67.彼女がそう望むから
薄ぼけたような色合いの空は、そろそろ闇を連れてきそうな色味で。なんとも半端だった。
俺は、綺麗な愛美の横顔を見つめながら言う。
「お前、ばあちゃんの前では、猫かぶってんのな」
愛美は、そんな俺の憎まれ口にすこしむっとした顔をしてから応えた。
「あんたは、功労さんと全然違うんだ」
俺は、微妙にイラっとして、愛美に言う。
「俺を良く知らん俺のおじさんと比べるなよ。嫌な気持ちになるだろ」
「あんたとすこし話してみたいと思ったから、一緒にすこし歩きたかった。気を悪くしたのか?」
愛美の小麦色の肌と大きなアーモンドアイが俺を少し心配げに伺う。
俺はどぎまぎしながら、愛美から顔をそむけた。
「……っ別に、俺は、構わねえけど」
薄闇の空の下で、周りの畑たちがざわざわと俺たちの会話を伺っているような気がして、なんとも不思議な感覚になる。
愛美が持たされたばあちゃんからのお土産が、かさかさと音を立てた。
「僕、ちゃんと、あんたにお礼、言いたかったんだ。つくねばあちゃん、支えてくれただろ?だから。あの時、あんたの居る家聞いて、改めてお礼言おうと思って。そしたら、上手く言えなかったから、少しあんたと歩きたかった。僕は、急ぐと言いたい言葉が上手く出てこない。だから」
そこまで、一気に愛美は口にすると、にっこりと飛び切りの笑顔を俺に見せて俺の前に立ち、いたずらっぽく笑った。
俺は、一気に顔を赤く染める。彼女は、ひどく魅力的だ。
「トシっ!ここまで、でいいよ。送ったり、送られたり、は疲れるだろ?だから、お互い中間のままの場所でお別れしよう。この川のあたりが丁度中間だからっ僕の家は、あれ!遊びにこいよ!明日も遊ぼう。それと、僕は、あんたは、僕と言ってほしいな!俺はあんたに似合わないよ」
じゃあ
と、一方的に言われ、小柄で遠目からは男の子のようにしか見えない彼女は駆けていった。
俺は、また、そこに立ち尽くして。片手で顔を隠す。
……完全に、彼女、に心を持っていかれたような気がした。
その日から、俺の一人称は、人に対してのみ、僕 になった。
--彼女がそう、望んだから。
彼女は、僕の初恋の人だ。




