-11話- いきなり派遣?~派遣がやるのはだいたい損な仕事2~
八時にもっかい更新しますね。
次回は新キャラでます。
「じゃ、手分けして探します。俺はこっちのカフェの中。ケティ、君は向こうの住宅街を探してくれ」
そう言って颯爽と喫茶店”カフェ・メリッサ”へ向かう俺の肩を、もの凄い握力が締め上げる。これはもはや、握撃といっても過言ではない。
「いだだだだだ!」
「待ってください。ちゃんとしてください、殺しますよ」
ふ、今更ゴミを見る様な目を向けられても屁でもない自分が居る。もう散々言ってるけど、ブームが過ぎた派遣なんて、それも三十路近くの派遣なんて、どの派遣先に行っても煙たがられる。
自分より五歳近く若い従業員を班長と呼び、従わなければならないのだ。これはかなりのストレスがかかってくる。
おっさん使えねーなとか。
毎日洗濯しろとか。
それでも二十後半なんですかと。
「いいか、ダメな大人が一日複数回タバコ休憩に行くのはデフォなんだよデフォ」
「ダメ人間自称する前に働きなさい。一応仕事ですよ」
ヘタレで真面目なケティですら、一応と付ける程の依頼内容である。
愚痴らせてほしい。
俺もケティもこの町にはある意味来たばっかりだった。理由は違えど、お互い町の全容、道なんか全く知らない。ましてや、俺なんてほぼ蛸部屋みたいなあの部屋で、朝起きたら冒険家と一緒に荷物運びして、ギルドの掃除の手伝いして、挙げ句の果てに下水のドブさらい。
「ちくしょう、待遇悪過ぎだろ。ってかお金持ってないからどうせオープンテラス席に座って一日中ボーッとするだけだしな」
「どこの浮浪者ですか、良いから行きますよ」
こうして、俺とエリーはニコイチで行動する事となった。
「見つかりませんね」
ベビートレントを抱きしめて、隅から隅を見渡しながら歩くケティは少し不審者に近かった。
「お、おう。とりあえずもうちょっと離れて」
「何言ってるんですか、離れたらサボル気でしょう貴方」
一緒に歩いてるこっちが恥ずかしいとは言えない。
さて、依頼主のいうケットンとは、俗に言うペットタイプの猫型魔獣なのである。
ペットの捜索依頼が呆れ返られるのは、本当に数日したら勝手に戻ってくるからって言うのが多くを絞めているのだが、極稀に魔獣を飼ってるセレブが依頼を出す事があるらしい。
これが、冒険者の中では絶対に手を出してはいけないデッドゾーン。
俺達派遣には、そういう隙間仕事が舞い込んでくる。
「よし生き字引、ケットンってなんだ?」
「恐らくですが、風水猫と呼ばれる東方から輸入された品種の魔獣だと思われます。向こうではケットシーと言う名前で取り扱われてるみたいなので、……って誰が生き字引ですか!」
「ちょっと! 聞いてやがるんですかゴミカス!」
と肩を揺らして怒るへっぽこ召喚師は無視して、先を進める。
「まずは聞き込みだ。ケティ、とりあえずさっきのカフェに向かうぞ!」
「まぁ聞き込みするんだったら仕方ないですね。野良猫探しなんて、冒険者ギルドに行っても何の反応も頂けないでしょうし、でも絶対に奢りませんからね」
彼女の同意も出た所で、俺達は道を引き返して最初のカフェ・メリッサへと向かった。
「何飲みたい? おごるよ」
「え、お金持ってたんですか? ……ならホットミルクでお願いします」
カフェのカウンターで注文する。
俺はホットコーヒー。
そのまま席に付いててくださいと案内されてテラスのテーブル席に腰を落ち着けた。
ペットOKの家庭風喫茶のメリッサ、看板の黒猫細工がいい味を出していて、シンプルで素朴、廃れた社会でもみくちゃにされた二十九歳の俺は、かなり落ち着ける内装になっていた。
周りを見ると、ペットを連れた貴婦人方で賑わっていた。
「天気もいいし、テラス席は広々として良い感じですね」
テーブルに乗っけたベビートレントと戯れつくケティ。感情がツインテールに伝染しているのだろうか、ピンク色の触覚がみょんみょんと動いていた。
そして貴婦人らが抱えたペットがそれに興味津々。
「一応俺は真っ当に仕事をこなしてるつもりだが、お前完全に遊んでるだろ」
「な、何を言ってるんですか。たまにはほら、ベビちゃんに構ってあげないと」
「いや、四六時中、手放してねぇじゃんそれ。構いっぱなしだぞ」
アリエルに預けとけと進言したんだけど、アリエルが「粗茶で育てたら、良い香りになるのかのう」とか言い出したもんだから、ケティはより一層この子を放さなくなってしまった。
「そ、それに、閉所恐怖症っていうか……最近ずっと狭い所で寝泊まりしてたからストレス溜まっちゃってまして」
テヘヘと笑うこの女。
このヘタレが毎朝、鍵壊してでもベッドに侵入してくる意味がようやく理解できた。
「まぁんなコトどうでも良いや。とりあえず周りを見ろ——、俺がどうしてこのカフェに来たかわかるだろう?」
「……えっと、周りの貴婦人方にゴミを見る様な視線を向けられたいからですか? やっぱり、いつもの環境が無いと落ち着かないとかですか? なぁんだ、私と一緒じゃないですか」
「ちげーよ!」
馬鹿なの?
