-12話- いきなり派遣?~派遣がやるのはだいたい損な仕事3~
それではまた明日!
「ん〜、ケットンって名前……確かマダム・オオヅカの飼ってる猫がそんな名前だったかしら?」
子犬を抱きかかえた一人の婦人が教えてくれた。
俺達の探すケットンという動物は、町一番の多く広い館に住んでいるマダム・オオヅカのペットであるという。そしてそれがちゃんと猫であるという事も。
「でもあの人自分ルールでしか物事考えないから、メリッサ出禁になっちゃったのよねぇ。だからしばらくお話すらしてないもの……、お話したいとも思わないけど。私達のペット食べられちゃうから」
食べられちゃうから、を強調して婦人は子犬をギュッと抱きしめる。
一体どんな魔物なんだ。
「依頼書の内容からも、自分ルールって所はだいたい当てはまってるよな」
「そうですね、探せって依頼しておきながら、捜索対象の情報は何一つ書かれていない」
多分慌てたんだろうな。と溜息まじりに言うと。
ケティも同じ様に思っていたのかため息をついて頷いた。
権力者の癇癪ほど、危険な物は無い。
さて、コーヒーと破った新聞の代金は我らが社長アリエルにツケといて、俺達が目指すマダム・オオヅカの館は意外とすぐに見つかった。
「に……日本家屋とか」
白い建材と瓦で作られた塀。そして石庭が模様を描いた豪華な中庭を抜けると、同じ様に瓦屋根と縁側と引き戸の門が姿を表して、カコンカコンとししおどしの音色が、俺の鼓膜に心地の良い刺激を与えた。
「珍しいですね東方の建築ですか。もしかしたら東方から来た人で、東方のルールにのっとってるからこの町の人達に嫌われてるのかもしれません」
玄関前で、ケティがそう漏らすと。
ガラガラガラという田舎特有のドアの閉会音がなり——、
「ちょっと! 貴方達がワタクシの依頼を受けた冒険者ども!? さぁ、余計な挨拶はいらないわ、探してらっしゃい大至急! あああケットンちゃん、ケットンちゃん、今から薄汚い冒険者風情が貴方を探しに行くわ、いいこいいこに言う事を聞いて頂戴〜〜〜!!」
着物を来た恐ろしい程の厚化粧デブが姿を表した。
「——ッ!? ボストロールが出たぞ、グレイトドラゴンが近くに居るかもしれん!!!」
「そんな凶悪な魔物がここに居るわけないじゃないですか! あいつらは魔族領のなかでもこの世の終わりと現世の狭間の谷という場所に居る伝説クラスの魔物なんですから!」
い、色々カスってるぞこの世界。
狼狽える俺の顔を見たマダム・オオヅカが、キンキン声で何か言う。
「あら、その顔つき……貴方、出身はどこなの?」
こ、これはまさか。マダムが興味を示しているという事は、俺は権力を使われて、男娼としてマダムの夜のお世話係をずーっと死ぬまでおえええええええ。
想像が途中で強制終了した。
俺の脳が回路を遮断したんだ。
「えっと、アレ○ガルドから来ました。オル○ガです」
「何言ってんですか、シマ。元住所不定無職の童貞引きニートの浮浪者に出自なんてある訳ありませんよ」
どどど童貞ちゃうわ!
ずっと思っていたんだが、住所不定無職がどうやって引きこもりニートするんだって話しだ。ただ蔑みたいだけって言うより、コイツの頭の中は、ただ覚えたての汚い単語を使いたがる小学生以下だって事がよくわかる。
「それ、私達は冒険者ではありません、アリエル様直属の派遣部隊、由緒正しいこの町のギルドマスターが直接指揮する派遣社員です」
ブレザーの中に収まった美乳を揺らしながら、ケティが胸を張る。言い方を変えれば、かなり聞こえは良いのだが、その裏事情は安賃金で働かされる畜生派遣社員だと言うのに。
……あれ?
ちょっと俺、大変な事に気付いたかも。
「まぁ、アリエル様の、あの方には主人も世話になってたみたいだし、そうね、信用性は抜群ね。ごめんなさいね、冒険者風情だなんて罵っちゃって、気が動転していたのよ」
あれこれ考えていると、意外な事に打ち解けたケティとマダムが家の中に入って行く所だった。何だこれ、キワモノとキワモノは惹かれ合うのか。
「あら、手乗りサイズの猫の魔獣よ? おかしいわね、書き忘れたのかしら」
ごく普通に出される湯呑みに入った玉露と茶菓子。
震える手を、沸き立つ衝動を抑えるので精一杯だった。
異世界とか言うけど、ここ、アフリカの未開拓地域とか、南米アマゾンのジャングルの中にある秘境とか、ひょっとして現世とどっかで繋がってるんじゃないのか。
「あら、そこのお方はどうなさったの?」
「ああ、この人アル中なんで、一日中こうなってるんです」
そういってケティが遠慮無しに玉露をすすり、茶菓子を嗜む。
ほんと、良い根性してるよな。
主人のオオヅカさんは、粗を東方に持つ田舎貴族なのである。
なので顔のパーツやら配分が、俺と少しだけ似ているらしく、マダムの対応はそれなりに柔らかくなった。
「あと、申し訳ないんだけど、あまりにも誰も依頼を受けてくれないもんだから、他の人にも一応頼んじゃったのよね……、こちらへ来てもらえるかしら」
身体が収まりきらない座布団に、丁寧に正座するマダムは、襖で仕切られたとなりの部屋を向いた。同じ様に俺達も視線を向けると、
「ま、そんな奴らよりもアタシに任せときなさいってマダム」
黄色いトレーニング用のスポーツブラに黒いスパッツという、細身の身体を強調する恰好にローブを羽織っただけの変態女が姿を表した。その頭部には、ピクピクとご機嫌そうに動く猫耳が——。
「この猫人族のミスチェ=プランク様にね」
変態猫女のグレーの髪、いや少しツンツンの毛並みが揺れる。
初めて見るリアルな猫耳に、心が躍った。
ええ、猫メイドカフェなんて行った事ありませんけどね。
断じて行った事ありませんよ、もえもえきゅん。
ツイッター@tera_father
処女作、テラ神父の方もよろしくおねがいします。
『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父
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