37.約束
ばふっと、浴室の網棚の上に置いていたバスタオルを取ると、それがそのまま顔に落ちてきて、漫画みたいな音がした。
身体の水滴を拭って、ウサギ柄のパジャマを身に着ける。水色の下地に白いウサギたちが自由にしているもこもこのパジャマは、多分、他人に見られたら子供っぽいって言われるだろうけれど、昔から、このキャラクターが好きなのだ。私は。一人の部屋だから、笑う人も居ないし、未だにこのキャラクターから離れられない。
水色の下地に、白いウサギたち。それがプリントされたクッションを掴み、濡れたままの髪をタオルを頭にかぶせたまま、水滴を拭うのもそこそこに、田邊さんに、電話する。
コーヒーはすっかり冷めてしまっていて、ちょっと残念だけれど、気にせず口にした。
2コールくらいで、すぐに田邊さんが出て、私は、取り合えず謝ろうと口を開いたら、電話口から懐かしい声が響いた。
「……小百合さん?聴こえる……?電話でも聴こえる……のかな」
ミルク色の軽自動車のゆうくんの声、少し聴かなかっただけだったのに、随分、懐かしい気がした。
ゆうくんの声は、口調は乱暴なのだけれど、柔らかくて優しい響きを含んだそれでも声変わりを終えていない少年のような声だ。私は、ゆうくんの声がとても好きな気がする。
「……っゆうくんっ……良かった……心配、したんだよっ」
そう、私が思わず、電話口でいうと、電話の向こうから、少しにぎやかな声がする。
「……この生意気な奴が悪かったな……本当に迷惑な奴だよな……」
少し低めで、ぶっきらぼうな、でもとても落ち着くような気がする田邊さんの声にかぶせるように、ゆうくんが叫ぶ。
「……っポンコツ田邊に、言われたくないやいっ」
私は、凄くほっとして、田邊さんとゆうくんそれぞれに、電話有難う、ってお礼を言って、近いうちに、話したいことがあるから、工場に行っても良い?って聞いて。
田邊さんは、気楽な感じで言う。因みに田邊さんの方が私よりも少し年上だ。
「……おう、おいで。いつでも良いよ。生意気なこいつも、君のこと待ってるみたいだし……」
田邊さんに了解を得て、その時にちょっとだけ駄目元で言ってみた。
「……あの、田邊さんが良かったら、ゆうくんと一緒に連れて行ってもらいたいところがあるんです。田邊さんが都合の良い日で良いのですけれど、お休みの日ってありませんか?」
田邊さんは、少し考えるようにして、それなら……と、お休みの日を教えてくれた。
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