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異世界に派遣されたお仕事です!  作者: tera
一章-魔物の暴走編-
22/26

-21話- みんなで派遣?~魔物の暴動は、流石に一人じゃ無理4~



 今回の暴動の発端は、大きな森林区の生態系変動から来ている。今まで森のゴブリンを駆逐していたジャイアントスネークが一斉に居なくなり、そして森を管理していたトレントも多くが消えてしまった。


 忽然と更地になってしまった森を目の前にして異変しか感じ得なかった。


 一体誰が、何の為に、森を消し飛ばしたんだろうか。

 報告書には少し遠目の森の中にある丘の崖下に巣くっていたゴブリンも駆逐されていた。と書かれている。


 暴動を起こしたものが、魔族なのかそれとも人間なのかわからない。

 何を持ってこんなことをしたのかもわからない。


 ただそれでゴブリンの生息域や、その他魔物のテリトリーが重なり合って血で血を洗う生存競争が起こったのかもしれない。


 そして、——統べる魔物が誕生してしまった。


「私達Bランクのパーティ”大いなる翼”は、その森の奥地で密かに集合するオーク、オーガ、ゴブリンの大群を見つけた、急いで報告する義務があると直感し、具体的な数を調べるよりも先に報告に……」


 読み上げていると手が震えて来た。まるで派遣先で大きなミスをしてしまった時のような、やってしまった感が胸の内に溢れてくる。


「……うわぁ、大戦犯ですね」


 後ろから俺の方にアゴを置いて覗き込んでくるケティ。吐息が頬に、胸が背中に当たっているのだが、今は全く持ってそれどころではなかった。


「あれおかしくない? 大蛇の件も、丘の件も、全部アンタ達がやったんでしょ? なんでギルドに報告が上がってないの?」


 今ではすっかり影が薄くなっている、この中で一番まともだと思われる猫耳変態娘のミスチェが、その猫耳をひょこひょこ動かしながら、この報告書のおかしい点を突っ込んでくる。


 報告書は全部俺がアリエルに上げていた。

 ことの起こりを細かく。なぜ、森や丘が消し飛んだかとか。


 そして、それを処理していたのはアリエル。

 つまり、この町のギルマスなのだ。


「ふむ、ヤバイ部分は全部改竄してたようだな」

「ば……ばか正気に報告してたのが、だ、だめだったのか」


 シンディが真実を告げ。

 俺の口があわあわと震えて来た。


「……アリエル師匠にこれから舐めた口聞けませんね」


 横目でケティを見ると、恐ろしい表情で笑っていた。俺の所業が大きな問題だと吊るし上げされなかったのは、アリエルが自分の所で止めていたからだった。


 ギルマス権限を使って。

 あとで土下座しなきゃかな。


「やりゃいいんだろ! やりゃ!」

「うわ、開き直りましたよ! 飲食店裏のゴミ箱開いた時みたいな臭い生ゴミ根性ですね! ほんと尊敬します!」


 ヘッポコ召喚師は、自分の立場が上だと思った途端、これ見よがしに強気で来るのであった。でもな、虎の威を借りる狐状態だからな。


 魔物の暴動は、西の森地帯から押し寄せてくると言っていた。東に荒野で西に森。北には平地で南は海ってか、なんだこの土地、ご都合主義の塊か。


 そして森と町の境目、特に防壁付近には集められた冒険家が集っていた。班別けで一応その他の入り口まで全て守りに当たるのだが、特に早馬での報告があった西門の前には、こぞって屈強な冒険者達が今か今かと暴走した魔物が来るのを待ち構えている。


「田舎の町でもこんなだもんね、他だとどうなるの?」


 ミスチェが首を捻った。

 ケティが返答する。


「魔族領付近の村だと、魔族が直接指揮を取ったスタンピードがあったらしくて、その数は万以上だったらしいです。大きく歴史に名を残した戦い時でもあったんだとか」


 平和なのはこの田舎町だけみたいだった。

 今回予想されている数は千体。


 対する冒険者の数は数百にも充たない。

 もしも思っていたよりも多い魔物が襲来した場合、飲み込まれてしまうだろう。


 それこそ、人の被害を考えずに住民総出で農具やら武器になりそうなものを持って戦うしか無いのかもしれない。


「まぁ王宮公認の矛とやらがいるから問題無さそうだな、——私のオーバーフルキャンサーという必殺技を使えば千の魔物でも何でも蹴散らしてやるというのに」


 剣が曲がってなければ……、とシンディは馬車の中で膝をつく。

 あの揺れるからやめてもらっていいそう言うの、フルプレートメイルのせいで積載重量ギリギリなんだから。


 だが、確かにエルゴッドはすごかった。

 西門の前で光り輝く剣を上に掲げると、


 “敵の数は……、千を越えるかもしれない……、でも僕が居る……、僕が居る……!!!!”

 “うおおおおおお!!!!”

 “僕が居る……、限り。誰一人として……、犠牲者は出さない。そう……、決めたんだ……!!!!”

 “うおおおおおお!!!!”


