49.呼吸を忘れたみたいに
私は、そこまで一気に言い切って、ふっと、息を全て吐いたと思ったら、そのまま呼吸を忘れてたみたいに、息を吸い込んだ。緊張してたのかな。……してたんだと思う。こんな話、他者にしたのなんて、生まれて初めてなんだ。こんな話をしようと思える人が私の目の前に現れるなんて、思ったこともなかった。
私は、そこで、ほぼ、初めてと言えるのかな、田邊さんの顔をじっと初めてまともに見たんだと思う。
意外に、まつげが長くて、目が優しそうで、堀が深い精悍な顔立ちをしている田邊さんは、普段はあまりしない、優しそうなのに、少し考えこむような表情をして、俯いた。
そして、こんな風なことを話してくれた。すごく真剣な、いつもとは少し違う低めの優しい声で。
「……僕、いや、俺は、ガキの頃に、すごく大事な友達を失ったことがある。その子は、海に落ちた。……俺のせいで。……俺は、君とは違って、自分の意思からではなかったけれど、……それでも、結果は同じだ。その子は、もう、目の前に居ない。存在してくれない」
田邊さんは、泣き出しそうな声で、唇を震わせていた。
……私は、田邊さんが私と初めて出会った日、愛美さんと間違えて呼んだことを思い出して、
その子が、愛美さんだって、解って、じりっと、胸が焼けるような気がする。
何故だか、よく解らないけれど、少しだけ、ほんの少しだけ嫌な感じがして。




