第31話「乙女色の裁き」
「お前ら聞いてんのか? 俺の質問に早く答えろ」
「その前にロッタの質問に答えて。なーんか獣臭いと思ったんだけど、君、悪魔で合ってる?」
「ああ」
「ふーん、で、そっちの子は人間だよね? なに? 悪魔のクセに人間のお世話しちゃってんの?」
「だからなんだ」
「別にー、ちょっと気になっただけ。悪魔と契約できるなんて君何者?」
「薔薇十字団所属のウィッカです」
「マジで?」
「マジです」
「……やったぁ!! ウィッカだったらチャラじゃん!! 良かったぁ!! で、君達のお願いってなんだっけ?」
「やっぱ羽もいでやろうか?」
青筋を浮かべたアッシュを宥め、天使の様子を伺う。おちょくっているようにも見えなければ、嘘を吐いているようにも見えない。素知らぬ顔を貫く死神よりも、答える気があるだけ好意的に思えた。
「コッチにウィッカって来ませんでしたか?」
「来たよぉ」
「ホントですか!?」
「うん、君で二人目。日本にウィッカってあんま来ないんだけど、いるんだねぇ。まぁ、君は日本人って感じじゃないけど。生まれつき?」
「はい。生まれつきです」
「そう、大変だねぇ。まぁロッタには関係ないけど」
「あの、さっき来たって言うウィッカって長春色の髪の女の人ですか?」
「そうだよぉ。ロッタ、あいつ苦手なの。人間のクセにすっごくうるさくてさ」
「うるさい?」
宙でクルリと回った天使が、ほくそ笑む。白い脚が銀鏡のように陽光を反射するものだから眩しく思えた。夏前の日差しは、やはり痛く思える。空を泳ぐ天使を追っていると、自然と青い空まで視界に入ってきた。
「うん、三賢者だからって本当にウザい。ロッタ達天使は人の命を刈るのが仕事なのに」
「え……? 命を刈るのって死神の役目じゃないんですか?」
「天使は万能じゃないんだよ」
先程まで黙っていた死神が口を開く。片目が隠れるほど長い前髪は、ロッタさんが言うように少し拗らせているように見えた。賺したような言い方も相まって感じが悪く思える。そんな彼も地に足は着いておらず、一見すればバンドマンのようなのだが、人ではないのだと信じることが出来た。
「天使は人を殺すことができる。天使の仕事は死期が近付いた人間のもとに赴き、殺していいか否かを判断し命を刈り取ることなんだ。しかし、天使は気まぐれで、神の使いである為、間違えることが多い。だから俺達死神が、お目付け役として配属される。俺達は二人一組で人の死を裁くんだ」
「死神が刈り取るんじゃないんですね」
「俺達は元々人間なんだよ。死神と呼ばれたって、なにか特別な芸を身に付けてるわけじゃない。死を司るんじゃなくて、死んだ人間がなった神だから〝死神〟なんだ」
「そういうことー、で、地上に下りる上でロッタ達に、いろーんな面倒臭いルールがあるの。その一つがね、視える人間に会ったら願い事を叶えてあげないといけないってやつね」
「願い?」
反芻する私に天使が頷く。宙に寝そべって肘を附き、その上に顎を乗せる様は傲慢そのものだった。
「なんでも叶えられるんですか?」
「勿論。あ、でも君は残念ながら無理だよ?」
「え?」
「さっき言ったでしょー? 『ウィッカだったらチャラだ』って」
確かに先程そんなことを言っていた気がする。目を瞠る私の額を小突いた天使は楽しそうに高笑いをしていた。
「椿に触るな」
「だったら守ってあげればいいじゃーん。今のは反応出来なかった君の落ち度でしょー」
「どうしてウィッカだとダメなんですか?」
「魔女ってのは、そもそも理から外れた生物だからだよぉ」
「理から外れてる……?」
「うん。だってそうでしょ? 何にも出来ない筈の人間が魔法を使ってるんだから」
「それがどうしてダメなんですか?」
「魔を司るだけなら問題はないよ。でもね、魔を法ったらダメ。視えるだけなら司ってるだけだから、願いを叶えてあげるって処置で赦してあげるんだけどねぇ。でも自ら使い出したら、それは罪なんだよ。ましてや人間は禁忌に触れたがる。神の領域に踏み込もうとした人間の〝願い〟なんて叶えてあげるわけがないでしょ?」
ぐうの音も出ない。確かに私がしようとしていることは、人の理から外れている。ましてやウィッカであることが、本来許されざることだという概念がなかった。忘れかけてしまうが、本来は悪魔と共に生きようなどという思考が間違っているのだ。反論も出来ない私は後ろめたさを隠すように目線を下げた。




