21.意思をなくした機械の塊
私が、違和感に声を失ったのと、彼が意思をなくした機械の塊となった瞬間は、ほぼ同時だったと思う。
私は、慌てて、彼……ゆうくん、と呼んでいた軽自動車に近寄ったが、彼は、一切声を発することが無かった。彼の、ミルク色のボディは、彼の意思があるとき、潤みを持って柔らかく光を放っているようだったのに、今ではただ、色を塗り重ねられた、自動車のボディのままで。バンパーをトントンと叩いてみたが、何の反応も無い。私は一瞬で顔を青ざめさせる。
今まで、あれだけ表情豊かに見えていた彼の顔は、今ではただの自動車の正面部分に過ぎなかった。
何が起きたのかは、解らなかった。……解らなかったけれど、伝えなければと思った。
私は、慌てて立ち上がると、私の車のタイヤを替えていた田邊さんに駆け寄る。
「……田邊さんっ」
「……ああ、ちょっと待って。もう少しで終わる……」
田邊さんは、最後のボルトを止め終えたところだった。
私の自動車は、声を発しない。……私が言葉を発する車に乗ろうとしないのには、理由がある。
……それは、幼い頃にある出会いをして……関わりを避けてきたからだ。だから、自動車の声が聴こえても敢えて、それを生かす道には進まなかった。
私は、田邊さんに何とか解ってもらおうと言い募る。
「……ちがう、そのことじゃなくて……ゆうくんがっ」
「……?」
田邊さんは、一瞬、あっけにとられたような顔をして、その後、嫌な感じに顔を歪めた。私が指す、ゆうくんが、あの軽自動車のゆうくんを指すのだと察したみたいだった。
「……あの生意気な奴は、ほっといてやってくれ……それに、俺にはかんけいな……」「動かなくなっちゃったのっ!」
私は、田邊さんの言葉に声を被せた。田邊さんは、は?という顔をする。私は、更に言い募った。
「……だからっ、ゆうくん、何も話さない!……普通の自動車になっちゃった……」