どうしたの馬鹿なのコイツ。
一つ訂正しておくが、公園のダンボール生活を余儀なくされていた頃、ゴミみたいな視線を向けるのは、だいたい小中学生を上がったくらいの糞ガキで、そこから大人になった奴らは俺を認識しなくなる。
「あくまで風景の一部としてカウントされる様になることが、プロの浮浪者だ」
「自分で言ってて恥ずかしくないんですか?」
メリッサのホットコーヒーは美味しかった。と、言うか異世界に連れて来られて初めての、長閑な日常パートと言う物だ。いつもの三割増くらいに引き延ばしてお送りしたいレベル。
一口飲んで気付くが、メリッサのコーヒーは恐らくコンビニの百円コーヒー以上、快心の出来映えだと俺の舌が告げていた。これは断じてコーヒーの味をそれしか知らないとかそんな理由じゃない。絶対違うぞ。
「ま、しょせんコーヒーの味も理解出来んようじゃ、毛が生えて来るのもまだまだ先だな」
「毛ッ!? 〜〜〜は、ははは生えてますから! 生えてますし、生えてるんで、生えてますから」
の、三段活用。
顔を赤くして、どこかで聞いた頃ある様なセリフを繰り返すケティ。
ベビートレントは気にせずホットミルクに浸かっていた。
今思ったけど、それで良いのかベビートレント。
「だいたい、良い歳こいたオッサンが、コーヒーにミルクと砂糖をだばだば入れて飲んでる方が引きますよ。ふんぞり返っていた癖に、ミルク入れるなんて乳離れが終わってないんですね」
「うぐ」と、俺の防波堤は脆くも決壊した。
良いじゃないのミルクと砂糖入れたコーヒーだって、それに”ワンオンワン”だから対して苦くも甘くもないノーマルマイルドだこの野郎。
「まぁいいやとにかく、そのケットンに対しての情報収集をするぞ。とりあえず俺はだいたい怪しい目線を向けられるから、ケティ、お前がソイツを連れてさり気ない感じであの貴婦人らの会話に混ざるんだ」
貴婦人コミュニティは同じ物を次々と引き込み、どんどん拡大して行くと言う法則を持つ。それは揺るがない強大さで、ダイ○ンの掃除機よりも吸引力の衰えない”井戸端ババアブラックホール”なのだ。
その法則を逆手に取って、逆に情報収集する。
これはケティの演技力にかかっている。
よし、ケティ行け。あくまでさり気なく昼下がりの上品な貴婦人方のペット談議に交じりつつ、必要な情報を抜き出してから逃げて来い。サービスで置いてある新聞紙を開いて、指で開けた覗き穴から彼女の様子を見つめる。
ケティがこっちを見て”ここはわたしにまかせてください”と言う風に口を動かしていた。
グッと、拳を握る。
「きょ、きょきょきょ今日は本当ににににに」
うそだろおい!
違ったよ、ここは私に任せてくださいじゃなくって、多分あれ”こんなときなにしゃべったらいいですか”だったよマジで。
そう言えばそうだった。
こいつ唯一召喚契約を結んでいたスライムにも逃げられてしまう、落ちこぼれのヘッポコ召喚師だったんだ。この様子じゃ、学校でもろくに友達いなかったんだろうな。
不憫、不憫すぎるよ。
頭を搔き毟るのは、本日二度目である。
ツイッター@tera_father
ご支援の程、ありがとうございます。
処女作、テラ神父の方もよろしくおねがいします。
『Real Infinity Online』VR初心者ゲーマーがテラ神父
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