-16話- いきなり休日?~これが本当の異世界ライフ2~
ギルドに居たアリエルが、少し顔を赤くしながら俺に一枚の依頼書を渡してくれた。それは東の荒野にあるマーシャルウルフの討伐に関する物だった。
“まぁ何しに行くか、わかっとるつもりじゃし、どうせなら駆逐して来い”
マーシャルウルフとは東の荒野に巣くう狼の魔物。その性質は獣には似つかわしくない程に、己の身体を己て鍛え上げて強くなって行くというもの。
荒野に住み着き、そこで日夜鍛え続けるなんて、孤高の武術家みたいな性格なんだけど、そのくせ集団を築くという一丁前に狼らしさを残している微妙な魔物。
危険度は、そこまで高くない。
修練と言う物も、あくまで彼等が生きる中で行う物だ。
畜生道は、人様みたいに食べ物がいつでも食べれて時間が余っているわけじゃない。
その理論で行くと……、あれ、日本に居た頃、人様みたいに食べ物がいつでも食べれた訳じゃなく、時間も余ってなかった。
住所不定無職は獣と同じ。
そう、人間と言う生き物は、社会の中から一歩出ればたちまち淘汰される程のちっぽけな存在なのである。
されど、気をつけるべき点は、集団で活動する魔物には高確立で特異点を持った物が生まれるという点だ。一応魔法学校に通っていたケティにこの世界の色々に付いて教えてもらった。
あのウジキングとかいうバトルホリックの魔物だってそうだ。
急激な進化と言うものが、魔物にはある。
それは経験を経て、移り変わっている自己防衛本能とでも言うのか。
牙を抜かれた派遣社員と違って、彼等は勇猛なリクルーター達とでも言える。
——職に、飢えている。(例え)
自然淘汰の中で進化している魔物。
マーシャルアーツはその性質から自己進化しやすいタイプだとされて、冒険者などが荒野を渡る時は討伐推奨指定の魔物だったりするのだ。
「で、なんでお前もいんの?」
「はえ?」
後ろを振り返ると、ツインテールをピコピコ揺らしながら後を付いてくるケティとベビートレントの組み合わせが居た。
むしろ、なんでダメなんですかと言ってそうな勢いである。
「そりゃ、休日が暇だからに決まってるじゃないですか。ベビちゃんの食費だってこっちはかかってるんですよ? 貴方に稼いでもらわなくで誰に稼いでもらうって言うんですか?」
口から出た彼女の極々自然な寄生宣言に。
溜息がでた。
そうして御都合主義よろしく、オーガストの言った通りすごくお手軽な荒野へと辿り着いたのだった。
「ねぇ、ステータスって知ってる?」
「なんですかそれ?」
この世界にステータスは無いようだ。
危ない、ひとえにステータスオープンとか叫んだもんなら、恥ずかしくて死にそうになる。
気を取り直して、早速発見したマーシャルウルフのグループを岩陰から除く。
彼等は重たい石を転がしたり、くわえて傾斜を上り下りしたり。
……腕立て腹筋背筋、スクワットを行っていた。
「ね、ねぇ、マーシャルウルフってだいたいあんな感じなの?」
「えーと、魔物辞典によりますと……あのグループは比較的レベルが低いタイプになりますね。確か、ハイレベルなマーシャルウルフのグループになりますと、各種トレーニング器具が充実しているとかなんとか」
なんか、想像してたのと違う。
もっとこう、山ごもり的な。
それの荒野バージョンを想像してたのに。
マーシャルウルフは汗水流して筋トレしていた。
その表情は、まさに身体を動かして清々しそうだった。
骨の構造的にあんな動きは可能なのか。
「獣人とかじゃないよねあれ。本当は荒野に住む狼牙族とかそういう種族じゃないよねあれ」
唖然として呟くと、ケティは呆れたように言った。
「何言ってるんですが、人語が通じずに人を襲って来るのは、大抵魔物に決まってます」
調子狂う。
もう、帰ろうかなと思ったんだが、アリエルに渡された依頼書には罰則規定があり、失敗に終わると違約金を払わせられる。
絶対あいつわかってやがったな。
頭を抱えた。
「ほら、なんでしたっけ。精々稼いできてくださいお父さん」
「ぐおおお、いつからそんなキャラになったお前」
