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19.理由

 「……た、田邊が、言ってた……、僕ら自動車が話す、意思の言葉、……いつから、人に聴こえるようになったんだろう……?って、不思議そうに、……う、普通、そんなこと、気にならないだろ?、……あいつ、やっぱ、へんな、やつ、だ」


 僕は、目線を下にしたままに、つっかえながら、小百合さんに言ってしまう、


 小百合さんに、僕は、めっぽう弱い気がする、なんだかんだで、追及されたこと、全てぶちまけてしまっているような気がして……、小百合さんは末恐ろしい子だとおもう。



 小百合さんは、僕の言葉に、ううん?と、少し考えるようにして、僕に言ってきた。


 「ゆうくん、は、いつから、自分の名前が、ゆうくんだって、知ったの?」


 僕は、突然の、小百合さんの言葉に、面食らったように目線を揺らす。何を意図した言葉なんだろう?解らないけれど、取り合えず、答える。


 「……っ、そんなの、解るわけない。……僕は、意識があるときから、僕だったし……。……正直、考えたこと、なんてない、よ……」


 小百合さんは、少し考えるようにしてまた僕に言う。


 「……私ね、生まれてすぐに、心臓に欠陥があって……、肺にも、小さな穴が空いてたの」


 小百合さんは、白い頼りない手を、そっと自らの心臓の位置、少しだけ中心より左寄りの位置にあてる。


 手が触れた部分だけくっと服に柔らかい皺がよった。


 「……私が、こうして、息をして話しているのを見るだけで、……当時から担当の先生は……、定期健診を私が受けに行く度に、言うの。”君が、こうして言葉を発しているのを目にすると、僕は、奇跡を見ているような気になるよ”って、ね!」


 小百合さんは、その担当医師の声真似……なのだろう、声音を変えて、表情まで変えて、僕に言い募る。


 僕は、ひどく情けない気分でそれを聴いてたんだ。……なんで、そんな気分になるのかは、僕には解らない。


 小百合さんは、僕に、自らのことを話す。彼女の声は、まるでオルゴールの音のように、どこか丸みがあるのに、時折、欠けるように硬質に尖る。不安定な丸み。それが、不思議な音程になって、僕のもとに届く。まるで、電波みたいに。僕に届く。


 「……私が、自動車の意思を聴けるようになったのは、元気になって、病院の外に出てすぐだよ……それに、病室では、幽霊がたっくさん居て、……小さな私の話し相手になってくれてた」


 だから、田邊さんに、何故、聴こえるようになったかの説明は……出来ないのだけれど……でも、予測はついているんだ、


 ……と、小百合さんは、僕に言う。



 「……ラジオの波長が合うみたいに、きっと、どこかで、波長が合う瞬間があるんだと、おもうよ」


 **


 


 

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