第54話「長春色の魔女」
「待ってたわよ~」
聞きかじっていた容姿の美女が、街へ降り立った私達を出迎える。間延びした艶やかな声に倣うような豊満な体躯は蠱惑的で美しかった。
長春色の髪が彼女の動きに合わせて揺れる。厚い唇が開く様をジッと眺めながら、私は失礼がないように頭を下げた。
「お出迎え感謝致します」
「あら、いいのよ。好きでしたんだから。話は聞いてるわ。でも答えが知りたかったらアタシをその気にさせてみてくれる? アタシ、貴方みたいな綺麗な子好きなのよ~、可愛いわね」
顎を反った彼女がアッシュに向かって片目を閉じる。身の危険を感じたらしいアッシュは私の背に隠れようとしてやめた。一応、私を守るつもりはあるらしい。ガッチリと肩を掴まれると少しだけ痛かった。
「ごめん!」
「大丈夫だよ」
「あら~、いいわねぇ。本当に繋がってるのね。ロマンチックでいいわ。そのまま魔女やめて結婚したらいいんじゃなぁい?」
「悪魔が神に誓うわけねぇだろ」
「アッシュ、言葉遣い」
「その子は悪魔だもの。口の使い方がなってなくても構わないわ。ただしリアちゃんは分かんないわよー、礼儀を事欠いたら首、落としちゃうかも。名前の通りにね」
「それは日本の風習ですよね。アンティークには椿の模様も多いじゃないですか。本来、魔よけとして使われてますよね。というかリアちゃんって誰ですか」
「あら~、軽い冗談よ。可愛い女の子を殺すわけないじゃない。気に入らない子だけよ、殺しちゃうのは。リアちゃんは貴女の仇名。カメリアのリアちゃん、可愛いでしょ~」
「可愛い、ですかね……」
「日本語の名前は響きが特殊なのよねぇ、どうしても異世界の住人は首を傾げてしまうの。これからはリアって名乗るのも手だと思うわよぉ」
「はぁ」
「じゃあ行きましょう。アタシの気が変わらないうちにね」
物騒な言葉の羅列にアッシュが警戒心を強める。普通の人間よりも軽い足取りにも関わらず、彼女には〝隙〟がない。それだけで相当な手練れであることが分かって、私も気を引き締めた。
「神に誓わなくても、人前式って手もあるじゃない? 結婚って素敵よぉ。滅茶苦茶オススメ」
「マイヤーさんは、ご結婚されてるんですね」
「へ? 結婚なんかしてるわけないでしょう?」
「え? だって……」
「やぁねぇ。アタシが言ったのは一般論! それに魔女が少なくなればいいと思っているのよねー、だから皆さっさと寿退社しちゃえばいいのよ~」
「結婚しても魔女は続けると思いますけど……」
「そうなのよ~、嫌な時代よねぇ」
魔女は職業では無い筈なのに寿退社とは何のことだろう。些かズレた意見に、私は肩をガックリと落とした。
その後も「あのお店は可愛い」だの、「あそこの食べ物が美味しい」だの色々と連れまわされた。根城に向かうのかと思っていれば、とんだ思い違いである。彼女は私達を振り回すだけ振り回すと得意げに笑んでいた。




