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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
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第16話「赤胴色の食欲」

 *


 イッカが扉を叩いたのは普通の家だった。煉瓦造りの大きくも小さくもない普通の家に拍子抜けしたものだ。〝探偵〟を名乗るからには、あくどい商売をしているのかと思ったが、そうではないらしい。患者の両親が彼に縋る様は、なんとも言えない気持ちを生み出した。


 患者は、どうやらウロボロス症候群(シンドローム)というやつらしい。どんな病かは知らないが、時折、苦悶する声が響いていた為、よほど苦しい病なのだろう。哭する声は断末魔のようで胸が締め付けられた。壁越しでも苦痛が伝わってくるようである。須臾、魔法で痛みを取ってあげようかとも思ったが、考えること自体をやめた。


 この国には、この国のルールがある。異世界に滞在する際、魔法を使ってはいけない、などというルールはないが、奇病への対処法があるにも関わらず、私が手を出すのは間違っている気がした。


 薔薇十字団所属のウィッカとしては間違っていないのだろう。賢者は各地で病を治して旅をしていると聞くし、人として間違ってはいない。けれども、病を治すことの出来ない私が〝痛み〟だけを取ったところで、患者の救いになれるかはまた別の話だ。私が救いたいのはアッシュのみ。それがハッキリしている今、無駄に出来る時間もなどなかった。


「……夕飯、美味しかったね」


「そうね」


 沈黙に耐えられなくなったらしいレ―ヴィが話を振ってくる。とても上手とは言い難い話題提供に頷けば、彼は怯えたかのように目線を下げていた。


「本当に良かったの? その、同じ部屋で……もし良ければ俺がイッカに……」


「大丈夫。野宿とかより、ずっといいよ。それにこの家の人に迷惑を掛けちゃうでしょ。私は大丈夫だからレ―ヴィは気にしないで」


「そ、っか」


 納得いかなかったのだろうか。やはり俯く彼を見つめるも、答えなど分からなかった。


「ウロボロス症候群って、どんな病なの?」


「自分の体を食べたいという衝動に駆られて食い散らかす病、かな。でも死ねないんだ。再び体が再生して……また食欲に負けてを繰り返すんだよ。そして最後には廃人と化する」


「死ねないの?」


「うん。ウロボロスって自分の尾を咥えてるでしょ? 名前の由来はそれみたい」


「食欲に耐えることって出来ないの?」


「え……? 多分、無理じゃないかな。ウロボロス症候群は過食症の人間に多いから。それに食欲って人間の三大欲求の一つでしょ。多分、無理だよ。奇病に罹るくらいだもん」


「イッカも言ってたけど、それってどういうことなの? 妄想、とか入ってるの?」


「違うよ。奇病に罹るような人は〝思い〟が強いんだ。中には思い込みが激しいみたいな人もいるんだけど、主に自分を憎んだり……そういうことでなる。俺の場合は〝醜い自分〟が凄く嫌だったんだ」


「そんなに酷い顔だったの……?」


「想像出来ない、かな? でも俺の接し方見れば分かるんじゃない?」


「そうね。アッシュとは全然違う」


「なんで俺と比べてんの?」


「アッシュは自分に自信があるでしょ?」


「ナルシストみたいな言い方しないで。第一ソイツみたいに自分に自信が無さ過ぎんのもどうかと思うね。見ててイライラする」


「そういう言い方しないの」


「痛っ!?」


 ベッドに寝転んで悪態を吐くアッシュに手刀する。脳天に直撃した彼は不機嫌そうに頬を膨らませ、そっぽを向いた。

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