32.前向きじゃない向日葵(1)
私は、小さな頃から、先天的な心臓の欠陥と、肺に小さく空いた穴のお陰で、殆ど、自然な遊びをしたことが無い。
激しい運動なんてとんでもないし、走ることも、泳ぐことも出来なかった。
私は、そんな生活に本当に嫌気がさしていて、ある日、静かに病院を抜け出した。
抜けるような青い空。風が爽やかに吹く、良いお天気で、凄く気持ちの良い気分で、いつもよりずっと身体の調子も良くて、自分でも大丈夫なような気がしていた。
病院から数歩出て、暖かな日差しと爽やかな空気を吸い込んで、そうしたら、堪らなくなった。
ふらふらと数歩出て、立ち止まってまた満足気に息をして、数歩進んで。
そんなことをしていたら、一人の女性に目が留まった。……まるで、吸い込まれるように。
髪の長い……、透明な表情をする女性
彼女は、ぼんやり病院に植えてある黄色の向日葵を見つめていた。
今でも思い出すその向日葵の色は、とても綺麗で鮮やかな力強い黄色。中心の茶色の筒状花には、アゲハ蝶が止まっていて。
思わず、じっとアゲハ蝶に近づく私に女性は気づいたようにして、驚いたように目を見開いた。
ちょっと不思議に思ったけれど、気にせず手を伸ばそうとする私を、そっと見つめる女性。




