66.あらたな いつもの の始まりの日
少女は、愛美と言い、俺のことを、敏郎が言いづらいからと勝手に縮めて、トシと呼ぶことにしたらしい。
俺が、ほぼ、彼女の言いなりのままに受け答え?をしていると、おやまあ。という穏やかな声が頭上から聞こえた。
俺のばあちゃんだ。俺が見上げると、ばあちゃんは、微笑ましいものを見るかのように顔中を笑みでいっぱいにして、言った。
「愛美ちゃんも敏郎も、仲良しになったのねぇ。敏郎には仲良い友達がおらんかったから、有難いねえ」
俺は、一気に顔を染めた。愛美は、きりっとした顔をして、ばあちゃんの言葉を真摯に?聞いている。
「愛美ちゃんが持ってきてくれたニガゴリは、明日の晩御飯にしようかねえ。さて、おかえしは。つくねさんは、ばあちゃんの、薄皮まんじゅうが、大好きだからな、丁度、敏郎の為につくっておいたのが蒸しあがったから、沢山持って行ってもらおうかねえ。敏郎にはいつでも作ってやれるからな」
ばあちゃんは、いつものようにふくふくしたすこしかさついた大好きなばあちゃんの手で俺の頭と愛美の頭を撫ぜるとにこにことした。
「さて、それはそうと、今日は功労がおらんから、愛美ちゃんを送っていってあげられんねえ」
そう、ばあちゃんが困った顔をするのを見て、俺は、立ち上がる。ばあちゃんは、何故か困らせたくなかった。
「ばあちゃん、俺が愛美を送っていくよ」
ばあちゃんは、俺の言葉に目を真ん丸にして……愛美は、俺の言葉に乗っかるようにして言った。
「おばあちゃん、有難う御座います。私、トシに送ってもらえばきっと大丈夫です」
猫を被っている愛美に俺は何も言えずに、ただ、頷いた。




