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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第4章「魔法と特殊なカーニヴァル」
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第53話「薄紅の牙」

「殺されたことがないから分からないんだ」


「つまりね、不老不死かどうか確かめたかったら、一度殺してみないと分かんないってこと。今のところ、怪我の治りが異様に早いくらいしか分かってないんだ。不老不死を解明したかったら人体実験をするしかないってことだよ。椿は彼を解体してまで不老不死について知りたいの?」


 ずっと追い求めてきた答えが目の前にある。けれども、身を呈して助けてくれた彼に、そんな酷い仕打ちが出来るものか。そもそも誰かを犠牲にして成り立つ幸せなど、本当の幸せである筈がない。


 目に見えない人達に対して、そう言えるかは分からない。偽善なのかもしれない。それでも、フィーロを犠牲にしてまで、得たい物など無かった。


「ううん、なにか違う方法を探すわ。でも分かってることがあれば教えて欲しい。私は、やっぱり死にたくないし、アッシュを殺したくないから」


「ごめんね、俺が知ってるのはココまで。ツバキに教えられることは特に……」


「ならいいの。チェスターはどうしてフィーロに会いに来たの?」


「ちゃんとそういうことを聞いちゃうあたり嫌だなぁ。俺はフィーロ君に訊きに来ただけなんだよ。その力をどう使うつもりか、をね。でも訊くだけじゃ人間性なんて見えてこない。だからサーカスに身を置いて様子を見させて貰ったんだ」


「そうだったんですか……」


「ショック? 俺が良い人だとでも思った?」


「いいえ、チェスターさんには沢山助けて貰いました。ツバキに会わせて貰ったこともいい経験です。なので、俺にとって貴方がどういう意図で俺に近付いたかは、どうでもいいです」


「そっか。その能力を持ってるのがフィーロ君で良かったよ」


「私から得たものなんかあるの?」


「うん、どんな対象に対しても〝愛〟って素敵だなってね」


 その一言に赤面する。一部始終見られていたことを思い出し、物凄く恥ずかしくなった。穴があったら入りたいくらいだ。アッシュはと言えば、この羞恥心を喰べてくれる気はないらしい。林檎のように熟れた頬を隠したいのに、ローブも自分で捨ててしまった為、どうにも出来なかった。


「ツバキ、俺はこの能力を治したいって思ってるんだ」


「どうして?」


「一人ぼっちになっちゃうでしょ?」


「だったら私は何が何でも不老不死にならないといけないわね」


「え?」


「たまにアッシュと二人で会いに来るわ。そしたらフィーロも寂しくないでしょ?」


 眉をピクリとも動かさない私に、フィーロが瞠目する。破顔した彼は照れ臭そうに「そうだね」と言うと立ち上がった。それを見止めたチェスターが私を見据える。かち合った視線に、やはり彼とは分かり合えないことを悟った。


「まだ不老不死は諦めてないんだね」


「勿論。世界は沢山ある。ここではないどこかにあるかもしれないのに諦める必要はないでしょ?」


「三賢者を探すことも諦めてないんだね」


「そうね」


「なら最後の一人に会いに行くといいよ。ただし、あの人がどう出るかは分からない。俺達の中で一番怖い人だからね」


 以前にも、その類の噂は聞いた。緊張の糸を張り、言葉の続きを待つ。さすれば私の心を読み解いたアッシュが手を握ってくれた。


「チェスターにも怖い人がいるんだね」


「当たり前でしょ。俺は三賢者の中で最弱なんだよ? 会う時はいつも胃が痛いよ」


 穏やかな笑みで遠くを見つめる様に苦笑を漏らす。けれども、苦笑いしたのはアッシュで、私の表情が動くことはなかった。


「連絡しておいてあげる。彼女は行きつけの帽子屋に行ってる筈だからね」


「帽子……?」


「詳しいことは本人に会って聞くといいよ。きっと〝答え〟は同じだろうけどね」


 言葉の意味を教えてくれることはなかった。それでもなんとなく分かってしまうあたり、私も彼も同じ〝人間〟なのだろう。


 不老不死になっても幸せになれる保証はない。アッシュと何かあったのなら、またこうして元に戻れるとも限らない。それでも彼と永い時を共にしたいと思った。


 生活は何一つ変わらなくていいのだ。異世界を旅して、思い出を共有できればいい。だから、それを奪わないで欲しい。私達は、それが誰でも牙を剥いてしまうだろうから。

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