30.あなたを雨に濡らしたくないと思ったから
勢いよく走ると、それだけで、息切れを起こす身体。
……私の身体は、……きっと、つぎはぎだらけだ。
身体だけじゃなくて、……きっと心だって。
つぎはぎだらけで、ささくれだけは、心の奥に見えないように縫い付けて。
私は、私を一生懸命守っていて。
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ぱしゃ、ぱしゃっ、と、冷たい雨が雨どいから落ちて、小さな洪水を作っていて。
そんな中で、やっぱり、あの、白い自動車は、昨日と同じ場所で、雨にうたれながら、泣いていた。
私には、快く思えない、苛立つようなあの独特の響きの声で。
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傘をさして、パジャマのズボンの端が雨で濡れてしまうのも構わずに、私は、静かに、白い自動車に近づく。
私の薄いモスグリーン色のパジャマの上のカーディガンが、ほんの少し雨で濡れそぼるような気がしても、そんなことに構っていられなくて、すっ、と、白い自動車の上に被さるように傘をかざした。
水色の下地、内側の白いウサギがにぎやかにプリントされたその傘は、開くと、ぱっ、と華やかになる。
白い自動車は、頭上に落ちる雨のしずくが無くなったことに気づいたのか、先ほどまで泣いていたその声を驚いたように止めて、私を伺うように見つめた。
不思議と解る、白い自動車の表情は、不思議そうにも、不可解そうにも、見えた。
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私は、大きく、息を吸い込むと、じっとその白い自動車を見つめて、口を開いた。
私の脳裏に浮かぶのは、鮮やかな黄色の向日葵と、寂しそうに笑う女性の顔立ち――。
「……篠部さん……、……間違っていたら、ごめんなさい。……でも、あなたは、篠部さん、でしょう……?」
ざぁああ、と、傘に打ち付ける雨の音が急激に音を吸い込んでいくような錯覚に陥る。
水、向日葵、……そして。激流。川。
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それは、私の。……私と、篠部さんの。
……塗りつぶしたい、思い出――。
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