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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第1章「緋色のウィッカとアジュールの魔女」
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第4話「紅の八塩」

 *


「かーわーいーいー!」


「おい、あんまり目立つ行動すんなよ」


「分かってるってば」


 目を輝かせて周辺を見渡す。フランディーゼは十八世紀の英国に近い街並みだ。アンティークが好きな私は煉瓦造りの路に心を躍らせていた。


「分かってない。セーラー服って目立つんだから。ローブが捲れないように歩いて」


「大丈夫だって。誰も私のことなんか……」


「アンジュ……!?」


 唐突に肩を掴まれバランスを崩す。後ろに倒れそうだったところをアッシュに引っ張られ、私は何とか体勢を立て直した。


 涼やかな男の声は、やたらと訊き心地がいい。声の主を確認しようと背を仰げば、空色の長い髪が鼻先を掠めた。雪を欺く肌に、長い睫毛に囲まれた海色の瞳。高い鼻梁に薄い唇を携えている彼は、目を瞠るほどの美人だった。いや、見た目が完全に美女なのだが声が男だ。吃驚に目を瞬かせていると、彼は不機嫌そうに眉を顰めた。


「あ、すみません! 俺、人を探していて。丁度、似たような風貌の人だったから……」


「リク! 勝手に走り出すな。驚くだろう」


「ごめん、エディ!」


「というか、お前、普通に話してるけどいいのか?」


「え?」


「え? じゃないだろ。クソーディのバカでも移ったか?」


「だから外で王子を馬鹿にするのはやめよう!? 切り殺されるよ!?」


「やり返してやる」


「過激派の思考はやめよう!?」


 どうやら先程のは不機嫌な顔ではなかったらしい。動かない表情筋が私にそっくりだな、と思っていれば、金髪の美少女が彼を〝リク〟と呼んだ。ブラウスにハイウエストのパンツを携えた美少女は腰に剣を差している。鋭い顔つきにも関わらず、彼女の動きに合わせて揺れるポニーテールは可愛らしい。歳は十六前後だろうか。顔立ちが大人っぽい為、年齢が計りにくかった。


「おい、今のうちに逃げるぞ」


「え、でも……」


「でもじゃない……」


「逃げるのか?」


 低い声が私達を咎める。品定めするかのような視線は上下を数回行き来し、警戒心を露わにしていた。


「エディやめて! 俺が間違って声を掛けたのだから!」


「でも、こいつら怪しいぞ。特に女はアンジュと似たような容姿をしている。無関係というには……」


「無関係だから! 無関係だから剣に手を掛けないで! ゴメンね!? 俺が間違って声を掛けたばかりに……」


「でもリクが男だってバレただろ? どうするんだ」


「……殺っちゃう?」


(情緒不安定か!?)


 あまりにも細やか過ぎる抵抗に思わず心の声が漏れる。アッシュには筒抜けだったようで肩を震わせていた。笑っているのだろう。本当に感情豊かな悪魔だ。


「ん? てか、それ……セーラー服じゃない!? もしかし女子高生!?」


 空色の髪の彼が私のローブを開く。驚きで固まっていると、怒りを浮かべたアッシュが、その手を叩き落としていた。


「ちょっと? うちの椿に触んないでくれる?」


「あ、ごめん。悪気があったわけじゃなくて……」


「そっちこそ私のリクに暴力を振うとはいい度胸をしているな」


「は? そっちが勝手に手を出してきたんじゃん」


「黙れ男。ちゃらちゃらとした髪型をして。少し服を見せて欲しいと言っただけだろう。何様だ」


「何言ってんの? 無理矢理ローブに手を掛けたから言ってんだけど?」


「そんな貧相な女の体に、リクが興味があるわけないだろう。言いがかりは止めて貰おうか」


「ストップ! エディストップ! 俺が悪かったから喧嘩しないで!」


「いいのか!? リクは今、女装の変態野郎って言われたんだぞ!?」


「うん!? それは今エディが言ったんだよ!?」


 やっぱり女装だったのか、と溜飲を下げる。金髪の美少女と空色の髪を携えた美女が言葉を交わす様は正直言って眼福だった。


 それにしても何故彼はセーラー服を知っていたのだろう。この国に、そういった形態の服は無い筈だ。私が小首を傾げていると、空色の彼は此方を、ちらりと見やり金髪の美少女を宥めていた。どうやら話がしたいらしい。渋々といった感じで身を翻した金髪の美少女は不満げに眉を顰め、どこかに歩いていった。


「突然ごめんね。ちょっと話いいかな?」


「良くない!」


「アッシュは黙ってて。私も聞きたいことがあるの。いい?」


「勿論。良かったらお詫びに何か奢るよ。お茶でもして行こうか」


「え、いいの?」


「うん、お金なら腐る程あるんだ」


 この男の身分が謎である。女装で金持ちなど変な人まっしぐらなのだが、行動自体は奇抜ではない。それでも、案内された店の個室に通されたあたり、彼は貴族か何かなのだろうと思った。

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