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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第3章「擦れ違うは真面目な死神君と直帰したい天使さん」
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第32話「鴇色の忠告」

「何かお願いがあったの?」


 天使の無邪気な問い掛けに思わず顔を上げる。優し気な笑みは縋ってしまいたくなるほど、清らかだった。


「なに? 三賢者が憎いとか? だったらロッタが刈ってあげるよ? 天使は、それが許されてるんだ」


「ロッタさんは、そんなに三賢者が嫌いなんですか?」


「嫌いだよ。というか今の世代が嫌い。君、薔薇十字団所属なんでしょぉ? 君なら嫌な気はしないし、三賢者って恩恵があるらしいからメリットの方があるんじゃない? 次代のメルキオールになってみたら?」


 恩恵とはなんだろう。不老不死になれるのなら喜んで受け入れるのだが、それが出来たならディランも死を恐れたりはしない筈だ。それとも、それはパフォーマンスで本当は不老不死を手に入れているのだろうか。否、それはない。もし、そうならば三賢者が世襲制なわけがないのだから。


「すみません。そのつもりはありません」


「どうして?」


「興味が無いんです。私がしたいのは、そんなことではないので」


「ふーん、君のしたいことって?」


「不老不死になることです」


「へぇ、君も禁忌を犯したがる人間ってわけね」


「はい。罰当たりを覚悟してお聞きします。不老不死になる方法をご存知ではないですか?」


「そんなの知ってたらさぁ……星君だって死んでないでしょー?」


 確かに、と思ってしまう。些か無神経な質問をしてしまったことに気付き、私は死神の様子を伺った。どうやら気にしているわけではないらしい。むしろ天使の態度を咎めたい、と顔に書いてあった。


「ねぇ、ウロボロスを知ってる?」


「はい」


「鈍い子だなぁ。ロッタは輪廻転生じゃダメなの? って訊いたんだよ」


「すみません。……ダメです。私は私のまま生きていたいので」


「ふぅん、強情な子だねぇ。すっかり悪魔に取り憑かれてる。ねぇ悪魔、この子を守るのにはそれなりの理由があるんだよねぇ?」


「何が言いたい」


「お前は魂さえ同じならいいんでしょ? だからこの子と一緒にいる。違う?」


「お前……適当なことを……!」


 爆笑するロッタさんをアッシュが睨み付ける。それに舌を出した天使は、悪戯っ子のような笑みを携えて私の耳に唇を寄せた。意味深な口舌を咀嚼出来ない私は、焦りを浮かべたアッシュを見つめることしか出来ない。彼は天使に恨めしい眼差しを向けるだけで、此方に気付いてなどくれなかった。


「ロッタはねぇ、君が気に入ったから教えてあげたいんだけど。残念ながら人間のことは分からないんだ。だからゴメンねぇ。また機会があったら声を掛けてよ。その代わり、あの女のことを教えてあげる」


 吃驚を零す私にロッタさんが音吐朗々と示唆する。どこか蛇を思わせるそれに背筋が粟立った。耳介を擽った吐息のせいかもしれないが、私にはそう思えなかった。


「あの女は花を手折ることで有名なんだ。〝椿〟の名を持ってるなら気を付けてね」


「待ってください! それってどういう!?」


「三賢者の中で一番怖いのは誰か。会って確かめてみるといいよ」


 甲高い笑声を携えた天使が私を惑わせて去っていく。その後、街を流離ってみるも、探し人を見つけることは出来なかった。

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