-17話- いきなり休日?~これが本当の異世界ライフ3~
「……助かった。礼を言う」
フルプレートメイルを装備した金髪が、憮然とした態度で言う。まるで、さっきの出来事が無かったかのように、背筋を伸ばし、その豊満な胸を張りながらである。
マーシャルウルフは「え、なに? 俺達もう良いの?」と言う風に、あっさりと彼女の手放し、お手製筋トレ器具をくわえて立ち去ってしまった。
「私はシンディ、大いなる破滅の剣を継ぐ者。その正体は一国の姫。姫でありながら、生まれながらにしての騎士でもある」
別に聞いてないし、どこからツッコンだらいいのやら。
姫騎士だと名乗るこの金髪の女は、確かに相応な程に綺麗な顔立ちを持っている。
「そう、騎士故に助けなどいらん。マーシャルウルフの二〜三匹くらい私に取ってみれば放課後のティータイムのようなものだ」
勝手に頷きながら喋り続けるシンディ。
それを横目で見ながら俺はケティに耳打ちする。
「おい、なんだ放課後のティータイムのようなものって。俺は一体どういう意味で読み取ったら良いんだ?」
「たぶん朝飯前だって言いたいんでしょうね」
彼女の自己紹介を聞いて、判明したのはただの馬鹿ってことだけだった。
荒野に、サムい風が吹く。
「はい、わかりました。じゃ、またどこかで」
「ちょっと待て」
踵を返すと、肩をつかまれる。
「まことに情けない事なのだが、私の愛剣がダメになってしまった。一応守りにも自負と定評があるのだが、やr……剣が無ければ戦えない」
おい、槍って言いかけただろ今。
折れた槍を剣だと豪語し、見せびらかす彼女はこう言った。
「そして私は流浪の身、しがない冒険家をしているが道に迷ってしまったのだ。出来れば近くの町まで案内してくれると助かる」
要約すると、槍が無くて戦えないから護衛しながら町まで案内してくれって事だった。
俺とケティは溜息を大きく付くと、黙って町に戻る事を決定した。
「おい、騎士を馬鹿にするな、姫だぞ」
もうつっこまんぞ。
後ろでぼやく金髪全身鎧馬鹿はシカトして先に進む。
「結局、いせかいちーとはできませんでしたね」
ケティが思い出したように言う。
そうだ、俺ここに何しにきたんだっけ。
今更ながら、余計な事が多過ぎて主旨を忘れてしまう事が多い気がする。
派遣社員の底力を、普段からボロカスに言われる俺の底力を見せつけるチャンスだったのに。
「あわよくば、それでハーレムをごにょごにょ……」
「何を言ってるんですか?」
小ぶりでもなければ大ぶりでもない、だが実に丁度良い胸と桃色のツインテールを揺らしながらケティが顔を覗き込んでくる。
「な、何でも無い。でもまぁ、多分俺の予想が正しかったら結構使える能力じゃないかって思うから、機会があれば見せてやるよ」
「ああ、あのすごいやつですよね。絶対こっちに向けないでくださいね」
その発動条件を探る為に、この荒野にやって来たんじゃないか。今回の目的はそんなものだった。荒野だったら既に荒れてるからいくらでもぶっ壊していいとのお達しがあった。
と、いうか。
アリエル直々に森は壊すなって叱られたからね。
「おい、無視するな。泣くぞ、騎士の涙は重たいぞ。姫の涙は希少価値だぞ」
無視する。
こいつのせいで、クエストすら達成できなかった。
いなかったら問答無用で異世界チートの餌食にしてやったのに……。
なんか、変に見逃してもらっちゃったから……。
「あれ、ベビちゃんが震えてます。一体どうしたんでしょうか……?」
四六時中、抱き上げていることは不可能なので、今回は大人しくケティのポーチをベッド代わりにしてもらっていたベビートレントが《ぴきぃぴきぃ》と怯えたように泣き始めた。
まるで親を呼ぶように。
というか、未だ親認定されてないんだなケティ。
「どうしましょう、何かあったんでしょうか? この辺には木が無いですから、当然トレントさん……も”!?」
前を向いたケティが驚いた声を上げた。
視線を追うと、大きな岩の影から一つ目の巨人がこちらをジッと見つめていた。
「な、なんだあいつ!?」
余りの出来事に俺も驚く。
それも仕方ない、巨人と表現したのは少し間違いで、巨大なゴツゴツとした正六面体の身体にデカくて太い手足が生えていて、その中央には丸くて大きな目玉が一つ。
サイコロみたいだな。
まず頭にそうよぎった。
「あ、あれはサイコロプス!」
そのまんまじゃねーか!
