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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「緋色のウィッカとアジュールの魔女」
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第5話「洋紅の会話」

「巻き込んでゴメンね。ちょっと人払いがしたかったんだ」


「人払い?」


「ああ、俺が男だってバレるとマズイんだ。この国で男が菓子作りをするのは禁止されてるからね」


「王に仕えてるのに? さっきの金髪は護衛だろ? なのになんで街に下りてた?」


「え?」


「さっき店の人間にコインを見せてただろ」


「ああ、あれは借り物なんだ。さっきの金髪の子のだよ。彼女、ああ見えて近衛連隊の隊長なんだよね」


「たい、ちょう?」


 驚きのあまりアクセントが、やたらと波打つ。あの可憐な容姿のどこに強さを秘めているのか、てんで謎だった。


「見えないよね。俺も初めは驚いたんだ。でも、まぁ強いよ。俺なんか足元にも及ばない」


「アンタも何かやってんの?」


「やってるように見える?」


「いや、女に間違えられるような身体だしね」


「こら」


 アッシュの口の悪さには呆れたものだ。敬語ぐらい使えないのだろうか、と咎めると、面白くないとでも言うように眉を顰めていた。彼は、いつも必要以上に警戒する。悪いことではないが、私がこの男に負ける筈もないのだから神経質になり過ぎだ。


「ははは、初対面の俺に随分と毒舌だね」


 綺麗な顔が歪んでいる。苦笑する様も美しいが、思った以上に低めの声がとてもアンバランスに思えた。


「俺はリシャール。リシャール・クラピソン。リクでいいよ。君達の名前を聞いても?」


「緋山(ひやま)椿。コッチはアシュリー」


「やっぱり日本人なんだ」


 やっぱり、とは、どういうことだろう。セーラー服のくだりから言っても、彼には些か腑に落ちない点がある。私が目を眇めていれば、彼はクスリと笑った。


「俺はココで〝アジュールの魔女〟って呼ばれてる。この髪と目の色から通り名が付いたんだけどね。さて、どこから話をしようか。君達は転生者ではないんだよね」


「輪廻転生の理念は、どこの宗教にもあります。貴方はそれに則って転生した人間という認識で間違いないですか?」


「そうだね。俺自身もよく分かってないけど、多分そういうことなんだと思う。ある日、目覚めたらこの世界で赤ん坊になっていたんだ。記憶は、そのままで」


「前世の記憶持ちってことか」


「そう。だから思わず懐かしいものを見て興奮しちゃってね。君達は、どうやってココにきたの?」


「私も貴方と同じ魔女です。探し物があって異世界を渡る旅をしているんです。それで、この街を訪れました」


「……てことは、俺を連れて日本に帰ることも出来るの?」


「可能です。しかし、日本に戻ったところで居場所はありませんよ。ココと向こうでは時間軸はズレていますし、前の戸籍を使うことも困難でしょう。それでも戻りたいんですか?」


「訊いてみただけだよ」


「そうですか。それにしても驚きました」


「全く驚いたって顔してないんだけど。むしろ、そっちの彼の方がよっぽど表情豊かだ」


「気にしないでください。私達こういう顔なので」


「何気に俺を巻き込むな」


 心がざわついているあたり不機嫌らしい。少し構って貰えないくらいで臍を曲げるなど、精神年齢が低いにも程がある。


「おい」


 どうやら筒抜けらしい。分かっていたことだが、指摘されるとあまり心地良くないものだ。


「どうしたの?」


「なんでもありません。リクさんは……」


「リクでいいよ。敬語も要らない。俺もつい普通に話しちゃってるし。出来れば日本の話を聞きたいんだけど、探し物があるならあまり引き止めちゃ悪いよね。ああ、話を遮っちゃってゴメンね。で、どうしたの?」


「いえ、リクは私が魔女だと名乗っても驚いたりしないんだなって」


「そう、だね。まぁ、驚きはしたけど、実際科学で証明出来ないようなことが我が身に起こっちゃったわけでさ。椿の身に付けてるものを見たら疑う方が無粋でしょ。それに君の為に怒るアシュリーが悪い人には見えないから。ゴメンね、恋人にベタベタ触って。そりゃ怒るよね」


 眉尻を下げた彼が僅かに困ったような微笑を浮かべている。どこかぎこちないそれは、普段表情を作らないからなんだろうな、なんて思った。アッシュを見上げると、あまりにも素直に謝られたことでバツが悪そうにしている。それに頬を緩めると、彼も微笑を浮かべていた。


「別に。てか恋人じゃないし」


 言葉が素っ気なさ過ぎて笑いものである。私は鼻で一蹴すると、それに乗っからず出された紅茶を飲んだ。


「え、恋人じゃないの?」


「ああ。どこをどう見たらそう見えるんだ。主人と犬に決まってるでしょ」


「それ誤解を招くから止めてっていつも言ってるでしょ」


 瞬きを繰り返すリクが疑問符を浮かべているのが分かる。恐らく金髪の美少女と相対していた時のように、心の中は大忙しなのだろう。私は溜息を零すと開口した。

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