「昨日の夜の事……忘れたとは言わせませんよ。あんなに激しい夜でした、初めてでした。人生初めての経験でした。責任とって下さい」
「お前の脳みそがなにをどう認識してるかは知らんけどな、酒場の男共に乗せられて酒飲んだあげく、テーブル一つ木っ端微塵になるまで暴れ回って、店の裏のドブにあられもない姿で吐きまくってた事を覚えていないのか」
真実を告げてやると、ケティの顔色は青ざめた色になった。
こいつ、アルコールと共に記憶もとぶタイプか。
因に部屋に放り投げると、寝ぼけて服を脱ぎだしたので俺がパジャマに着替えさせといた。ミスティはいつのまにかパンツ一丁だった。元から裸みたいな恰好してるけど。
ズーンとした表情で棒立ちする彼女は放っておいて、俺はマーシャルウルフ達の元へ近付いて行った。
そこへ見知らぬ声が響く。
「喰らうが良い! 我が暴虐の剣にて貴様の魂を喰ろうてやる! ——ワーストブレイカー!」
俺がワーストウルフに突っ込む前に、一人のフルプレート装備に身を包んだ金髪の女が大きな”槍”をフラフラと掲げてマーシャルウルフに突っ込んで行った。
「ふふふ私の剣の威力を見よ! これが破滅の剣! ——オーバーワールド!」
フルプレートをガシャガシャとならして、ほとんど競歩の様なスピードで突き進む金髪の女は、”槍”を大きく掲げて振り下ろした。
ガキンと硬い音がする。
「うわぁ……、私も杖で地面を間違えて殴ってしまった時、あのような形に腕が痺れた記憶があります」
ケティが顔をしかめた。
金髪の持った槍は、マーシャルウルフが置いていた手頃な大きさ重さの石に当たって曲がってしまった。
「わ、私の剣がぁああああ!!! ——ああっ!?」
そして曲がった”槍”に驚いた金髪は、フルプレート装備の重さでバランスを崩して仰向けに倒れ込んだ。
「……く、殺せ。でもあんまり痛くしないで」
……。
マーシャルウルフさん達は、最初は俺達と同じように呆れてしまっている。まぁまぁ筋トレの続きでもしようじゃないかと満場一致で続きを始めた所で、一匹の狼が何かに気付いたように周りの狼達に鳴き出した。
《——がる? がるるる! がるるるるる!》
《がるがる? がる! ぐるるる?》
何を話してるのか、簡単に想像付いた。
そして周りの狼達を、何かを思い出したようにおもむろに立ち上がると、少し戸惑いを感じさせる微妙な唸り声を上げて突っ込んで行った。
「ああ、ダメです。あんな装備じゃたちまちマーシャルウルフの餌食に」
見ていたケティが俺を見ながら冷静に言った。
「見てないで助けろよ」
すると荒んだ様な顔をして、
「けッ……、召喚契約も結んでない召喚師に、今更何をしろと。むしろここで跳び出しても周りに木が無いですからベビちゃんも助けてくれないしどうせ死ぬだけじゃないですか。犬死にですよ犬死に。三浪して入った魔法学校を中退して唯一の糞スライムですら失ってしまった今のわたs——」
「わかったわかったわかった! もうそれ以上言わなくていいから、こっちが悲しくなるからやめろよ! ってかずっと思ってたんだけど剣じゃなくてそれ槍な! あとどう考えてもマーシャルウルフは危険じゃねーよ! だって真剣に筋トレしてたもん、すっごい部活動みたいな青春っぽさ出てたもん! 今更、あ、俺達魔物だから人間襲わなきゃ! みたいなテンションで飛びかかってんじゃねええええええええええええええええ!!!」
わざわざ顔とか首とか剥き出しになっている部分ではなく、あえてフルプレートをがしがし甘噛みしているマーシャルウルフ。
たぶん敵とみなされてない。
俺はとりあえずあいつを助ける為にマーシャルウルフを追い払いに駆け出した。
いやほんとすいません。
筋トレ邪魔してすんませぇん!
異世界チートで魔物無双は、ほど遠い。
俺だってこの拳でデイドリーマしたい!
お読み頂きありがとうございます!
ツイッター@tera_father
処女作、テラ神父の方もよろしくおねがいします。
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