思わずズッコケた。
「でも、レアモンスターですよ! 身体の構造が単純な分、力が強くて短命です。でもその身体の構造がすごく価値の高い魔石を育むんです! それこそマーシャルウルフの討伐よりも全然実入りがいいと聞きました!」
俺のやる気はグーンと上がって行く。
ちなみに、多分ケティの"聞いた聞きました"は周りで喋っている友達がしていた話が聞こえていた部類に入る。
何もやる事無くて教室の隅で、会話に華を咲かせるクラスメイト達の話を聞いていたんじゃないかと思う。そのくらいコイツは真性のボッチだ。
そのくせ閉所恐怖症とか、矛盾してる。
「よっしゃ任せ「くっ、剣が折れていていつもの5%くらいの力しか出せないが——ここは私に任せてもらおう!」
セリフを被せられた。
曲がった槍を両手に抱えた金髪は、だばだばとかなりトロいスピードで双六お化けに突撃して行った。
「剣は曲がっていても、騎士である私の信念は決して曲がらぬ! ——ゆくぞサイコロ! ジャスティスランサー!」
そして、——ガブり。
「くっ、捕まって丸呑みにしても意味ないぞ! 私のフルプレートメイルは鋼で出来た、あ、高かったのだぞ! なけなしの財産で買った私の鎧いいいいいい」
捕まった姫騎士は、そのままサイコロプスの大きな口の中へと放り込まれた。ガキガキと、今度はガチでフルプレートメイルを咀嚼して、鉄が変形する音が聞こえる。
「はわわわわわ!! シマ、ヤバイです! ガチじゃないですか!?」
「くそ! なにやってんだあの馬鹿! いいかそこから動くなよ!」
ケティにそう言うと俺は駆け出した。
流石に目の前で死なれちゃ寝目覚めが悪いからな。
相手は頑丈そうな四角い化物。
そしてレアモンスターと来た。
不遜は無い。
右手に力を込める。
まず地球人の特性、その一。
普通にしてても腕力が強い。
身体の基本的なスペックが高く、中でも俺は物理特化というか。
三年間、鉄の塊を持ち続けたことが影響したらしく、アリエル曰く、平均値よりも圧倒的に上の身体を有していた。
「どっせい!」
サイクロプスのアゴを横からぶん殴る、《ほげぇ》と変な声を出して、シンディが解放された。鎧には歯形がびっしり付いてへこんでいたが、幸いなことに牙が身体まで到達している印象は感じえなかった。
そしてこれが俺の必殺技。
前々から度々ピンチで登場していた、わけのわからん力。
「これが覇拳だ!」
右手に意識を集中させて溜めを作ると、全身全霊の力を込めて。
大きく振りかぶり、——そして振り抜いた。
俺の後ろから右の肩と腕を通って突風が吹き荒れるように強大な衝撃の奔流が、サイコロプスに打つかる。そして、消し飛ばすのである。
「す、すごい……」
間近で見ていたシンディが感嘆の言葉を漏らす。
これが派遣の力だ。
毎日毎日罵倒され鍛え続けられて来た派遣社員の底力という物だった。
「あの、確かにすごいです、でも……言いにくいんですけど」
とケティがそっと手を挙げて行った。
「……魔石」
「——!? し、しまった! くそう探せ探せ! あっちの方向に飛んで行ってるかもしれん!」
「いやでも、アレ喰らったらだいたい消し飛ぶじゃないですか! 魔石なんて跡形も無く消し飛んでたじゃないですか! 前例がありますよ!?」
「いうなあああ! 僅かな希望でも残ってたら俺は探す、探すぞうわあああああん!!!」
ゴキブリのように這いつくばって魔石を探し、全力疾走する俺を見ていたシンディがボソッと言った。
「やっぱすご……くないかもしれん」
魔石は無かった。力加減を練習しなきゃいけない。
そして、マーシャルウルフの魔石すら待ち返って来なかった手ぶらの俺達を見て、アリエルはため息をついた。
「……情けないのう」
やめて、あわれまないで。
最近限りなく良い感じの人生っぽくなって来てるから、耐性無くなって来てるから。
言葉が思ったよりも心に刺さった。どうして俺は魔石ではなく、こんなわけのわからん姫騎士を連れて来てしまったのか。
そして開口一番シンディは言った。
「わ、私もここで働かせてくれ!」
曰く、——何もしないで給料が発生するのは素晴らしいとのことで。
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