第八十五話 新たな力
戦闘開始の合図を告げる音。それは……俺の弾丸だった。
「バレット・セカンド!!」
あの試練で獲得した魔法は外に出てからより一層洗練され、強化されている。
今のバレット・セカンドはあの時よりも速く、正確に狙った対象へと射出されるように進化した。
少し離れているとは言っても、その距離は5,6メートル程だ。この距離から放たれる俺のバレット・セカンドは通常の人間なら回避することは出来ない。
そう、通常の人間なら、だ。
「フンッ!!」
「!」
だが、今俺の目の前に立っているのは多くの強敵との戦いを重ねてきた剣客シャドウ。
剣を抜く瞬間すら見えずに――俺の弾丸は切り裂かれてしまった。
「初めて見る魔法で御座るな。なかなか、面白い」
「……そうかい? 簡単に真っ二つにしてなかったか?」
「さらに疾き太刀筋を何千と見てきた拙者にとって、お主の魔法など蛞蝓に等しいで御座る」
それからシャドウは剣を構えなおし、切っ先を俺へと向けて「さて」と表情を変えた。
「次は、拙者の番で御座るな。拙者の剣、受けてみよ。タカサキ・ショーマ」
「ッ!?」
直後、シャドウの身体は急加速して俺へと迫ってきた。
俺達の間隔を一気に殺し、眼前へと迫ったこの剣士に俺は一瞬反応が遅れてしまった。
咄嗟にバレット・セカンドを放とうとしたが、距離が近すぎる。
これでは……撃つ前に切られてしまう。
「もう、打つ手が無いようで御座るな……御免!!」
シャドウは剣を大きく振りかぶった。
その動作は、素人の俺から見ても……鮮やかだった。
武を修めるために旅をしている。この言葉が本物だったんだと痛感させられる。この男は間違いなくその人生を武に、剣に捧げて生きてきたんだろう。
初めて出会った時から、その片鱗は見えていた。
所作の一つ一つに、積み上げられたものが見えた。歩き方、立ち方、話し方、構え方に……いや、それだけじゃない。そこには一種の”敬意”も含まれていた。
俺への敬意、強者への敬意。今振り下ろされようとしているこの剣にも、武人としてのシャドウの気質が感じ取れた。
俺が戦いを望んでいたのなら、この剣に切り捨てられる事に至上の喜びを感じただろう。
だが俺が望んでいたのは、戦いじゃない。「生きて帰る事」だった。
「シールド!!」
「むうッ!?」
俺とシャドウとの間に、透明な魔力の壁が出現した。
外に出てから新たに覚えた魔法、シールド。本来は魔法から身を守るための防御魔法なのだが、今はシャドウの剣から俺を守ってくれた。
そして俺への止めの一撃を防がれたシャドウは……大きくバランスを崩した。
ここしかない。そう考え、俺は再び魔法を唱えた。
「バレット・セカンド!!」
「それはもう……!?」
「そうだ! ここからが本番だ! 見せてやるぜ、さらに進化したバレット・セカンドを!」
シャドウは驚いただろうな。
いきなり二発の弾丸が自分に向かってきたのだから。
何とか体を捻って二発とも剣で防いだみたいだが……俺の攻撃はまだ終わらない。
「ッ!? 今度は、三発!?」
「そうだ!! 防げるかな? シャドウ」
「むうッ……! なめるなッッ!!」
案外、挑発に乗るタイプの男らしい。
俺の言葉に激高する様子を見せたシャドウは、一撃で二発の弾丸を切り裂いた。
だが、手首の返しが間に合わずに……三発目の弾丸は、シャドウの肩を掠めた。
「ぐッ!」
「まだまだ行くぜ!! バレット・セカンド!」
「!! お主,その右腕……!!」
「ははッ! ようやく気付いたか、シャドウ!」
そうだ。これが、進化したバレット・セカンド。
俺の右腕を囲むように六発の弾倉が出現し、その穴一つ一つに弾丸がセットされている。
右手の甲の上をシャドウに向けると……射出口から一発、弾丸が発射された。
「む……うんッ!!」
「まだだ、まだまだ行くぜ!!」
一発撃った後、すかさず弾倉を回転させる。
二発目、三発目、四発目……止めることなく、シャドウへ弾丸を浴びせる。
「ぐうッ……だが、その手に見えるは六発!! 後二発凌げば!」
シャドウは剣を振るい、俺の弾丸を躱しながらそう漏らした。
確かに、弾倉に残っている銃弾は後二発。打ち切れば隙が出来、再び俺に切りかかるチャンスが来るだろう。
だが、お前は知らないんだろうな。銃弾は、弾倉にあるだけじゃないんだぜ。
「甘いッ!! リロード!」
「!? まさか……無限か!? その攻撃は!?」
再び全ての弾倉に弾が装填された。
そうさ。俺の魔力が続く限り、何度だってこの銃弾は途切れない。
そしてシャドウの気が動転している今ならいける!
「くらえ! バレット・セカンド……フルバースト!」
その叫びと共に、弾倉にあった六発の銃弾全てをシャドウめがけて放出する。
フルバースト……全弾発射は隙こそ大きいが、その分破壊力は高い。
三発でギリギリだったんだ。六発もあれば……。
「さあいけ!!」
「ぐ……これ……は!!」
シャドウはまだ動揺している。
六発の銃弾は既に発射された。これで決まりだ――
「黒式剣術、〈山茶花〉!」
そう確信した瞬間、突如シャドウに放った六発の弾丸全てが真っ二つに割れた。
切り裂いた斬撃は、シャドウの周りを囲んでいる。
それはまるで……舞い散る山茶花の花びらのようだった。
「見事。全く以て、見事で御座る。まさか、拙者に技を使わせるとは」
「何……?」
いつの間にかシャドウの動揺は消え去り、その代わりに背中を刺すような殺意を俺に向けていた。
剣を鞘に納め、再び構え直したシャドウ。
その目は、完全に俺を獲物と捉えていた。
「失礼した。まだ全てを名乗っていなかったで御座るな。拙者は黒式剣術、免許皆伝を仰せつかったシャドウと申すもので御座る。タカサキ・ショーマ殿。お主を我が宿敵とみなし……今一度、全力を以て剣を交えさせていただきたい!」
剣客シャドウ。その強さを、俺はまだ知らなかった。




