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椿の花が枯れるまで【ノベル大賞2次落選作】  作者: 衍香 壮
第2章「心を侵された二人と奇病探偵」
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第15話「朱殷の誘惑」

「僕に付いて来てくださったら、もっと詳しく教えてさしあげますよ。生憎、時間が無いんです」


「……引き止めたのはあなたでしょう?」


「ええ、ですが……ところでお二人は今夜の宿はお決まりですか?」


「これからだけど」


「でしたら丁度いい。奇病のことも聞けて、宿も手に入る。貴女方にデメリットはない筈ですよ。どうです? あの街に行くつもりだったのなら、ご一緒しませんか? お金は取りませんよ。僕達の治療の手掛かりになりそうな人達ですから」


 正直、悪い話ではない。人目を避けるように森の中へ降り立ったことで、未だこの国の通貨は手に入れてないし、どうやら時差の計算を間違ってしまったようで空は紺碧に染まっている。懐中時計が、この国の時間を差し始めるまで一時間は掛かるのだ。現在の時刻が確認出来なければ、色々と不都合だった。


「どこに泊まるの?」


「シェーンの家に」


「シェーン?」


「僕は患者のことをシェーンと呼んでいるのです。ですから患者の家に幾日かお世話になる予定で」


「それだと迷惑が……」


「大丈夫ですよ。助手を連れて行くと伝えてありますし問題ありません。それに先程の力の話も聞きたいですし」


 どうするべきか思惟する。勿論、アッシュに訊けば「ダメ」と言われるに決まっている為、相談などしない。正直、美味しい取引ではあるし、奇病について詳しそうな人間に話を聞けるのは好都合だった。


 奇病の中には不死の症状が出るものもあるらしい。私は、それに罹る方法を探しにきていたのだ。イッカは怪しいとはいえ、悪い人間ではないだろう。


「いいよ。お前と行ってやる」


「まさかお連れさんの方がOKをくださるとは」


「なんだよ。何か不都合でも?」


「いいえ。意外だっただけです。では、よろしくお願いしますね。ツバキさん、アッシュさん。僕のことも呼び捨てで構いませんので」


 あどけない笑みに、笑みを返そうとするも表情筋が動かない。ニコリともしない不愛想な私を気にする様子もなく、彼らは先を歩んで行った。その数歩後を歩みながら、アッシュを見上げる。不機嫌そうに顔を顰める様に、私は問うてみることにした。


「アッシュ」


「なんでOKしたか、って?」


「うん」


「どうせ行くって利かないでしょ。椿のことは誰よりも分かってんだからね。俺が守ればいいだけの話だよ」


 彼の一番が私であることを再確認して嬉しくなる。掌に汗が滲むような昂揚感が私の足を軽くした。


「ちょっと、なに喜んでんの? ツバキが嬉しいと俺まで嬉しくなるんだからやめて」


「じゃあ、アッシュも喜んだらいいよ。私のこと好きでしょ?」


「まぁね」


 柔らかい、と評するのが相応しいのか。それとも甘い、と評するのが正しいのか。恋でもしているかのような、ふわふわした表情はどうやっても悪魔にそぐわない。それでも、そんな彼を愛しいと思っているあたり、私は危険を犯すことを止められないのだろう。不謹慎にも守られて嬉しいだなんて思う私に、自分の中の〝女〟を見たような気がした。


 紺碧の街に灯りが灯っている。フランディーゼに近世のドイツを混ぜたような独特の街並みは風情があって美しかった。山の麓まであと少し。私達はイッカ誘導の下、街へ降りたのだった。

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