かろう?」
「いや、いや、いや!? 第一、人様の厨房を借りるだなんてね!?」
「たまには、そういう経験をしてもいいんじゃないか? ビギナーズラックというやつじゃ」
「無茶ぶりにも程が……」
「待ってリク、話してるの私じゃないわ」
「え?」
少年の声が聞こえ、声の主を仰ぐ。リクの傍らにはいつの間にか、可愛らしい姿の少年が座っていた。