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76.秘密の共有

愛美と一緒に川でまるで親友のイルカが戯れるみたいにじゃれて遊ぶ。彼女が笑っていると俺は、それだけで嬉しくてただただ俺は意味もなく笑った。愛美が俺の肩に手を置いて、体重をかけようと試みる度に俺は、わざと水の中に沈む。ぶわぶわぶわといくつもの小さくて細かな気泡がたって、愛美と俺はその度に、顔を水面の上出しては、笑った。(※危ないので、危険のないように遊ばれて下さいませ)


 そのうちに愛美は飽きたのか、身体を水面の上、あおむけに倒して、腕を広げ、ぷかりと浮いて空を見上げた。


 海の上ほどには浮かないが、空気を肺にためていれば、川の上でも2%は浮く。背浮きと呼ばれるこの方法、愛美は名称など知らない筈だが、川や海でしょっちゅう泳いで遊んでいれば、教えられなくとも自然と覚える。なんといったって浮くのは楽だし、なんといっても気持ちが良いから。


 俺も、愛美のように身体を浮かせた。


 空には変わらずの抜けるような青とまるで座れそうな巨大な白い雲がぶわりと浮いていたけれど、ふと、太陽の位置が高いような気がした。日がまぶしくて、思わず、目をぱちぱちしていると、白く丸い雲が浮いている。その雲がばあちゃんの顔に見えてきて、俺ははっとした。



 「か、カレーライス!っじゃない、ばあちゃんが!っじゃなくて、帰らなくちゃ!」


 不思議そうな顔をして、俺を見つめる愛美に、俺は、かなり一生懸命になって、昼はカレーとスイカを食べる約束をばあちゃんとしていることを伝えた。


 俺も、愛美も、一気に気づく。沢山遊んだ為に腹が減っていることに。


 愛美は俄然、目をきらきらさせて、俺に言い放った。


 「トシっ!あの岸まで競争しようぜ!」


 愛美は、泳ぎの上手い俺ですら舌を巻くほど、泳ぎが上手く、フォームが美しく、無駄がない。均整がとれた美しい彼女の肢体は、まるで、そのためにあつらえたかのように、水の抵抗を感じさせないなめらかで美しい泳ぎを見せる。


 彼女は、すーっと、静かに潜水したかと思うと、もう俺よりも数メートルも先に居て、比較的楽な平泳ぎで、楽々俺よりも数メートル先に居る。


 俺は、愛美の平泳ぎにクロールで負けることが癪なので、敢えて、同じ平泳ぎで立ち向かったが、結果は、完全な惨敗に終わった。愛美は、泳ぎが美しすぎ、無駄がなさすぎなのだ。


 「おまえ、前世は河童だったんじゃねえの?」


 俺が悔し紛れにそういうと、ふふん、と、愛美は、鼻で笑って見せた。悔しい。次は絶対に勝とうと心に決める。


 岸に上がると、濡れた身体のまま上がろうとすると、愛美がまた、手を貸してくれた。

 柔らかな手の平を掴むことにも俺はすっかり慣れてしまい、もう恥ずかしさを感じることもない。


 愛美の濡れた髪が小麦色の肌に張り付いて、高くなった日が、より温かく愛美を照らす。スクール水着が濡れていて、俺は、あんまり愛美の方を見れない。


 俺たちは、服を取りにいかなければならなかったし、靴も取りにいかなければならないと俺は思っていたのだが、愛美は、岸に着くと、枝を水に浸すように伸びた木の傍の石と石のくぼんだ所に置いていた、俺のスポーツバックと、彼女が持参した、バックを俺に手渡した。


 俺は、そういえば、バスタオルも予備の靴も服も彼女が持ってきてと言うから持ってきていたと俺は今の今まですっかり頭から抜け落ちていたことを思い出す。


 俺と彼女は、身体を適当に拭くと、暫く、日で熱くなった平らな石の上に座り、身体を少し乾かした。

 俺は、あまりにも気持ちよくて岩に寝転がると、愛美が俺を上からかがむ様に覗き込む。


 ん?と、目線を合わせると、悪戯っぽく笑った愛美が、俺の目の前に、水筒をかざした。揺らすとちゃぷちゃぷと音がする。


 「喉乾いてんだろ?飲もうぜ」


 そう、にかっと笑ったその顔に、俺は、嬉しくなって、うんっ。と同意すると、大分温くなった、麦茶を愛美から受け取った。


 夏の暑い日差しは、あっという間に俺たちの濡れた身体を乾かして、俺と愛美は、乾いた水着の上に予備の服を身に着けると、予備のサンダルと、俺は靴を履いて、また、あの、度胸試しの岩に、置きっぱなしの服を取りに行った。


 愛美の服はキチンと綺麗に畳んであるのに、俺の服はぬけがらみたいにてんでばらばらになっているのを見て、愛美が腹を抱えて笑い、俺は、微妙に悔しい。仕方ないさ。あの時は、ただただ、早く彼女の元へ行きたかったんだ。俺は心の中で言い訳をして。


 ばあちゃんの家に帰る帰り道は、アスファルトの道路が来た時よりもずっと熱くなっていて、夏の蒸すような空気と、川からのひんやりした風が混じって、笑いだしたくなるような擽ったい、妙な感覚がした。


 俺は、今までこんな気分になったことなんてない。


 まるで、大冒険をしてしまった後みたいに、嬉しくてくすぐったくて、思わず、愛美の方を見ると、目が合った愛美も、くすぐったそうに笑った。


 俺たちは秘密を共有して、きっとそれで、なにか、特別をもらえて。きっとそれで、俺はこんなにくすぐったいのだと。俺は思う。


 俺は。そう思って。


 



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