3
携帯の着信が鳴って。早朝だったこともあり、親父のことを一番先に思い出す。昨夜は、俺の誕生日だったが、親父は丁度、移植手術日だった。多忙な医師なこともあり、予定はぎっちりで、やっと昨日それが叶ったようなところだ。……上手くいったかどうかなど、まだ聞いていない。正直、怖かったから。
「……おう。元気か」
2コールで俺が出ると、ぶっきらぼうな親父の声がした。……正直、スマートフォンじゃなければ、このまま投げ飛ばしたいくらいには、無性にイラつく声に思えた。ノー天気ないつもの親父の声。受け答えすら面倒で、二呼吸分ぐらいは、無言だったが、相手も無言だし、よく考えたら、親父と電話で無言なんて、よりキモいし、いつまでたっても電話が終わらねえ……方が嫌だわ……と、気づいた俺は、早々に観念した。……と、いうより、短く、おう、と受け答えをした。
特に話すことが思いつかなくて、会話を続けたくもないが、ふと、何故親父が掛けてくるんだと思い、尋ねる。
「……母さんは?」
親父は、ぶっきらぼうに、今、横で寝てる。という。
基本、ドナーも部屋を借りるのだけれど、親父たちは、共同の部屋にしたから、親父よりも大分若い母さんは、そりゃあ、看護師が引くくらいにはべったり親父に尽くしてるんだろう。俺は、想像して、うんざりした顔をした。
「相変わらず、冷たい息子だわ……。まぁ、心配なんぞしていないだろうと思うが、手術は経過をみるみたいだが、一応は成功だ。工場のみんなにも伝えてやってくれや。……あと、由宇哉は、元気か……?」
親父は相変わらずだ。俺の誕生日も俺の整備士試験の勉強の経過も聞かずに、工場の皆に伝えることと、
ただの意思を持った車、由宇哉の心配でしかなく、
と、無性にむかつきながら思っていると、親父がボソッと口にした。
「俺は、お前がどんな風でも生きてんなら嬉しいからな。あまり思詰めるな。誕生日おめでとう。じゃあな」
そういって、一方的に奴は電話を切った。
……ツー、ツー、と、空しくスマートフォンが鳴いているが、
……俺は、妙に笑けて、ちょっと涙が出た気がした




