第2話 恋人?いいえ変人です
長かった訓示だの挨拶だの。
そういった難関を新入生同志とともに何とか耐えきった放課後。
さて。
この学校にはろくな娯楽は無い。
いや、学校施設としては娯楽がある方だろう。
敷地内にカラオケボックスもあればコンビニもあるし小さい本屋もある。
でも学校外周囲五キロ範囲には何も無い。
七キロ歩けば確かコンビニが。
もう一キロ追加すればJRの駅もある。
その駅前には確か民家が数軒あった筈。
タクシーも呼べばやってくる。
迎車料金はかかるけれど。
そんな感じの場所だ。
別に外出禁止とかがある訳じゃ無い。
学校外に出ても何も無いだけ。
そんな訳で必然的に課外活動という名の暇つぶしが盛んになるらしい。
昇降口から生活ゾーンの入口までびっしり。
勧誘の皆さんが列作って待機している。
「柏は何処か課外活動入るのか?」
とりあえず話すようになった前の席にいる交野が話しかけてくる。
「うーん、ちょっと様子見だな。中学も帰宅部だったし」
これは本音だ。
「そうだな。明日に生徒会主催のオリエンテーションがある。その後でいいよな」
今度は僕から聞いてみる。
「交野は何か運動部やっていたのか」
「生憎生粋の帰宅部でな」
「同じかよ」
そんな感じで話していると。
小柄な女子生徒がこそこそという感じでやってきた。
「朗人、頼むのです。人混み相手は苦手なのです」
言わずもがな、佳奈美だ。
奴は隣の成績がいい方のAクラスにいる。
ちなみにここは成績並のBクラス。
もう一つ、もう少し頑張りましょうのCクラスがある。
なおクラスは男女混合で成績順わけだ。
佳奈美のクラスも一通り本日の色々が終わったらしい。
「あれ、彼女さん?」
「断固として違う」
「うーん、いけずなのです」
こら、誤解されるような発言はするな。
「断固として違う」
「そうか、じゃ、邪魔しちゃ悪いな」
交野はそう言ってカバンを手に持ち。
「じゃあ彼女さんと宜しくな。詳細は明日じっくり聞かせて貰う」
去って行ってしまう。
ああ交野、誤解しないでくれ。
僕の趣味はこんな幼児体型の妄想魔じゃない。
まあ今日はもう手遅れだ。
誤解の訂正は明日やろう。
僕はため息をつく。
教室内は既に人数が少なくなってきた。
「しょうがないな。行くか」
「宜しくです」
見かけだけはおとなしそうに佳奈美は言う。
「何か入りたい課外活動はあるか」
「まだデータが集まっていないのです」
つまり今日は勧誘全てスルーの方針ということ了解だ。
「あと、コンビニと本屋に寄る方針で頼むのです」
はいはい了解。
そんな訳で僕は荷物を連れて教室の外へ向かう。
さて、昇降口の外、ちょうど引き戸の向こうから先。
そこから勧誘の皆様がずらっと揃ってお待ちになっている。
何か紳士協定でもあるのか扉の内側にはいない。
でも抜け道は無さそうだ。
「それでは宜しくなのです」
そう言って佳奈美が僕の制服の裾をつまむ。
別に彼女は勧誘が怖い訳じゃ無い。
興味が無い話を聞くのが面倒なだけだ。
それよりは自分の妄想の世界に入っている方を好む。
なお妄想し続けたまま通常生活を送ることも可能だ。
つまり彼女が現在僕に望んでいるのは、
○ 勧誘を全てうまく切り抜けて
○ 人にや物に当たったりしないように
○ 彼女を上手く導いてこの場を乗り切ること
という訳だ。
面倒くさいがしょうがない。
行くか。
僕らは昇降口の外へと足を踏み出す。