68.葛饅頭
俺は、ばあちゃんの美味しい飯を何度もお替りしながら、アシタバの天ぷらをはむはむした。今日は、天ぷらに、空揚げに、豚汁に味の沁み込んだ里芋と豚バラの煮っころがしに、トマトときゅうりはそれぞれ、ほぼトマトには塩、きゅうりには味噌をつけて食べる。冷えたスイカまでお腹には入らなくて、それは、明日に持ち越すことになった。
ばあちゃんは、葛饅頭まで用意してくれていて、俺は、初めて目にした葛饅頭の涼やかさに、愛美好きかもな。と思う。ふと、愛美の喜ぶ顔が見たくなって、俺にしてはめずらしくばあちゃんにねだって、葛饅頭の作り方を教えてもらって、愛美に渡す為に作った。
初めて作った葛饅頭は、俺の目から見ても、上出来で、俺は、嬉しくなる。
俺は、明日愛美に会うことをもう疑ってはいない。それが、自分でも不思議で、すこし、妙な気もした。
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風呂は、田舎だけど、流石に五右衛門ぶろとかじゃあないし、(ばあちゃん一人だから、薪で沸かすなんてとんでもなくて、普通にガスの風呂だ)ただ、ばあちゃんのもう居ないじいちゃんが、風呂大好きな人だったみたいで、ばあちゃんの家の風呂は、檜風呂だったりする。(ばあちゃんは殆ど関わっていないけれど、檜がある山をじいちゃんが先祖代々所有していて、功労おじさんは実は、その檜を生かして、新たなお酒を造ったらしい。檜だるにじっくり寝かせた純米酒のファンもじわじわと増えてきているらしいと聞く。元々、少し離れた場所に、田舎の美味しい水を生かして日本酒を造る蔵元に婿として入った功労おじさんは、今、販路拡大の為に海外に行っている)温泉が湧いている訳じゃねえけど、もともと、山からの水を引いているばあちゃん家の風呂は、水そのものがミネラルが豊富なのか柔らかい気がして、俺はばあちゃん家で入る風呂が実はすげえ好きだ。
ぼんやり、身体を洗った後に風呂に浸かりながら、開けっ放しの窓から、星で埋もれそうな高く高く見える空を見上げた。夜空は、今日見た短い夢の中で見たように、変わらず綺麗だったけれど、いつもの俺のように、俺の心の中をざわざわさせるようなことはなくて、俺は、ただただ、自然に綺麗に思えた。
俺は、愛美の言葉を思い出す。いちいち、功労おじさんと比べられて苛立ったが、折角だから、愛美が好きだという宮沢賢治を知ってみようかなとも思えたし、何より、あの夢の内容も相まって、銀河鉄道の夜を読んでみたくなった。
俺は、一つ頷くと、風呂から上がり、手早く身体を拭くと、適当にランニングのシャツと短パンを履いて、風呂を飛び出し、2階に駆け上がった。
繕いものをしていたばあちゃんが、俺のそんな様子を特に咎めることもせずに、少し笑みを浮かべていたのを、俺は全く気づかずに。
俺は、なにかに突き動かされるように、愛美によって少しずつ変化し始めていた。




