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ある武官の生涯  作者: 大島久嗣
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8/11

退官

拝謁畢、奉辞陛前、退下




58歳になった。定年退職である。


まだまだお仕えしたくはあったが今後は予備役として有事あればまた武官としてお呼びがかかるだろう。


これよりは一介の公家の老人として生きていこうと思う。


その時に正三位を受け、少将となった。若き日、権少将と呼ばれていた昔ぞ懐かしき。


さらに勅許にて正三位ゆえ直衣にて参内苦しからず、帯刀苦しからずと仰せある。




いろいろとお別れなども済ませて、京に残した屋敷に戻った。なつかしき我が邸である。公家の生活に戻すまではついつい早朝に起きてしまったり、軍服を着ようとしたりしていたものだが、帝の崩御、乃木閣下のご殉死なども聞いたりなどしてそれも已まった。




しかしながら体力なぞ落としてはいざというときに侍れぬと鍛錬は欠かさず、また、家業というべき有職故実書の整理などもいたしたり、もはや舞えはせぬので龍笛などの悠々自適を暮らしておったが、時折御所の留守官より東京にてあの節会についてのことがわからぬ、この行事は何だったか、束帯の小紐の結び方がわからぬなどの問い合わせに答えているうちに大正を過ごし、昭和を迎えた。


退官時は直衣参内などあるまじ、と思うておったが、何度か雅楽の講義に伺ったり、有職故実の伝承の為参内したのであった。




後日、京にて青年将校決起の報を聞き及びては、家司申すに宮内にいつものように参向されてなくてよかったと。なぜかと聞けば、きっと束帯姿であればそのまま御前に侍っていただろうと。


確かに私がその時に宮内であれば、また装束講話の為参内しておれば権少将として午前に侍っておったであろう。老骨とはいえ御楯くらいにはなれるゆえに。







死去


追贈 叙 正三位 賜 勲二等旭日重光章

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