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業火たち ーInfernosー  作者: らゅしい
第1章 遭遇
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誘拐

無事にコッペルンへ足を踏み入れた五人は、まず情報屋の行方を追うことにした。手がかりは少ない。パーマのかかった黒髪の男、身長は170センチ前後――それだけだった。


「すみません、こういう男を見たことは」


ティシが道行く人々に声をかけるが、誰もが目を合わせようとせず、足早に通り過ぎていく。ある老婆は「知らないね」と一言だけ返し、すぐに家の中へ引っ込んでしまった。露店の主人に尋ねても、面倒くさそうに首を振るだけだった。

情報屋はほとんど表に姿を見せないらしく、顔を知る者自体が少ない。半日近く歩き回っても、手がかりひとつ拾えないまま、五人の足取りは重くなっていった。


「お腹すいたなぁ……」


ウルが呟きながら、通りの屋台に並ぶ串焼きをちらちらと見つめる。炭火で炙られた肉の焼ける匂いが、香ばしく鼻をくすぐった。


「カリスぅ、一本だけ。ね?」


上目遣いでねだるウルに、カリスは小さくため息をついた。


「……仕方ないな」


渋々財布を取り出し、屋台の主人に硬貨を渡す。受け取ったお釣りをポケットにしまい込みながら、カリスは呆れたような視線をウルに向けた。

ウルは満面の笑みで串焼きを受け取ると、あっという間に平らげてしまった。よほど美味しかったのか、頬を緩ませながら店主に尋ねる。


「店主さん、これ何の肉?」


店主はニヤリと笑うと、悪戯っぽく「にゃあ」と猫の鳴き真似をしてみせた。

一瞬の間があって、ウルの顔からすっと血の気が引いていく。


「うっ……」


口元を押さえ、その場で堪えきれずえずいてしまった。ネイトが背中をさすってやりながら苦笑いを浮かべる。ウルは涙目のまま、四人の後ろをしょんぼりとした足取りでついていく羽目になった。


「ねえ、お姉ちゃん」


不意に、後ろから幼い声がかけられた。振り返ると、薄汚れた服を着た子供が立っている。まだ胃がむかついているにもかかわらず、ウルは吐き気を堪えながら子供相手にと手を膝の上に置き屈んで、優しく笑いかけた。


「どうしたの?迷子?」


子供はニヤリと口の端を上げた。


「猫の肉には魔除けの意味があるから吐いちゃダメだよ。大人なのにそんなこともわからないんだー」


からかうような口調と、先ほどの記憶がよみがえったせいで、ウルの中で何かがぷつりと弾けた。


「――こんのっ!ガ…待てー!」


子供はけらけらと笑いながら走り出し、ウルもすぐさま後を追った。狭い路地から路地へ、洗濯物の間をすり抜けながら、追いかけっこが始まる。

一方、聞き込みを続けていた四人は、次第に会話が途切れがちになっていることに気づかなかった。ふとティシが振り返ったとき、そこにいるはずのウルの姿がなかった。


「……ウルは?」


三人が顔を見合わせる。誰も気づかないうちに、いつの間にか離れてしまっていたらしい。


「ウル!どこだ!」


ティシとカリスは声を張り上げながら通りを走り抜けた。アレクトはその俊足を活かし、枝分かれする路地という路地を瞬く間に駆け抜けていく。ネイトはその場に立ち止まると、静かに目を閉じ、指先に神経を研ぎ澄ませて周囲の気配を探った。

その頃、ウルはついに子供を袋小路の壁際まで追い詰めていた。


「捕まえた!」


肩で息をしながら手を伸ばす。子供はニヤリと笑った。


「――今だ!」


その声と同時に、物陰から飛び出した男二人が、ウルの後頭部を鈍く打ち据えた。視界が白く弾け、膝から崩れ落ちるウルの意識は、そこでぷつりと途切れた。

四人はまだ必死に探し続けていた。アレクトが肩を大きく上下させながら戻ってくる。


「だめ、どこにも……見つからない……!」


息を切らし、額の汗を拭いながら首を振る。ティシとカリスの表情にも焦りの色が濃くなっていく。そんな中、ネイトだけが目を閉じたまま、こめかみに汗を滴らせながら集中を切らさずにいた。


「……見つけた」


短くそう言うと、ネイトは弾かれたように走り出した。三人はすぐさまその背中を追う。

案内された先は、木材とトタン板だけで組まれた粗末な小屋だった。周囲には人の気配がなく、不気味なほど静まり返っている。カリスは手で三人を下がらせ、扉を軽く叩いた。


返事はない。


ネイトが壁にそっと手を当て、再び目を閉じる。指先に伝わるかすかな振動と気配を読み取りながら、低い声で告げた。


「……ドアの横に一人、正面に一人。どちらも男」


その言葉を疑う者はいなかった。カリスは短く指を動かし、無言のまま二手に分かれるよう指示を出す。

扉が蹴破られた瞬間、アレクトとネイトが左側の男に飛びかかり、ティシとカリスが正面の男を叩き伏せた。乾いた打撃音がふたつ、ほとんど同時に響く。指示通りの動き、無傷での制圧――一分もかからなかった。


「……奥だ」


荒い息を整えながら、ネイトが奥の部屋の戸口を覗き込む。薄暗い部屋の隅、軋んだベッドの上に、縄で縛られたウルが横たわっていた。


「ウル!」


すぐさま駆け寄り、震える手で縄を解いていく。肩を揺すると、ウルはゆっくりと瞼を持ち上げ、目をこすりながらぼんやりとネイトと視線を合わせた。


「……ネイト?」


その一言に、張り詰めていたものが一気に緩んだのだろう。安堵からか、ネイトの目にうっすらと涙が滲んだ。何も言わず、ウルの体をきつく抱きしめる。

しばらくの間、小屋の中には誰の声もなかった。

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