 “さぁ、僕と共に……、行こう!!”

 “うおおおおおお!!!!”

 “戦うんだ……、明日の為に……!!”

 ”明日の為にいいいいい!!!!”


 これには流石の俺も恥ずかしくなって来たよ。

 民衆のゴミを見る様な目とはまた違った視線……、耐えられない。


 エルゴッドと冒険者らを中心に西門は守りを固めている中で、俺達派遣は四方に存在する門ではない所から、馬車をチャーターして出発していた。


 隠されたもんというか、町の自警団の使っている警備用のものだったりする。

 スタンピードを操る指揮官クラスのモンスターを討伐する為に組織されたギルド直属の派遣組織だと紹介された。


 そんなご大層な事を言ったもんだから、シンディが興奮してまた嘘八百の設定を並べだす。

 いつしか俺達は、


 ギルドマスタの一番弟子である召喚師。

 超能力を操る猫人族の天才。

 金色の城壁だと異名を持つ超絶姫騎士。

 出自不明の一撃必殺男。


 そんなイメージを持たれてしまっていた。

 うわぁ恥ずかしい。ただただ死にたい。

 みんな好き勝手言い過ぎだろ。


 何がギルドマスターの一番弟子だ。

 召喚契約結んだ魔物一匹も持って無いくせに。


 何が超能力を操る天才だ。

 一発撃ったら力つきるただの猫娘だろ。


 何が金色の城壁を持つ超絶姫騎士だ。

 あいつに関してはどっからどうツッコんだらいいのかわかんねぇ。


「恥……、かかないようにしなきゃ」


 呟いた一言が聞こえていたようで……、


「ああ! なんて失礼なことを!」

「アタシの恰好は猫人族の民族衣装なのよ!」

「騎士は誇りを失った時が恥ずべき時だ!」


 三人は狭い馬車の中で揃って俺に押し寄せて来た。

 ともかく、このままでは俺の立つ瀬が無い。


 せめてボスモンスターを倒してでも、このスタンピードを食い止めて。

 ギルドマスター直属の派遣組織がやりましたよ。って宣伝しなきゃいけない。


 時給も上がる事だしね。

 俺達を乗せた馬車は、森の外縁を走り、止まった。


「流石にここまでしか無理です、馬が怖がっています」


 馬車を駆りだしてくれた自警団の青年がそう言いながら幌馬車を開ける。


「確か、ここから森を一直線に抜けると、報告にあったらモンスターが集まっている場所に抜けるとの事です。アリエル様直属の派遣の方々、どうかご無事で」


 そう言いながら軽くなった馬車はすごいスピードで町に戻って行った。

 帰り道、逸れた魔物にあわないと良いけど、自警団に入ってるくらいだから、大丈夫か。


「怖い奴はここで待機してても良いからな、戦えるのだって俺とミスティしか居なそうだし」


 ネコ娘の唯一使える部分は、獣人としての身体能力と索敵能力がある事。森の獣道を進むには、この上ない案内人となる。


「大丈夫です。ベビちゃん居ますから」

「ベビートレントに寄生してる奴が何言ってんの、立場逆転してんだけど?」


「ふん、私の、——シャイニングネオアームストロングサイクロンジェットごにょごにょ……、にかかれば敵モンスターなんて一撃で」

「相変わらずネタの完成度ひくいなおい」


 どうやらついて来る選択肢しか無いようで。

 俺はやれやれと溜息を尽きながら、ポケットから軍手を取り出して装備した。


「前から思ってたんだけど、アンタのその服、変わってるわね」


 森の中で俺の腕を引きながら案内するミスチェが、マジマジと俺のつなぎ、軍手、安全靴を見ながら言った。鉄塊を運ぶ工場勤務だったから、滑らないように安全手袋というグリップ付きの軍手は必須。


 そして万が一足下に落としてしまった時用に、安全靴もかなり丈夫なものを支給されているのだ。

 因に購入費は給料から天引きされる。


 全て工事現場のキミドリ安全製だ。

 正直、ヘルメットも持って来とけば良かったよな、こんな危険な事になるなら。


 アリエルに今度頼んでみようかな。


「前の職場で支給されてたやつだよ、動きやすいぞ。この手袋は滑らないし、この靴はつま先に鉄板仕込んでるからな、つなぎはまぁ……、丈夫だ」

「なるほど、手袋と靴は売ったら金になりそうよね」


 彼女は耳をピクピクとさせて考え込んでいた。

 確かに、靴に鉄板を仕込むとかって異世界ならではの素材で良い感じになるんじゃないか?


「なんか金に目敏い癖に、なんであんな依頼なんかに?」


 初めて出会ったのは、冒険者が引き受けない捜索依頼。


「だから、探しものが猫だったからよ。すぐ見つかると思ってたの」

「パーティとか組まないのか? 結構役に立つと……、ああそうか」


 そうだ、コイツ一発撃ったらぶっ倒れるタイプのアレだった。


 失言に、顔を赤くして唇を噛み締め、プルプルと震える猫耳を見て、俺はそっと彼女の背中を撫でるのであった。



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