77.【一部 (完)】過去に閉じ込められて
思わず、路肩に駐車してしまった車の中で、
俺は、フロントガラスの向こうを見る。
今の今まで目の前にあった匂いたつような、温かい幻影が、全て、ふっ、と、掻き消えたような気がして、俺は、その胸を掻きむしられそうな反動に苦しんだ。
……そう、あれらは、全て、過去……で、……もう、俺の前には、絶対にあらわれない過去、に過ぎないのだと、俺のこころが、悲鳴を上げる。
俺の話をじっ、と聴いていた、この喋る……正確には、由宇哉という変わった名前の男の意識は、俺に向かって言った。……いつもの、軽い調子で。
「愛美ちゃんかー、僕も、きちんとお話してみたかったなあ。田邊はあの時、見えなかったみたいだけれど、僕は、田邊の前に立つ彼女の姿を見はしたんだ。けれど、殆ど透けてたから、はっきりとは解らなかった。……田邊、あんまり、思い詰めるなよ?一度失ったものは絶対に元には戻らない……、けれど、それでも、前を向いていれば、大事なものはきちんと目の前に生まれていくものだから。……それが、お前が生かされた、きっと理由でもあると僕は思う」
俺が、必死に嗚咽をこらえて、泣いていることを、この由宇哉は、気づかぬふりをしてくれるらしい。……普段は、遠慮のねえ奴なのに、妙に優しいところも持っている、こいつは、妙な奴だ。
俺は、隣の助手席で、無防備に眠っている彼女、小百合を目にして、俺は、自分でも解るほどに優しい目をしている。きっと。
小百合は、愛美とは全く違う。彼女の生き方も、見た目も、思考も、そして、性質も。
……それでも、どうしたって、彼女が長い髪を短くした姿で俺の前に立った時、俺は、面影を、愛美と重ねてしまった。
俺の中に居る、愛美の存在は、今でもこんなに強く、俺のこころをいっぱいにする。……締め付ける。
……それは、もう、彼女が、俺の前に二度とあらわれない、存在しないと、頭が理解しているからなのか、それとも、俺が、愛美を今でも忘れたくないと自分に暗示をかけているからなのか、……俺には、判断がつかなかった。
--俺は、本当の意味で、愛美を、過去を、受け止めきれるだろうか、
これから先、俺は、自分の生き方として、それを受け止めきれるだろうか、
……俺は、とても、自信がない。揺れて、ぐらぐらと、壊れそうで、心もとなく、
くるしい。
--俺は、今もまだ、過去に閉じ込められている。
【一部 (完)】
※2018 3/7 14:30
※ここまでで、この作品の【一部 (完) 】と、させて頂きます。
※田邊の過去、自動車のゆうくんの過去、を含む、愛美ちゃん編、オヤジさん編、そして、田邊編、田邊と小百合ちゃん編は、また二部以降で、紡ぎたいと思います。
※それでは、一度、ここで、お別れを失礼致します。
※二部 で、また、お会い出来ますことを、心から願って。一部を、今日まで読んで下さった方々に、精一杯の感謝と、沢山の有難う御座いますの言葉を。
※誠に有難う御座いました。一端、失礼致します。




